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50 神殿で修行 剣術    


「それでは始めましょうか、ミユキ殿」

「はい、よろしくお願いします」


 魔術の訓練を終え、ハイケ(神殿術士団長)さんに代わってリッケ(神殿騎士団長)さんと相対あいたいしている。

 場所はそのまま術士団の訓練場。

 これからここでリッケさんに、手持ち武器(おもに剣)での戦闘を指南してもらう。


 射場しゃじょうはさんで両側にある訓練空間の一方を使っていて、射場の向こうからは魔術の着弾音が続いている。

 ごめんなさいね、場所を取っちゃって。

 リッケさんが「指南するものとされる者、全員がそろっている事だし、このままここで続けてはどうか?」と提案して、ハイケさんがそれを受け入れたのだ。


「と言っても、私から教える事はさほどありません」


 あれ? そうなの??


明日あす明後日あさってと、Dランク冒険者への昇級審査ですね。武器の基本的な使い方と練習方法はそこで教えられます」


 首を傾げているわたしに、リッケさんが解説してくれた。

 ああ、講習会があるって言ってたもんね。


「武器の振り方については重複ちょうふくけまして、その先の修練法であるかたでは歩法あしさばきが加わるのですが、歩法あしさばきについてはタイロン老師に教えていただいた方がになりますので、そちらにお任せします」


 なるほど。

 すると何か別の事をするってことかな?


「ということで私の講義では、二点ほど体験をしていただこうと考えています」

「はい、よろしくお願いします」

「では先ほどつくられた“火術剣ファイアソード”で、私の一撃を受けてください。それぞれ一撃しかしませんから、よく見てください」

「はい!」


 おお、わたしの“火術剣ファイアソード”がさっそく出番だ!


 リッケさんが“両手剣”を構える。

 わたしも、先ほどからずっと持っている片手剣の“柄”に“火術剣ファイアソード”を産み出して、体の前に構える。

 片手剣だと、半身になって正眼にならないので、ちょっと変な感じだ。


 リッケさんはそれこそ剣道のように踏み込み、両手で大上段に振りかぶって、真っ直ぐ剣を振り下ろしてきた。

 両手剣のスイートスポットが、わたしめがけて落ちてくる。

 わたしはその場で剣を振り上げ、落ちてくる両手剣を斜め下から迎え撃つ。

 ふたつの剣が打ち合い、両手剣が火術剣ファイアソードすり抜けてきた(●●●●●●●)!!


 両手剣がわたしの顔へと迫る。

 いやそれより、フォアハンドで振り抜いた腕に先に当たる。

 両手剣が止まる様子はない。

 両手剣と交差した魔術剣が、両手剣の反対へ抜けた。

 剣を持つ手の肩を両手剣の軌道から外すため、うしろの足を軸足の外へ出す。

 腰を回して、体も両手剣のコースから外す。

 体は両手剣のコースから外れたものの、剣を持つ手はまだコース上に残ったままだ。ほおっておいたら手が切断されちゃう!

 空いた手の籠手こてで両手剣の横腹しのぎを叩きながら、反動で剣を持つ手を体に引き寄せて、体をコースから完全に外す。

 リッケさんの両手剣が、水平よりすこし下がったところで止まった。

 わたしの体はその両手剣と平行になり、剣を持つ手側の足を半歩下げた状態で止まっていた。


「ふぁ────、びっくりした」


 息を吐き、最初に声を出したのはわたしだ。


「よくけました。上等です」


 リッケさんが言う。

 これが目的だったわけか。


「魔術剣って剣身がないと、相手の剣がすり抜けるんですね」

「ええ、普通の魔術剣ですと、芯になっている実体の剣身で切り結びますから。それがない場合、相手の剣に強く作用するほどの魔術を発動していないと、今のようにすり抜けられてしまいます。火属性の制止力は、爆発でもさせない限り四属性中で最低ですからね」

「そうなんですね、教えてくださってありがとうございます。助かりました」


 どこかで敵性の相手に先に知られたら、たまったものじゃないからね。

 人間相手に刃物を振り回す予定はないけど、ここは何が起こるか分かったものじゃないから油断が出来ない!


「いえ。では今のことを踏まえて、もう一本をいきましょう」

「はい。よろしくお願いします」




 リッケさんと、再び相対あいたいする。


 先ほどの受け方を反省して、火術剣ファイアソードの温度は十万度にした。

 ハイケさんが「鍛冶かじで鉄を溶かすのが千度ほど……」と言っていたので、単純にその百倍を考えてみたのだ。

 十倍では少し心配だったので……。

 でも百倍なら、鉄でも一瞬で溶けてくれるでしょう。

 溶けるよね?


 十万度という温度もイメージしただけで、実際に十万度になっているのかは不明なんだよね。

 うちの魔術剣の温度を、ちゃんと測る方法ってないかな……?

 いやいや、ともかくリッケさんの授業に集中集中。


 先ほどと同じ形で、わたしとリッケさんが向かい合う。


 今度のリッケさんは、左袈裟(けさ)で斬り下ろしてきた。

 わたしの右上から両手剣が降ってくる。

 わたしは半歩前へ出て、左から逆袈裟ぎゃくけさに斬り上げる。

 テニスのバックハンドで打ち上げる要領だ。


 そのふたつの剣が打ち合う直前、世界が静止した。


 なんだこれ!



    †



 リッケさんから剣のなんを受けることになって、その二つ目。

 お題は、リッケさんの打ち込む両手剣をわたしが火術剣ファイアソードで受けること。

 一つ目では火術剣ファイアソードの火力が足らずに、両手剣が火術剣ファイアソードを突き抜けてきた。

 そして火術剣ファイアソードの威力を上げてのぞんだ二つ目、ふたつの剣が打ち合わされる直前、世界が静止したんだよ。

 目に見える景色が、こおり付いたようにまる。


 なんだこれ!


 これは“加速思考”の光景? でも“加速思考”は使ってないよ……。

 なんでこんな事になっているのか分からないまま、静止した景色から影のようにうっすらとした光景がにじみ出す。

 その景色が動き出して先へ進む。


 打ち合ったリッケさんの“両手剣”と、わたしの“火術剣ファイアソード”。

 “火術剣ファイアソード”が“両手剣”を、剣身(なか)ばで蒸発じょうはつさせていく。

 温度設定は順調のようだ。

 そして“両手剣”が両断されたところで、剣先が柄側から離れて飛ぶ。

 そうか、さっきのようにすり抜けてくるわけじゃないけど、“魔術剣”で剣戟けんげきそのものは止められないんだ。


 光景は続く。

 離れていく“両手剣”の剣先とつか側の間に入り込んで、剣の軌道を回避した。

 そのほっとした一瞬を突き、先のなくなった剣がそのまま止まることなく一周して、再びわたしに襲いかかる。


 剣を持つ、わたしの手が切り裂かれた。


 なんでだー!




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