45 神殿で修行 魔術剣2
「“火の魔術剣”は、使う人が殆どおりません。その説明をする前に、普段の訓練方法の話をしましょう」
ガ───ン。そんな殺生な。
お預けされちゃった……。
とは思うものの、“術士団長”のハイケさんがそう言うんだ。何かしら理由はあるんだろう。
わたしは素直に耳を傾けることにしたよ。(しくしく)
「魔術を発動させる部分は省くとして、術の威力を増すのに必要なことは、魔術を繰り返し使うことです。体を鍛えるのと同じですね」
同じなんだ。
「筋肉を使えば筋肉は増え、感覚は研ぎ澄まされていきます。頭を使えば思考力が増します。同じように、魔力を頻繁に使うことで“行使できる魔力量”は増えます。逆に、使われない筋肉は衰え、使わない頭は積極的にものを考えることをしなくなります。同じように魔力も使わずにいれば、“行使できる魔力量”は減っていくわけですね」
筋肉と同じなんだ。
脳も筋肉……。
でもなあ、筋肉をいくら鍛えても“嵐”が起こせるとは思えないんだよね。
「そもそもの疑問なんですが……」
「はい、なんでしょう?」
「個人が持っている魔力で、魔術というのはどこまでのことが出来るんでしょう? 先ほど聞いた【天候改変】魔術が、純粋に個人の力でできるというのが想像し難いんですよ。そういうものだと言われればそれまでなんですが……」
「分かりません」
「へ?」
「その辺りはよく分かっていないのです。一説によると、魔術を使う者によっては、精霊が進んでその個人の魔術行使を手伝ってくれるということもあると言われるのですが、精霊を感じとれるのが森精族の一部だけとあって、裏付けが取れないのです」
そうか、仮説があっても検証ができないのか。
精霊にお願いする“精霊術”ばかりじゃなくて、普通に使う“魔術”ですら精霊が手伝ってくれるかもとなれば、定量化なんて夢みたいな話なんだ。
「それは何というか、……大変ですね」
「はい、大変なのです。ですから魔術に関しては現状、経験の蓄積でものごとを進めていくより他なく、その流れで以前は個人の“保有魔力量”という考え方が主流だったのですが、最近では“行使可能魔力量”という考え方に移りつつあります」
あー、インゲルスさんが並べていた三つ中の二つね。
外部バッテリーが自主的に手伝ってくれるみたいな話だから、内部バッテリー量なんて、測りようがなわけか。
本人(本体)の話だというのに、それは切ないね。
「話の腰を折ってしまってすみません。続けてください」
「いえ、これも大切な視点ですから。それで訓練で魔力を消費する方法ですが、体内で集めた魔力を無駄に霧散させるだけでも、魔力量を増やす役には立つのです。ですが“魔力制御能”を養わないのは勿体ないですから、結局うちの団では各々に適性のある属性魔術を撃ちまくることにしています。もちろん、魔力を枯渇させてしまっては、いざという時に使い物になりませんので、平時であれば「行→待機→勤務→休み」という輪番を組んで回しています」
あー、人数が多いから交代で魔力を使い切るのか。
わたしの場合は移動の人数が少なそうだから、きっとそのままじゃ使えないよね。
まさか大名行列にはならないでしょうし……ならないよね?
「人数が二人か三人の場合ならどうしたら良いでしょう?」
何でもかんでも聞いてしまうのは心苦しいけど、ここは効率優先で聞いてしまおう。
「その場合は魔力を枯渇させてしまう事が致命的になりかねませんから、魔力消費は最大でも半分までに抑えることになるでしょうね」
「その半分程度というのは、どうやって知ればいいんでしょうか?」
「そこはその教本の……」
と言って、ハイケさんがさっき渡してくれた教本の頁をパラパラとめくって、渡してくれる。
「ここに載っていますので、参考にしてください」
うん、ちゃん書かれていたね。
帰ったらすぐに読まないと!
テキストにはこんな風に書かれていた。
〈魔力残量感の例〉
残り魔力 残量感
10/10 満ちている
9/10 減ったかもしれない
8/10 気持ち減った
7/10 少々減った
6/10 そこそこ減った
5/10 明らかに減った
4/10 相当減った(警戒)
3/10 あまり残っていない
2/10 殆ど残っていない(危険)
1/10 残っていない
0/10 (身動きできないか意識喪失)
……感じだった。やっぱり減った感覚なんだ。
ゲームは数字で出てきて便利だったね(泣)
「分かりました。教本はこういう所で役に立つんですね。ありがとうございます」
「どう致しまして。有効に活用していただければ幸いです。
さて、それで実地の訓練方法ですが、ミユキ殿は【火壁】と【氷壁】が使えましたね?」
「はい。どちらも前にやってみてから一度も使っていませんけどね」
あれ? 言われて思いだしたけど、海でウラさんが窮地だったとき、【アイスウォール】で守るという手もあったのか。
いや、距離があったから出来たかどうか怪しいか?
うーん、身についていない術なんて、すぐには出てこない。
これも使い込んで馴れないといけないな。
「そうですか。じつは先ほどの“魔術剣”ですが、“壁”系魔術の発展形なのですよ」
「そうなんですか!?」
来た!
やだなあハイケさん、焦らしてくれちゃって。
この“いけず”。
「この“壁”系魔術は、言ってみれば“盾”です。これを身に纏って“鎧”と成し、さらに進めて武器に纏わせれば“魔術剣”となるわけです」
つまり、“壁”系魔術というのは、“矢”や“槍”のような射ち出しちゃう系と違って、属性術の効果をその場に留まらせる系統ってことか。
「鎧が先で、武器に纏わせるのが後なんですか?」
「単純に纏わせただけの“壁”魔術では、攻撃力も限定的ですからね。これにも段階があって、ナタリア、初級から頼む」
「はい…………」
ナタリアさんが足元に円を描き、また独自呪文を唱えると、現れた“水壁”が左右に広がり、ナタリアさんの360度全周を囲む円筒形をした壁に変わった。
最初に描いた円の内側だ。
鎧というよりも、障壁という感じがする。
「これは見て分かりやすいように、“水壁”を厚くしてあります。次を」
ハイケさんがそう解説すると、ナタリアさんがまた呪文を唱える。
すると、“ウォーターウォール”の存在感が薄くなった!?
「“水壁”の厚みを減らし、表面も滑らかに整えました」
距離が近いので“水の壁”があるのは分かるけど、遠目には分からないくらい存在感が薄くなっている。
「この状態でも……」
と言って、ハイケさんが片手剣を振り、ナタリアさんに斬りかかる。
と、剣が“ウォーターウォール”に触れた途端、見てハッキリと分かるほど剣の速度が落ちた。
見た目よりも“ウォーターウォール”の抵抗が強いみたいだ。
矢のように、途中で勢いを追加できない攻撃なら、その場で失速しそうな感じがする。
「このように剣の勢いが大幅に減殺されます。さらにこれを糸状になるまで細く絞って網状にし、さらに細かく強く振動させてやると」
わ、“ウォーターウォール”が見えなくなった。
それに周囲が少しキラキラしている気がする。
気のせい? じゃないよね……。
「ミユキ殿、先ほど切り落とした杭の先端を指先で摘まみ、杭を“水壁”に触れさせてみてもらえますか?
くれぐれも覗き込んで頭や指を触れさせないように、注意してください」
ハイケさんに促されて、拾い上げた杭の先を“ウォーターウォール”に近づけると……。
杭が削れた!
丸鋸や研磨機に触れたような、材料を持って行かれそうな力は感じない。
「凄い……」
「防壁を攻性化しました。ここまで来れば、ほぼ“魔術剣”と同じですね。後はさらに絞り込んで、剣に纏わり付かせるのみです」
だけって言うけど、それも大概難しいんじゃないかと思う。
「そして“魔術剣”が普及しない、技能としての難度以外の要因ですが……」
まだ何かあるのか。
「先ほど“風の魔術剣”を使った、模擬戦用の刃引き剣です。見てください」
そう言いながら、柄をこちらへ向けた抜き身の剣を寄越してきたハイケさん。
なになに?
あー……。
「そうです。魔術剣の効果は外向きに出ていますので、これを受けた相手の剣ほどではないのですが、自身の剣にも反動が出るのです」
私の反応を見たハイケさんが解説を入れてくる。
反作用があるんだ──。
「剣がボロボロですね……」
「ええ。対策としては、安い剣を一回ごとに、場合によっては一振りごとに使い潰すか、【耐風属性】などの耐性附与を施すか、魔術剣の効果などものともしない頑丈な素材を使った剣を使うかです。
ミユキ殿の場合は“収納”がありますから、ひとつ目の対策でもやれそうですが、いずれにしても手間とお金がかかりますね」
ひとつ目の使い捨ては却下ね。勿体ないし、すり潰す前提で使うというのは、武器に申し訳ない。
ふたつ目は今は保留かな。
耐性附与なんて高度そうなことは、初心者の手に余るでしょう。
「三つ目の“頑丈な素材”っていうのは、どんなものがあるんでしょう」
「それは金剛と呼ばれる希少素材です。頑丈さは折り紙付きで、先ほどの防御魔術の壁を貫くほどなのですが、高価です。……城が建つほどに」
城! 家じゃなくて城なの!?
それにしても、あの防壁魔術を貫く材料があるんだ。
うーん、矛と盾だね。
「私の“風の魔術剣”はそんな所ですが、ナタリアの“水の魔術剣”ですともうひとつ厄介事が増えます」
まだあるの?
「それは錆です」
あっ!
「ナタリアは対策をしていますが、鋼の剣で“水の魔術剣”を使用した場合、あっという間に錆びが来ます」
錆かあ……。
親しい友人の佐橋月那は料理が好きで、道具もいろいろ凝っていたけど、それでも「鋼の包丁は手入れが大変!」と言って、ステンレス包丁を使っていたものね。
ステンレスか。
ステンレスの剣って聞いたことないけど、あれは耐水性…というか耐蝕性能がある。包丁が作れるんだから、“水の魔術剣”には向きそうなんだけどな。
まあ他の性能がわからないし、何よりどんな金属なのかよく知らないのでどうしよう。
何かの合金っていうだけじゃ知識にすらならないんだけど、そう言う物があるってことだけでも伝えた方がいいかな……。
「このあたりには、ステンレス鋼って無いんでしょうか?」
「不銹鋼……ですか?」
「錆びない──とても錆びにくい金属、何種類かの金属を混ぜた合金で、わたしの故郷だと家庭用の包丁はこれが主流だったんですよ」
「錆びない金属ですか。それも料理刀に使えると。とても興味深いですね。もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
「すみません、わたしも詳しくは知らなくて、18‐8ステンレスとか18‐12ステンレスと呼ばれていたので、混ぜ物の内容だろうとは思うんですが、わたしに分かるのはこれくらいです」
月那の家で使った18‐12ステンレスのナイフ・フォーク・スプーンは、美しくて手触りもひと味違ったのを覚えている。
「いえ、そう言うものが存在するのでしたら、一度神殿の鍛冶部門に訊いてみます。情報をありがとうございました」
「いえ、大した情報じゃなくて恐縮です」
こういう時に兄さんがいれば、いろいろ詳しく教えてもらえるんだけどな。
いやいや、いま居ない人に頼ろうとしても無理だからね、わたし。
クワン神国へ着いたら聞いてみよう。
「さて、錆による不利益ついでに地属性の話をいたしますと、“地属性術”では普通の剣を上回る強さや鋭さを持つ剣を作れませんでした。ですから“地の魔術剣”を使う者はほぼおりません。まあ、手元に武器がない時に、自前で武器が作れるという利点はあるのですが、そこまでと言うのが一般認識ですね。ミユキ殿が使える“氷”についても同様です」
あれ?
あれ、何か引っ掛ったんだけど、何だろう??
……だめだ、思い出せないや。
それにしても、“氷”も駄目なのか。
なんだかインゲルスさんあたりだと、鉄より斬れる“氷の魔術剣”を作りそうな気がするんだけどな。
「そして最後は“火の魔術剣”、【火術剣】です」
来たー!
待ってました。
ハイケさん、よろしくお願いします。




