56 Dランク昇級試験
「おはようございます、リシュヌさん」
「おはようございます」
「おはようございます。ミユキさん、ウラさん」
「今日は昇級審査を、よろしくお願いします」
「はいこちらこそ、よろしくお願いしますね」
ウラさんと二人で、朝から冒険者ギルドへやってきた。
今日はDランク昇級審査の一日目、『Dランク昇級試験』の日だ。
案内を受けて奥へ進むと、建物の裏手にある訓練場に出た。
建物から裏手に出てすぐのところが、屋外訓練場になっていた。
中学校の運動場ほどの広さで、外周は塀で囲われている。そして建物から出てすぐの所に、さらに塀で仕切られ屋根も設けられた部分が、グラウンド全体の二割ほどあって、雨天でも訓練できるようになっている。
昨日の神殿地下の訓練場と比べてはいけないけど、わりと……オープンな訓練スペースだ。
ここが本日の昇級試験を行なう会場になる。
すでに来ていた六人がこちらを見て、すぐに視線を戻した。
男の子が五人、女の子が一人。
当り前だけどみんな緊張しているみたい。
あと、わたし達より若い子ばかりで、見た感じは高校一年生か二年生くらいに見える。
こちらでは十五歳で成人するとEランク冒険者に登録できるので、そこからEランクの魔獣を五十匹買い取り納品して、さっそくDランクへの昇級に挑戦しに来たっていう感じかな。
うーん、フレッシュな感じが初々しい。
年がすこし違うだけで、わたしたちも同じDランク志望者なんだけどね。
彼らの見た目からも、新人感がにじみ出ている。
装備がわりと貧弱なのだ。
きちんとした装備を着けている人はいない。
革の胸当てをしているのはまだいい方で、革の手袋をしただけの普段着が多い。
槍は木の棒の先を尖らせただけのものだし、中には軍手のような粗布の手袋をした人や、鍋蓋みたいなものを腕に縛りつけて盾代わりにしている人もいる。
あれ滑ったりしないのかな?
鉄の武器を持つ人はいない。
わたしは今日も、いつも通りの市中装備だ。
レベル16まで使えるスケイルアーマー一式から、兜を鉢金に、主武装を短矛から短剣二本に替えた軽装備だ。
というか、短矛を収納から直接出し入れするようにしてからは、段々こちらが標準になりつつある。
ウラさんはいつもの神官法衣から薄茶色の丈夫そうな外套へと着替え、主武装と頭装備は市中用の短丈と金環を着けている。
ウラさんの着ている外套は、きのう神殿から帰るときに「明日の冒険者昇級審査に着て行くように」と、神殿の人から渡されたものだ。
徒手戦闘職である僧兵として、飛んだり跳ねたりするのにふさわしい格好をするためかな? と思っていたのだけど、こういう場所へ神官の法衣で来ると、まず回復職として扱われてしまうため、いろいろ混乱させないための配慮らしい。
そういやウラさん、回復職としてなら冒険者Bランク相当だって言ってたね。
SNFを始めた時、わたし(と月那)は、装備一式を兄さんから貸してもらったため、新人としてはかなり恵まれた状態でゲームをスタートした。
大地母神に呼ばれてこの世界へ来たときは、ゲームで持っていた物品一式がこちらでも使えたため、あまり違和感を感じることがなかったのだけど、現実だと装備を買い揃えるところから始めないといけないわけだ。
いま気がついた。
それはゲームでも有り得たことなので、兄さんから装備を借りたことで、最初の街での楽しみが一部失われた残念さと、いざこの世界で冒険者をする事になって、現実に余裕を持つことができた有難さの狭間で、ちょっとモヤッとした気分を感じている。
当り前だけど、同じことをするなら現実の方が“難度”が高いらしい。
ああ、だから遊戯なのか。
つまり、現実で実現するには“難度”の高いあれこれを、仮想で楽しむ。ということなのね。
わたしが今「最初の街での楽しみが……」と言ったことも、現実のここの人たちにとってみれば、「何を贅沢なことを……」の一言で終わるだろう。
余裕ができた分、いろいろ条件を変えて試せる。
確かに、死亡や大怪我で即退場になる“現実”では、できない楽しみ方だよね。
すこし待っていると、さらなる参加者がやってくる。
その中にはいい装備を着けた人たちもいた。
中には、わたしやウラさんに遜色がない装備を着けている人もいる。
親がランクの高い冒険者だったりしてね。
彼らを見ていると、宿屋のヨアンナちゃんが「いい装備ですよ! それなら上を目指せるEランク冒険者に見えます」と言っていたのか腑に落ちる。
世の中いろいろなんだな。
そしてやって来た、職員の制服を着た女性。
それは資料室で会った、司書のお姉さんだった。
すらりとして背が高く、相変わらずの美人さんだ。
試験官、なのかな?
その後ろについてやって来た、男三人と女性が一人。
「ねえウラさん、あれ……」
「はい、宿の女将さんが『熟練のCランク冒険者』と呼んでいた人たちですね」
なんということ。
ウラさんと二人でDランク冒険者を目指すことになり、昇級審査に参加申し込みしたその日。宿を探した最初のお店“手桶亭”で、わたしのお尻に触ろうとした不届きな酔っ払いと、その腰巾着の三下男がそこにいた。
面倒にならないといいな。
†
「ではDランク冒険者昇級試験を始める。参加者の諸君はこちらへ集合するように」
司書のお姉さんがみんなを呼び集めた。
散らばっていた人たちが、お姉さんのもとへと集まる。
参加者は総数十八名のようだ。
「これからDランク昇級試験を始める。
私は冒険者組合、ゼーデス王国王都支部、資料部のマヌエラだ。
試験内容は簡単な模擬戦闘だが、相手をするのはCランクパーティー“竜の咆哮”だ。君たちは負けるだろう。そんな状況で君たちがどう行動するのかが問われる試験となる。棒立ちでただ攻撃を受けて終わるのであれば、採取以外の依頼は受けられない。きちんとしたDランクにならなければさらに上のランクに上がることもない。医術班は用意してある。致命傷にだけ注意すれば、魔術も技能も使い放題だ。諸君、奮起したまえ!」
うわー、煽るね、司書のお姉さん。
マヌエラさんか。
資料室で少し話したときは、すこし気怠げだけど理知的なお姉さんという雰囲気だった。
これは、この場の雰囲気に合わせて演じているのかな?
役者だねぇ、マヌエラさん。
それにしても模擬戦か。
昨日からずいぶん模擬戦祭りが続いているよね。
おかげで調子が上がっているから、すこし気が楽かな。
相手は“竜の咆哮”ってすごい名前だ。
中身があの大男と細身の男なら……さすがに今日はお酒が入っていないだろうから、油断はしない方がいいか。
腐って(いて)も、Cランク冒険者だし。
残りの二人は……。
矮族の盾使いと、猫族のお姉さん。
SNFの通りなら、矮族は小さいけど腕力は強く、でも体重が足らないので前衛向きじゃなくて、どちらかと言えば後衛向きだったはずだけど、盾使いなんだね。
最後の一人は、わたしの体と同じ猫族!
こっちへ来て初めて見た“キャットピープル”は、きれい格好いいお姉さんだったよ!
こっちの二人と当たるといいかな。
ことし最後の更新です。
年始はお休みをいただき、一月第二週か三週頃から更新を再開する予定です。
それでは皆さま、よいお年をお迎えください。




