57 Dランク昇級試験 ウラ
Dランク昇級試験は、模擬戦用武器を使った対人戦闘だ。
つまり、受験者は試験官である“竜の咆哮”のひとりと戦うことになる。
用意されていた武器は木製だったけど、木製とは思えないほど重い。
コレってそのまま打撃武器として使えるんじゃないの?
わたしは身長より少し短い棒を。ウラさんは、身長より長くてしなる棒を選んだ。
ウラさんは僧兵の鍛錬で、長棍術をやっているらしく、長い棒の扱いは馴れているそうだ。
いつも使っている両手棍は、長棍の分類なんだって。
わたしはいつもの短矛に合わせた長さの棒を選んでいる。
ふたり揃って“木の棒”だよ。あはは。
そして、Dランク昇級試験が始まった。
試験の順番は、最後にやって来た普通っぽい革装備をしている人たちから始まった。
試験条件を達成した者から、順に呼ばれているらしい。
条件というのは、“Eランク魔獣をひとり五十匹買い取りで納品”というアレね。
わたし達がこの条件を達成したのは一昨日のことなので、呼ばれるのはだいぶ後じゃないかな。
ちなみにDランク昇級審査は、週ごとに行なわれているそうだ。
革鎧を着た男の子が、両手剣(の模擬剣)で試験官に打ちかかる。
試験官は例の大男だ。
大男は、少し小ぶりな両手剣(の模擬剣)を片手で使い、男の子の打ち込みを楽々と捌いた。
リッケさん達を見ているから粗が見えるけど、さすが試験官を任されるだけのことはあるのか、動きに余裕がある。
身体の大きさと剣の大きさがバランスしているせいで、普通に片手剣を使っているように見えるのが、見ていておもしろい。
お酒を飲むとダメになるタイプかな?
少しして男の子が防具を打たれて交代した。
次に出てきたのは、前の子と似た防具を着けた女の子だった。
武器は槍だ。長さは背より高いくらい。つまり、ウラさんの棒と似たような長さだ。
試験する側も交代して、こんどは細身の三下が出てきた。
こちらの武器は短剣と、腰の後ろに短弓を携えている。
あんなに間合いの違う武器でいいのかな? とは思ったものの、良いからあの武器で試験官するんだよね。と考え直す。
わたしが心配することじゃないね。
お手並み拝見といきましょう。
女の子が突く、突く、突く。
三下男が躱す、躱す、躱す。
けっこう余裕を持って躱している。
意外と俊敏だ。
「ねえウラさん。あの女の子、なんで同じように突くしかしないんだろ? 周りは広いんだから、少しは振り回してもいい気がするんだけど」
「それしかしたことがないんじゃないでしょうか」
「したことがない?」
「はい。防具が同じですから、彼女は最初の子と次の盾持ちの子で合わせて三人組なのでしょう。盾持ちが魔獣の正面を取って、槍と両手剣の子がその脇や横から攻撃するという段取りで、Eランクの魔獣を狩ってきたのではないでしょうか。そういった状況で下手に槍を振り回せば、味方に害が及びかねません。それに、槍は刃が穂先にしか付いていませんから、刃を振るう場合は相手との距離を正確に定める必要があり、刃立てを考える必要もあってかなり技量を要します。刃の付いた長棍として打撃力に期待するなら、柄を太く重くする必要がありますし、その場合の扱いには筋力や身体強化による膂力が必要となります。どれもこれからDランクになろうとする者に求めるような技能ではありません」
「なるほどね」
兄さんに言われるまで、わたしも近接戦では槍を使おうと考えていた。だけど、これはこれで難しいんだね。
斬撃に向いた槍として薙刀という武器があるけど、扱いが難しいと聞いていた。
あれはそういう理由だったのか。
わたしの場合、刃立ては手の感触で、距離感は視覚の他にも聴覚や皮膚感覚で、最初から正確につかめていたと思う。
テニスの最適打点と同じような感覚で、自然につかめていたので、気にしたことがなかったんだよ。
それは猫族の身体のせいか、ウィアが創った神人の身体の性能なのか。
いずれにしても今の説明で、かなり狡だというのは分かった。
槍の女の子はしばらく打ち合った後、逆手に持った三下の短剣に槍を外へ流され、そのまま距離を詰められて終わった。
†
「次、ウラ」
同じような感じで十三人の試験を終えた後、資料部のマヌエラさんがウラさんを呼んだ。
「ウラさん、いってらっしゃい」
「行って参ります」
相手方からは、大男が出てきた。
三下男が先日の雪辱に出てくるかとも思ったけど、そんなことはないらしい。
まあお酒が入ってないから、前回のようには行かないだろうけどね。
剣道よりもだいぶ広い間合いで、向かい合って立つ二人。
「始め!」
開始の合図がかかった。
ウラさんが一歩踏み込み、大きく長棍を振る。
それをやはり大きく振り払う大男。
長棍と両手剣(の模擬剣)が打ち合ったと思ったら、長棍がしなった。
打ち合った部分から先がしなり、先っぽが横を向いて両手剣をすり抜ける。
打ち合った部分からウラさんの手元側にかけては、まっすぐなまま両手剣を抜け、後を付いてきたしなりが、剣を抜けたところで真っ直ぐに戻ろうとする。
戻るしなりが、勢いを増して大男の顔に向かって走った。
ヒット───!
するかと思ったけど、ぎりぎり頭をのけ反らせてかわしたみたいだ。
残念!
大きく顔をのけ反らせた大男に向かって、長棍を逆に構えたウラさんが、さらに一歩踏み出そうとして───
「待て」
横合いから声がかかった。
「ロアよ、交代せい。ワシが出る」
「なんだとっ!? ここで出るのか?! ダス!」
「一つくらい出よと言ったのはお前であろう。ならば出る場はワシが選ぶ」
「…………」
「構いませんか? ウラさん」
そう尋ねたのはマヌエラさんだった。
「構いません」
ウラさんが、交代を了承した。
それにしても、ここまでずっと大男と三下しか登場してなかったんだけど、ここに来て矮族さんが出てくるのか。
それも途中から、自己申告で。
どうなっているんだろう? このパーティー。
というか“竜の咆哮”って言うパーティー名って、自分の名前を付けたの!?
あの大男、ロアって名前なんだ。
全然知りたくなかった情報だよ!




