49 神殿で修行 魔術剣6
“属性魔術剣”についてハイケさんから指導を受けていると、何度か試行錯誤しているうちに、それらしきものができあがった。
おめでとう、わたし!
ありがとう、ハイケさん、ナタリアさん!
ありが……?
あり? リッケさんは何でここにいるのかな?
「こんにちはリッケさん。リッケさんはどうしてここにみえるのでしょう? インゲルスさんから、この後行くように言われていたんですけど」
「ミユキ殿を待つつもりだったのですけどね。タイロン老師がいらして、『どうせなら魔術の訓練を見に行こう』と仰られたので、見学に来たのですよ」
「タイロン老師?」
「ご紹介します、こちらは客員指導者のタイロン老師です」
うわぁ、リッケさんのタイロンさんへの扱いがメチャメチャ丁寧だ。
老師って偉い師匠さんのことだよね? たしか。
リッケさんの横にいるお爺ちゃんに目を移す。
「初めましてタイロン老師、わたしはミユキと申します。リッケさんたちには大変お世話になっています」
「おお、これはご丁寧にありがとう。儂はタイロンと申す。ここで時おり体術を教えておる爺じゃ。こちらこそよろしゅうな」
「体術? 徒手の戦闘法ですか?」
「ほう、分かるのかい」
「わたしは弓士で身近ではありませんから、漠然と想像する程度ですが」
「そうかそうか。そこに居るウラは儂の弟子で、修行をみておるよ」
ウラさんの先生か!
ウラさんの方を見ると、頭を下げている。
そうかー、僧兵の修行はこのお爺ちゃんがつけているんだ。
「それは、相方がいつもお世話になっております」
わたしも頭を下げる。
「いやこちらこそ。うちの弟子が世話になっておるようじゃ。これからも仲良うしてやってくれ。今日はインゲルス殿のところに挨拶に寄ってみれば、面白い御仁が居るので、一手指南して欲しいと頼まれたのじゃ。今はハイケが教えているというのでな、どんな御仁か興味があって覗きにきたのよ」
「ミユキ殿、老師には私とナタリアも指導を頂いております」
「私もです、ミユキ殿」
ハイケさんナタリアさんそれにリッケさんまで、まとめてタイロンさんの教え子なのか。
ウラさんのような本業の弟子(?)というわけではないみたいだけど、団長二人とその副官にまで教えているなんて、このお爺ちゃんどれだけ達人なんだろう……。
「まあ邪魔をするつもりはないので、予定通りにやってくれ。儂は隅で見せてもらうよ」
「ありがとうございます。とは言っても予定していた行程は概ね済みまして、あとは総括するだけですので、そうお待たせすることはないと思います」
「わかった」
そう言うと、タイロン老師とリッケさんは少し後ろへ下がった。
そしてハイケさんがこちらへ近付いてきて、話を始める。
「お疲れさまでした、ミユキ殿」
「お疲れさまでした」
「途中あれやこれやとありましたが、無事に【火術剣】が発動できまして、おめでとうございます」
「ありがとうございます。これも指導してくださったハイケさんとナタリアさんのお陰です」
「いえいえ、ミユキ殿の精進の賜物ですよ。私としては魔術剣を発動するまでの行程と、“火属性”の問題点を伝えられれば、あとは“火壁”をできるところまで進めて良しと考えていたのですが、この短時間で【火術剣】を完成させてしまった手際はお見事でした。流石です」
「ありがとうございます。でも途中の“火壁”を鎧にする部分を飛ばしてしまいました。あれは依頼が達成可能になる指標と言われていたところなので、押さえておきたかったんですが……」
主語はわざと省いた。
タイロン老師やナタリアさんが、どれほどウィアの話を聞いているか分からないから。
「なに、じきに出来ますよ。旅の間にたっぷりと練習できるでしょう。射出系の魔術と異なり、“壁”系魔術は移動しながらでも連続して使えますからね」
そこを考えてくれたんだ!
やっぱり素敵だね、ハイケさんは。
「それで“火属性の魔術剣”を教えてくださったのですか。ありがとうございます」
「【火術剣】を使えるようになった貴方なら、“壁”を自分に追従させることも出来るでしょうし、うっかり周囲を燃やしてしまうことも……まあ無いでしょう」
「はい!」
「ところで少々ご相談なのですが……」
と、ハイケさんが声の調子を変えてきた。
「なんでしょう?」
「これは断ってくださって構わない話なのですが、あの【火術剣】は、どういう理屈で剣身なしで揺れずに振れていたのでしょうか? よろしければ教えていただけないかと思います」
「構いませんよ。お二人に教えられながら考えた術ですから、皆さんと成果を分かち合うのに吝かではありませんよ」
「よろしいのですか!? これはたぶん、冒険者組合あたりへ持ち込めば、報奨金が出る案件ですよ」
「そうなんですか? んー、じゃあこういうのはどうでしょう? この情報を大地母神神殿へ喜進します。攻撃魔術と武器に関する事なので、犯罪などに使われないよう取り扱いに注意してもらいたいと思いますが、それ以外はお任せします」
「ああ大地母神様と、その使いたるミユキ様に感謝を捧げます」
どうやらわたしの【火術剣】は、普通の“魔術剣”とちょっと……だいぶ違っているらしく、ふつうは実用的でない剣身なしの魔術剣が、実用レベルで完成しているらしい。
でもわたし自身はこれしか知らないんだよね。
だから細かい違いはよく分かってない。
そんな流れで、わたしが【火術剣】を構築した経緯を、ハイケさんたちに教える事になりました。
「なるほど、つまり壁系魔術を剣身に纏わせる代わりに、属性防御魔術を筒状に固定して、その中へ壁系魔術を押し込んだということですね。防御魔術は形状が安定しますから、それを振り回しても中の壁魔術は揺らがないと。しかも実体に対する防御ではないので、目標が通り過ぎて中の“火”に触れた瞬間、壁魔術、いえ柱魔術の影響に晒されると……。いや、お見事です!」
「やだなあハイケさん、大げさですよ。わたしは手持ちの技能を組み合わせて、教えられた“魔術剣”っぽくできないかとジタバタしただけなんですから。たまたま謎解きがうまくハマっただけなんです」
「なにを仰います、ミユキ様。その試行錯誤がこの成果を生んだのです。これは革命ですよ」
「それは大袈裟でしょう」
「いえいえ、われわれ魔術士が近接戦闘をするのに金属の剣を必要としないということは、それほどの意味を持つのです。たとえばコレです」
そう言って出てきたのは、魔術剣に使った模擬戦用刃引き剣とは反対側に下げていた、かわいらしい“短い杖”でした。
「ふだん使っている長丈の、予備に持っている短丈ですが、これが近接武器として使えるようになるのです。本来なら、砲台であるわれわれ魔術士が近接戦闘をする状況などあってはならないのですが、戦場では何が起こるか分かりません。そんな時にいつも使っている道具に斬撃性能を持たせられるという安心感は、とても大きなものがあるのですよ」
かなり熱っぽく語るハイケさん。
わたしはそんな厳しい状況は知らないけど、ハイケさんたちはこれまでそう言うに場面に何度も立ち会ってきたのだろう。
「長丈で使えば槍のようにも使えますしね」
そうか、魔術剣だと薙いでも使えるから、薙刀みたいな使い方もできそうか。
案外融通のきく武器になるかもしれない。
「それに鉄の剣身が無くなると、それだけで魔力の通りが良くなるので、同じ魔力を使ってより強力に、威力が同じならこれまでよりも少ない魔力消費で運用できます。いい事だらけですよ、夢が広がります」
ああ、魔力の消費効率が良くなるのはいいね。
なんだか白熱電球や蛍光灯が、発光ダイオードに置き換わったときの宣伝文句みたいだけど……。
「あはは……良かったですね」
「はい、これもみなミユキ様のお陰です」
みんな幸せで、よかった。
残念なのは魔獣だけだ。
「さて、いつまでもミユキ様を独占していると、他の者に恨まれますのでこれくらいにいたしましょうか」
「はい、ありがとうございました。ハイケさん」
「こちらこそ、ありがとうございました。ミユキ様」
そしてハイケさんはリッケさんたちへ向き直り、
「魔術の訓練はこれにて終了します。お待たせしました」
と告げた。




