46 神殿で修行 魔術剣3
「そして最後は“火の魔術剣”、【火術剣】です」
来たー!
待ってました。
よろしくお願いします、ハイケさん。
「ミユキ殿、これを」
と言って渡されたのは、先ほどハイケさんが“風の魔術剣”を使って見せてくれた、模擬戦用の刃引き剣だった。
これをどうしろと?
「まずは【火壁】を出していただき、そこへその剣を差し込んでみてください」
「はい……【火壁】」
何だかよく分からないけど、言われたとおりした先には何か答があるんだろう。
そう思って、“火壁”を出して、剣を差し込む。
「無詠唱……」
ナタリアさんがなにやら呟いている。
そう言えば、魔術の発動に呪文を使わないのは少数派だったね。
わたしも、こちらへ飛ばされてきた初日こそ「魔術だ\(^^@)/ 呪文だ\(^^@)/ |ファンタジーだー\(^^@)/」と少し浮かれたものだけど、実戦で何回か使ってみると、呪文の詠唱なんて時間がかかるばかりで良いことがない。
けっきょく冒険者になってからは呪文詠唱をしていない。
大規模魔術を使うようになれば、少しはメリットが出てくるのだろうか?
それでも“魔術名”だけは口に出すようにしているのは、相方にわたしがやろうとしていることを伝えるためだ。
ウラさんにそう提案されて、魔術を使うときにはそうしている。
そりゃ、無言でいきなり攻撃魔術が飛んできたらビックリするだろうしね。
午前中の総祭司長さんの話を聞いて、余計に呪文から遠退く気分になっているのは、自分の技能だけでどこまで出来るのかすら、まだまだ分かっていないからなんでしょう。
呪文は、伝達と普及には優れているみたいだから、スキル外でやりたいことが出て来たときには試してみよう。
「止めてください、ミユキ殿!」
「はい」
ハイケさんが停止を命じる。
どうしたかな?
取りあえず“火壁”を止める。
「手は大丈夫ですか!? 剣の柄が燻っています!」
あらー、ホントだ。
「手は大丈夫ですよ。【断熱】しているので、火傷はありません」
「失礼、少し拝見させていただきます」
ハイケさんはそう言ってわたしの手を取ると、穴の開くほどジッと見つめた。
「ふう、驚きました。ふつうは柄が燻り出す前に、熱さで剣を握っていられなくなるものですが、【断熱】ですか。そういうことが出来るということは、やはり“熱制御”という技能は、“火属性術”とは似て非なるものなのかもしれませんね」
「ああ、そういうこと」
火術剣は、まず熱さで剣を握っていられなくなるのか……。
耐熱ミトンが要りそうだ。
でもあんなふわふわしたものじゃ、剣は振れそうにない。
きのう水棲魔獣を狩ったときに発動させた【断熱】は、体全体に使うと“しっぽ”から受取る周囲の情報まで断たれてしまうので、不採用になった。
結局そのときは、効果がゆるい代わりに情報量をあまり減らさない【保温】を使い、しかもしっぽを水につけたあとで、そこだけ解除するというところに落ち着いた。
今日は、目の前に出した【火壁】が、いかにも熱そうだったので、体の前面だけ最初から【断熱】を張っていたのだ。
前だけにしておけば、“しっぽ”は【断熱】の範囲外だからね。
あれ? ふつうの“火属性術士”って、術の熱さ対策はどうしてるんだろう??
熱いのは論外として、暑いくらいはあるんじゃなかな?
「ちょっと質問なんですが」
「はい、何でしょうか?」
「“火属性術士”の方の熱さ対策って、どうなっているんでしょう?」
「ああ、それですか。“杖”ですよ」
「はい? 杖ですか??」
「はい、ミユキ殿が前衛向けの装備なので忘れていましたが、杖の先に“術”を発動して、発動する“属性術”と“術者”の距離を取ることで術者への影響を減らします。これは火属性に限らず、水風土属性の者でも同じです。距離を作ることで術の作用から逃れるわけですね。熟達して術の威力が上がるほど、大きく長い杖を使うようになる傾向があります。杖が長くて頭が大きいほど、術と術者の間に入って大きな影が作れますからね。あとは着用する法衣に“耐性”を附与して、頭は頭巾付きにしたり鍔広の大きな帽子を被って対処します。私も今日は“魔術剣”を御覧に入れるために剣を帯びていますが、先日は長丈を使っていましたでしょう?」
「確かに……」
なんてこと!
魔術士の杖や法衣が、自分の魔術の反動対策の結果だなんて!
「専業魔術士の最終目標は、大きな敵あるいは大量の敵を一撃で殲滅できることです。ですから威力増大のため、武装は魔力の透過率が最優先。そのため衣類もそれに準じたものになりますし、武装は杖が主流になります」
「剣では魔力が通り難いんですか?」
「いえ、剣ではなく材料の金属が問題なのです。装備レベルがそれなり以上の武器となると、“鉄”や“鋼”が殆どとなりますが、この“鉄”の魔力の通りが、とりわけ宜しくないのですよ」
あー、そうなのか。
わたしの場合、耐火性に優れた“木”というと、桐とかがいいのかな……?
魔力の通りというのがよく分からないけど。
「金属でも“金”“銀”や“銅”などですと魔力の通りはそこそこ良いのですが、硬さが足りません。実戦用の武器としては二流以下になってしまいます。金属として例外なのは“精霊銀”ですね。これは魔力の通りがとても良くて、古木の杖にも遜色ありません。硬さも充分で、剣にするにも適しています。値段は少々張りますが、金剛と比べれば、二十分の一くらいですね」
おー、“精霊銀”。
ゲームで名前を聞いたね。
初心者のわたしは縁がなかったけど、兄さんでも持ってないと言っていた。
自分は前衛職で、魔術は関係ないからって。
その“精霊銀”、値段はやっぱりアレだけど、お邸が建てられる程度で済むらしいので、“金剛”よりはマシ?
でも剣じゃ、術の発動から距離をとるのは難しそうね。
ああ、それで“魔術剣”になるのか。
そう、その“火の魔術剣”だ。
「それじゃ再開して構いませんか?」
余計なことを訊いたのはわたしだ!
「はい、中断して申し訳ありませんでした。続きをどうぞ、説明はあとでまとめてにしましょう」
「はい。じゃあ剣の柄の、木と繊維で出来た部分にも【断熱】して、【火壁】……」
“火壁”の幅や高さは変えられ、湾曲させて全方向を囲うことは出来た。
でも風属性や水属性みたいに透明じゃないから、視界が遮られてNGだ。
それに、全方向に“断熱”をかけることになるから、“しっぽ感覚”まで使えなくて具合が悪い。
“火壁”を広げて纏うという話は後にして、先に“火壁”を狭めてみようか。
剣を差し入れているところへ“火壁”を絞り込む。
すると“壁”というより“柱”みたいになった。
“火の柱”という感じだね。
絞り込んだら、剣に纏わり付かせる……。
つまり、地面から立ち上がっている“火の柱”を、この剣に移せばいいわけで……。
元気良く立ち昇っている“火の柱”の横に、手にした剣を並べて立てて、柄頭を地面に付ける。
この“火の柱”の根元が、剣の鍔に乗ってくれればいいわけだ。
──ぴょん。
手乗り文鳥が手に飛び乗る姿を想像をしてみると、“火の柱”が手の上……いえ、剣の鍔に飛び移ってきた!
おおっ!
鍔の上に柱というのは見た目がゴツイので、剣に合わせてさらに細く絞る。
まあ、細かいところは後でね。
いちど鍔に乗った“火の柱”は、剣を傾けても振っても鍔の上に固定され、ちゃんと剣身といっしょに振られてくれた。
「こんな感じでしょうか?」
「こんなにあっさりと……。いえ今更ですか」
何やら酷いことを言われている気がする……。
「剣に火を纏わり付かせるところまでは出来ました。“火の魔術剣”第一段階終了です。ミユキ殿、おめでとうございます」
「やった───!」
わたしが喜びに剣を振り上げた瞬間、魔術剣が白く光った。
なに──!?




