5 昨日《一日前》 後編
「兄さん、わたしと月那が違う国にいるのよ。どうして?」
「ん? 所属国もサーバーと同じで基本は無作為だぞ。
選んだ種族が作った国というのがあるから、種族ごとに所属しやすい国というのはあるけどな。
取扱説明書の“始め方”の最初に書いてあったろう。
だから一緒に始めたいなら種族を揃えておくと問題が起きにくいんだよ。
さすがにサーバーが違うと出会える可能性がまったく無くなるんで、そっちは救済策が始まって、レベル20以上になっているキャラクターから誘う形で年間5名まで呼べるようになったけどな。カインに変わる」
【カイン】同じサーバー内なら、あとは移住してくれってことだ。
【ミーユン】ガーン。なんてこと!
【カイン】コマンドラインでこんな風に入れてみてくれ。自分のもやってみるといい。【/検索 相手の名前】 先頭の /(半角スラッシュ)がコマンド開始の指定になってる。打つと範囲の選択肢が出るから、“この世界”指定で。
【ミーユン】わかった。
【ミーユン】出たわ。<ナル レベル1 ドワーフ クワン神国 王都セリエス 中央広場>。合ってる。
【カイン】よし。同じ世界に入れているのが確認できた。
それなら出来ることは三つある。
一つ。
どちらか一方が、“二週間無料体験パック”か“格安体験”を、もう一方と同じ所属国になるまで使う。
長所は、お手軽即効。
短所は、格安は僅かながらお金がかかる。もう一つ、たぶん申し込みをするたびに名前を変えなきゃいけない。
【ミーユン】却下ね。名前はもう決まったの。
【カイン】二つ目。
俺のカインで護衛しながら、どちらかがもう一方の所属国まで徒歩で移動する。
長所は、名前が変わらない。上手く行けば三つ目より時間がかからない。
短所は、順調に行っても実時間で数時間かかる。あと魔獣の一匹や二匹なら問題ないんだが、一度にたくさんに襲われると倒される場合がある。俺以外がね。そうすると最初からやり直しになる。
【ミーユン】………もう一つは?
【カイン】三つ目。
普通にレベルを20まで上げて騎乗資格を取る。騎乗中は魔獣に襲われないから、騎乗でもう一方の所属国まで移動したあと、神殿で“レベルリセット”してレベルを1に戻す。そこから改めて二人で始める。
長所は、安全確実。一度取った資格はレベルリセットしても残せる。たとえば騎乗を残せばレベル15で制限時間の半分だけ乗れるようになる。レベル20になれば無試験で元通りに乗れるようになる。
短所は、それなりに時間がかかる。移動する方は自分の所属国の初期依頼は二人で一緒にはできない。
どうだ?
【ミーユン】…………………
【ミーユン】兄さん。
【カイン】おう。
【ミーユン】三つ目でやろうと思う。
【カイン】そうか、それじゃあ今から「カイン」をクワン神国へ移動させて、真幸に渡したのと同じ装備をお友達に渡しに行くよ。仮登録の今は宅配機能が使えないからね。
早ければ五分ほどで、遅くても二十分以内にはそちらに着けるから、“依頼”でも受けながら待ってて。
【ミーユン】五分?! なんちゅう速いのよ。
【カイン】レベルが上がると、移動方法も増えるんだよ。お、居た居た…………………空路移動中………。
【ミーユン】…空路……。
【カイン】それでどっちがレベル上げして移動するんだ?
ってあら、クワン神国の港へ到着だ。広場へ行くね。
【ミーユン】七分! はやっ!
<【カイン】は【ナル】に手を振った>
<【ナル】は【カイン】に丁寧にお辞儀をした>
<【カイン】は【ナル】にトレードを申し込んだ>
【カイン】をを、もう感情表現コマンドを使っている(驚)。覚え早いなあ。
いま渡したのはおしゃべりアイテムのリンクフィラーね。装備して、使い方は「ミーユン」に聞いてください
【ナル】はい。
【ナル】真幸のお兄さん、佐橋月那です。お世話をかけますがよろしくお願いします。
【カイン】ご丁寧にありがとう。真幸の兄の敦守達弥です。リアルも絡めたイベントと思えば、これもまた楽しいってね。
ただ、今はリンクフィラー会話でぼくら三人しかいないからいいけど、オンラインゲームでは本名で呼ばない。本名で名乗らない。ね。
【ナル】はい。分かりました。
【カイン】装備はこの街に居るうちの倉庫アバターから渡すので、そっちに代わります。 二つ渡したリンクフィラーの一つはその子に渡してください。 名前は「エイル」です。
【ナル】はい。
【カイン】ログアウト。
<【エイル】は【ナル】に手を振った>
<【ナル】は【エイル】に丁寧にお辞儀をした>
<【ナル】は【エイル】にトレードを申し込んだ>
【エイル】トレード申請が飛んできた!
【エイル】カインです。交代完了。リンクフィラーも装備完了\(^^@)/
【ナル】お帰りなさい。カインさん
【ミーユン】お帰りなさい。エイル
<【ナル】は【エイル】に拍手した。(パチパチパチパチ)>
<【ナル】は喜んだ。(ワーイワーイ)>
【ナル】エイルちゃんもかわいいです。身長同じ。
【エイル】うーん、すっかり馴染んでるな。適応が早いw
<【ナル】は照れた。(クネクネ)>
【エイル】(^_^; それでどっちがレベル上げして移動することにしたの?
【ナル】わたしでお願いします
【ミーユン】わたしは何かあっても、部屋で兄さんに聞けるしね。
【エイル】了解。 あとな、レベルリセットでレベル1へ戻す前提なら、最初のレベル20までは前衛でやった方が効率が良いよ。 というか最終的に術士にするつもりならなおのこと、前衛職のレベルを上げた状態で、術士の“鍵の要る依頼”を済ませておくと、あとの苦労が少なくなる。
【エイル】それで、ナルさんのレベル上げだけど、うちは高レベルの支援系術士キャラクターを持ってなくて、養殖が出来ないので次善の策。 二人で近くのダンジョンでレベル上げすると効率がいいから、このエイルでナルさんをサポートしようと思う。
【エイル】エイルは今レベル3で、回復と支援の術士向けの“鍵の要る依頼”は済ませてるし、移動も二人の方が安全になるので。いい機会だから【エイル】にも騎乗資格を取らせようと思う。
【ナル】はい。よろしくお願いしますカインさん。あと呼び方はナルで結構です!
【エイル】ただ今夜は友人のクエストを手伝う約束になっているので、パーティー組んでレベル上げするのは明日からね。
【エイル】明日は時間が合わせられるので、何時でも何時まででもOKだから、時間決めてメール入れといて>ミーユン。 呼び捨ては追い追いで(^_^;
【ミーユン】ほーい。
【エイル】なのでお互いの分身で市内観光しつつ、NPCに片っ端から話しかけて、できる依頼を進めておいて。騎乗も“鍵の要る依頼”なので、街への貢献度が足らないとレベルが上がっても“依頼”自体出てこないから。
【ナル】はい。
<【ナル】は【エイル】に敬礼した>
【エイル】それではまた明日。ログアウト (@^^)/~~~
【ナル】行ってらっしゃいカインさん。明日はよろしくです。
【ミーユン】いってらっしゃい、兄さん気をつけて。
<【ナル】は【エイル】にサヨナラした。(バイバイ)>
行ったわね。
「問題解決…の糸口は見えましたね」
ホントにもう。初っ端から躓いちゃって。せっかくの計画が台無しよ。
「いいじゃないですか。お兄さんのおかげでその躓きも何とかなりそうなんだし。うまく行ったら今度お礼しなきゃですね」
お礼なんていいのよ。今度おごらせてやるわ!
「そんなこと言って、頼りにしてるんじゃないですか? まっ先に頼ったのがお兄さんでしょう」
それは兄さんに勧められたゲームなんだから。
「それだって、わたし達から相談したんだし、お金をかけずに始められたのも、そもそもこんなゲームができるコンピューターを選んでもらってるじゃないですか。このゲームってどのコンピューターでもできる訳じゃないんでしょう?」
そうらしいわね。よく分んないけど。
「頼りになってるじゃないですか」
頼りに…なってるわよ。
「27歳でしたっけ?」
そう! おじさんだよ!
「明日が楽しみです」
むう…。
「まあまあ膨れずに。晩ご飯は何がいいですか?」
キッシュ。 ベーコンと菜の花のやつ。
「はいはい。じゃあお買い物に行きましょうか」
うん。
ログアウト。
「ログアウト」