48 神殿で修行 魔術剣5
できたばかりの【火術剣】を、ゆっくりと横薙ぎにする。
切れた。
おとうふを切るように。
だけど最後の一皮が切れた瞬間、切れた杭の上側が、床に崩れ落ちた。
むぅ、ちょっと悔しい────。
これは【火術剣】の厚みのせいかな。
今わたしの“火術剣”の断面は、楕円形だ。
“断熱”で領域を作るときに、剣の鞘を想像したせいだろうね。
楕円に形作った“断熱”領域に“火壁”を押し込んだ感じで、中には火が閉じ込められて、見た目は昔の蛍光灯が光っているみたいだ。
映画に出てきた“ライトサーベル”を直剣にしたら、こんな感じになるかもしれない。
ナタリアさんの水術剣は、剣身のごく表面にだけ水を纏っていた。
ハイケさんの風術剣は、目に見えないので分からない。
なら楕円直径の短い側を薄くして刃物に似た形にするために、被せている“火壁”を押し潰してみようか。
魔術の効果を上下から押し潰すと、斬撃性能がつくと言っていたから、やってみて損はないでしょう。
剣の横腹(イメージ)部分ギリギリまで、火壁を押し潰す。
より剣に近い形になった火術剣を、再度杭に振ってみる。
ゆっくりと横薙ぎにすると、剣が先ほどと同じように杭の中を進んでいく。
火壁の“刃”は前よりずっと薄くなっているので、剣が通った後にほとんど隙間はない。
そして剣を振り切ったとき、杭の上側は杭の下側に乗っていた。
よしっ!
それにしてもこの剣は、目立つね。
とっても派手。
もの静かな“水”や“風”の魔術剣と違って、自己主張が全開だ。
柄を軸にしてくるくる回して見ると、刃が手前に来るときは比較的目立たず、横腹がこちらを向いたときには、面積が広くなって目立つ。
あまり目立つと、素人の剣筋が丸分かりで恥ずかしいので、ためしに刃の方向にも押し潰してみようか。
今は剣身がないのでちょうどいい。
剣身を保護していた(つもりの)“断熱領域(内側)”を解除する。
そして、楕円の長径側を押し潰す───。
うん、いい感じに細くなって目立たなくなった。
フェンシングの“エペ”みたいにも見える。
この子はしならないから、余計に似てるかな。
見た目は“エペ”だけど、曲がりなりにも“火の魔術剣”なので、薙いでも斬れる──はずだ。
そうなると、使い勝手は“サーベル”みたいな感じなのか。
これでまた、杭を横薙ぎにしてみる。
切れた。
こんかいは勢いよく振ったので、杭の上が飛んでいったけど。
ふふふ、中々いいんじゃないの? これ。
「ハイケさ──、うわっ」
ハイケさんに成果を見てもらおうと後ろを振り向いたら、話をしていたハイケさんウラさんだけじゃなく、いつのまにか戻っていたナタリアさんと、いつのまにか来ていたリッケさん──“神殿騎士団長”のリッケ・セリン・イブセンさん──と、知らないお爺ちゃんまでが一緒になってこっちを見てた。
ビックリしたよー。
しっぽ感覚が仕事をしていなかった?
いや、わたしが周りを気にせず、魔術剣作りにのめり込んでいたせいかな、これは。
ウィアが、猫族の(体の)種族特性みたいなことを言ってたけど、こういうことか。
「え~と、みなさんお揃いで、どうされました?」
「いえ、ずいぶんと熱心に考えながら作業しておいでのようなので、声をかける頃合いを見計らっておりました」
ハイケさんが答えてくれた。
うわぁ、気をつかわせちゃったよ。
申し訳ない。
「それは気づかずに失礼しました。ハイケさんとナタリアさんのおかげで、なんとかしっくりくるモノが出来たようです」
ほら。という感じで、剣の柄から生えた“火の魔術剣”を掲げた。
「それが“火の魔術剣”なのですか? “火術剣”にしては先程のようにメラメラと燃え上がっていませんし、ここに居ても暑くありません」
「ミユキ殿、それは少なくとも我らの知っている“火術剣”とは違うようですよ」
ハイケさん曰く、普通の火術剣はメラメラと炎が立っているのが普通らしい。
騎士団長のリッケさんでも、こういうのは見たことがないそうだ。
「リッケさん、先日はお世話になりました。わたしは他の“火術剣”を知りませんので、どこがどう違うのか分かりませんから、剣身を覆っている“断熱”を、一瞬だけ外してみますね」
そう言ったとたん、ウラさんとハイケさん、そしてナタリアさんが、数歩下がって両腕で顔を防御する姿勢になった。
やだなあ、大袈裟なんだから。
剣身を覆う【断熱】を解除。
一拍おいて再び【断熱】
続いて、【恒温領域】を、天井までの頭上空間へ半径十メートル(目測)で展開。対象は空気で、温度は摂氏十五度。人のいない方向へは上と同じく床までの高さもね。
そして【恒温領域】を解除。
よしよし、なかなかスムーズにできたよ。
リッケさんとお爺さんは、一瞬“暑い”と感じたものの、すぐに暑さが引いたためか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「やられましたな、老師」
「そうじゃな。あの“火術剣”も驚異じゃが、その後の一瞬で温度を下げた技、あれは避けられんぞ」
ん? 何だか不穏な話をしている男がふたり。
“火術剣”はともかく、“恒温領域”は快適環境をもたらしてくれる、ステキな術なのに。
「その熱量、確かに強力な火術剣のようです。それにしてはその剣、見たことのない細さなのですが、素体の剣には何を使っておられるのでしょう?」
ん? ああ、リッケさんは途中から来たから、初めに剣身を蒸発させてしまった件は知らないのか。
「剣身なしでやってます。最初に蒸発させちゃったので……」
そう言って、火の柱を消すと、剣の柄だけが残った。
「なんと、剣身なしですか。
ふつう剣身なしで魔術剣を使うと魔術剣が撓り、鞭のようになってしまって使いにくいのですよ。しかも鞭と異なり、わざと撓らせても勢いがつくことがありません」
そうなんだ……。
「火術剣って光ってものすごく目立つので、あまり目立たないようにと細くしてみたらこうなったんです。普通の火術剣をちょっと試してみますね。“断熱”はかけますからご心配なく」
と言って、その場の全員の手前に“断熱”をかける。
問題なくできるようだ。“断熱”をこれくらいの人数なら負担にならない。
そして柄の上に“断熱”の外皮なしで“火の柱”を立てる。
今回は薪の炎くらいの温度 (イメージ) にしたので、まわりにそう影響は出ない───だろう。
柄の上に立っている、火の柱を左右に振ってみる。
ゆら~、ゆら~。炎が曲がって、先っぽが後からついてくる。
剣身なしだとこうなるのか。さっきはやらなかったな、これ。
そこへ柄にかかっている“断熱”を円筒状に伸ばすと、先程できあがった火術剣と同じ、ふつうの剣のように振れた。
わたしの火術剣って、【断熱】のおかげで出来てたんだね。




