37 納品 前編
「──よく生きてましたね、二人とも───カジキの魔獣って、Bランクなんですよ──」
はっ? Bランク??
「どういうことでしょう?」
「これは今度受けるDランク昇級講習で出てくる内容になりますが、冒険者のランクと魔獣のランクというのは、相互に関連して対応しています。
昨日まで一般人だった“Eランク冒険者”が一対一で対峙して、勝負になるのが、最弱の角ウサギや小鬼などの“Eランク魔獣”です。
このままですと、勝つこともあれば負けることも相打ちになることもあり、勝敗は時の運となります。
これに安定して勝つために、武器を手にし、鎧で身を固め、体を鍛えたり剣術や魔術などの技能を身に付ける。
その工夫や努力によって“Eランク魔獣”を相手に安定して勝てると認められた者が“Dランク冒険者”と呼ばれる資格を得ます」
ああ、それで“グラニエ平原”で魔獣を五十匹なのか……。
「単独であればそれを繰り返してランクを上げて行きますが、多くの場合は数を頼んで小集団を形成して、多対一で戦ったり、守りに向いた者が敵を引き付け、その間に攻撃に向いた者が攻撃を加えるなど、工夫を凝らして単独では同格以上となる魔獣を安全かつ効率的に倒してより多くの経験を積むようになります。
“Dランク冒険者パーティー”の誕生ですね」
ふふふ、そのあたりもゲームの導入説明に書かれていた通りなんだね。
話がやたらと具体的だけど、なんだか楽しい。
「そして経験を積むことで構成員それぞれの強さも上がり、同格の“Dランク魔獣”ではもはや相手にならないと、実績で認められるようになりますと、ひとつ格上の“Cランク魔獣”を相手にする依頼をパーティーで受けられるようになります。
冒険者と魔獣のランク付けというのは、そんな風に相互に関連して付けられている訳ですよ」
「なるほど、為になります」
「それで水棲魔獣ですが、人は水の中では呼吸できません。しばらく水中に留まれば水に溺れて死にます。同じように水棲魔獣は陸上で呼吸ができず、陸上に留まり続ければ空気に溺れてやはり死にます。
つまり棲息域が異なるということですね。
その上ふつう人には水中が見えませんし、水中の生物に陸上のことは分かりません。したがって両者が遭遇するとなると、舟で水上に出ているか水に落ちて襲われたという事例が圧倒的に多くなりますから、いま言った環境が理由で対処の難度が上がるため、“水際補正”というものが入って陸上でなら“Eランク”相当の魔獣がランク一つ繰り上がって“Dランク相当”と見做されます。
ですから南街道沿いの海岸線での魔獣狩りは、Dランク冒険者推奨になっているはずなのですが、ミユキさんたちが資料室で得た情報ではそうなっていませんでしたか?」
えっ!?
あわてて収納から、魔獣の棲息域を記した複写の地図を取り出す。
ウラさんが南街道の西海岸線を囲んだ表示の中の、小さな記号を指さした。
「これでしょうか……」
「*3 ……のことですか?」
地図の向きを変えて、リシュヌさんへ指し示す。
「はいこれですね。この注釈記号に対応する“注釈”が次のページに載っていたはずですが、そちらは読みましたか?」
「イエ、ミテイマセン……」「おなじく……」
なんてことだ!
わたしは急ぐあまり、大切な情報を読み落としていたと言うこと?
それでウラさんの命まで危険にさらしてしまったの?!
ダメダメだー。
謝らないと。それに資料も見直さないと!
「えーと、なにか色々あったようですが、考えるのも行動するのも明日以降にしましょうね」
「え? それは………」
思わずウラさんと顔を見合わせてしまった。
「無自覚だった失敗を自覚してしまったときや、他人事と思っていた惨事を目の当たりにしてしまったとき、人間はその落差を埋めようとします。それは当り前の心の働きですが、事の直後はたいてい気持ちが動転していて、失敗を重ねたり、逆方向へ振り切ってみたり、視野が狭くなって注意していた筈がさらに多くを見落としがちになります。ですから一先ず時間おいて、動揺した心を落ち着かせてから次の行動を決めることをお奨めしますよ」
リシュヌさんって、他人の心が読めるの!?
冒険者ギルドの受付嬢って恐ろしい!
動揺───、そうか、わたしは動揺していたのか。
自分のうっかりでウラさんを危険にさらしてしまったことで、動揺していたのね。
こんな時に必要なのは………、和弓の話だったと思うけど、「善い矢に喜ばず、悪い矢を嘆かず、平常の心を以て射るべし」だっけ。
そうか、平常心か───。
よし、取りあえず資料室は明日にしよう。
「おや、お二人とも持ち直すのが早いですね。大した“心の復元力”ですよ。とても頼もしいです。
それではお疲れでしょうし、買取り納品のこともありますから手短に済ませましょうね」
え? 持ち直した? ふたりとも?
思わず横を見ると、ウラさんもこちらを向いてて、顔を合わせたら「フッ」と微苦笑しているのが見えた。
あれぇ? わたしもあんな顔をしてるのかな。
「本日持ち込まれた水棲魔獣Bランクのカジキが二匹、Dランクが三十五匹、昨日持ち込まれたEランク魔獣角ウサギが二十二匹、Dランク魔獣の魔狐が一匹。二日間で七十匹の魔獣を狩りました」
七十匹か、あと三十匹。
まあ何とかなりそうかな。
「そのうちDランクの物は二倍の七十二匹相当に、カジキはBランクで本来なら八倍ですが、大きさからB-と判定されますから、七倍でカウントして、二匹でEランク十四匹相当となり、締めて百八匹相当と算定されました。
規定数を満たしましたので、ミユキさんとウラさんはDランク昇級審査への参加資格を得ました。おめでとうございます」
え?
ええ─────!?




