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35 Eランク冒険者活動 二日目 4


 水の魔獣のしぶとさをの当たりにして、釣りをする人が“剛毅”と呼ばれるのが、納得できてしまった。

 あれは戦いの手段を持たない人の手に余るわ……。


「しぶとかったですね」

「そうね。それに人には水の中で魔獣と戦う手立てがロクにないのがやっかいよね」


 昨日の角ウサギ(ホーンラビット)と比べてみて、単純な強さは似たようなものだと思う。だけど水の中は相手の領域テリトリーだ。

 こちらの感知手段や攻撃手段が限られるぶん不利になり、ただ武器を持っただけの冒険者だと、逆に水棲すいせい魔獣のいいえさになってしまいそうだ。


 海岸に人気ひとけがないわけよね。


 さてこの後どうしよう。

 魔獣は狩りたいのよね。

 だから、ここで魔獣が狩れるなら、それに越したことはない。

 そしてここで狩れるのは、水の魔獣だ。


 水の魔獣は、しっぽを水に付けたら割とすぐにかかった。

 しかしけっこう凶暴だ。

 わたしの“しっぽ”がおいしい獲物に見えたのかな。

 見えたんだろうな。

 すごい食い付きだったものね。


 しっぽを餌にすれば、水の魔獣を相手に釣りができるかな?

 水の中でもしっぽの先で気配は探れたから、水の魔獣が襲ってくれば分かる。

 ただ、探れる範囲が地上でよりも狭いので、見つけてから行動するまでの時間にあまり余裕がない。

 でも、いざとなったら加速思考もあることだから、なんとか出来そうかな?


 あとは……とどめの刺し方か。


「捕まえる手段はさっきの氷結攻撃でいいとして、とどめをもっと簡単にする方法は思い付かない?」

「そうですね、水の魔獣のエラから前だけ解凍してもらえれば、先ほどのようなとどめなら私が刺せます。ただ、手持ちの短剣ダガーが無いので、刺すのに向いた細身のものがあれば何か貸していただきたいです」


 ウラさんに言われて収納ストレージを見てみる。


 これでいいかな? “塹壕短刀トレンチナイフ”?

 先細りで片刃の刃と、つかの片側だけを囲む、厚みがない割にゴツイ護拳ナックルガードが特徴の、ふしぎな雰囲気をもつ短刀ナイフ

 柄頭つかがしらまで囲む大きな護拳ナックルガードのせいで、刃よりも柄に存在感があって、ひどく用途が限られていそうな感じがしたので、“お菓子亭(ヘクセンハウス)”のヨアンナさんに見せるときには出さなかった短刀ナイフだ。


「これで良いかしら?」

「はい、とってもいいです」


 そう言って“塹壕短刀トレンチナイフ”を受け取るウラさん。

 それじゃあもう一度、水の魔獣狩りをやってみますか。



    †



 しっぽを水につける。


 ヒュッ──プルプルプルプル。


 あうー…、これがあったわね……。

 しっぽを水につけると、背中がプルプルする。

 原因は水の冷たさよね?

 お風呂はこっちへ来てからも楽しいので、冷たくなければ大丈夫なのかな?

 ということで、水をぱしゃぱしゃしながら、しっぽに“保温”をかけてみる。

 ウラさんの湯飲み(カップ)ではうまくできなかったけど、しっぽならわたしの体、問題はないはずだ。


【保温】


 あら、……なんだか冷たくなくなった代わりに、しっぽから受け取る感覚がぼんやりした感じになった…。

 解除。


 んー、冷たさからしっぽを守るんだから、“断熱”ってできないかな?

 家を建てるときも断熱材って入れるよね。


【断熱】……。


 駄目ねこれ。

 しっぽを水に付けても何ともなくなったけど、しっぽから受け取る情報が半減したわ。

 暑さ寒さも情報のうちって事なのかしら?

 これでは本末転倒ね。

 解除。


 思いつくものをいくつか試してみたけど、どれも一長一短でこれという決め手がない。

 しかたがないので、“保温”をかけてしっぽ水につけ、中でゆっくり解除することにした。


 むー、色々あるわね。



    †



 暇だ……。

 いや、べつに獲物がかからないってわけじゃない。


 水の中で、わたしのしっぽがゆらゆら揺れる。

 不意に周囲の魚が消えると、水の魔獣がしっぽを狙ってくる。


 口を開けて、しっぽの先っぽに襲いかかってくる水の魔獣。

 それをみつかれる直前にひょいとかわす。

 ひょいひょいと二~三回かわしたあとで停止して待ち構えると、水の魔獣がしっぽに向かって突っ込んでくる。

 口を大きく開け、しっぽに噛みつこうとした瞬間に【熱制御サーマルコントロール】で魔獣とその周囲の水を、摂氏せっしマイナス一二〇度まで一気に下げる。

 冷やされた水は一瞬で凍りつく。

 口の中、えら、体表を氷に包まれ、水の魔獣は身動きできなくなる。

 体を動かせなくなった水の魔獣が浮いてきたら、頭をつかんで水から上げ、エラから前を半解凍パーシャルデフロストしてウラさんに渡す。

 ウラさんはそれを岩場で、塹壕短刀トレンチナイフを使ってとどめを刺してから、わたしに戻す。

 わたしはそれを収納ストレージし、血抜きした上で種類別に整理して、“状態変化無効”で保存する。


 着々と数をこなしているんだけど、ストレスも着々と溜まっている。

 なぜかしら!?

 体を動かしていないからだ!


 ずーっと同じ姿勢で座っている。

 立つとしっぽが水から出てしまうし、横になると日射しがうららかなので眠ってしまう。

 体感時間を短くしようと、加速思考を二分の一で使ってみたら、魔獣の感知から対処までの時間が少くなって、対応がギリギリになった。

 けっきょく普通に座っているしかない!

 ウラさんいいな、立ったり座ったりしている。


 もちろん休憩は取っているわよ。

 休憩時間には、ちゃんとんだりねたり走ったりして体をほぐしてる。

 でもほとんどの時間はすわっているのよ(泣)。


 泣き言終了。

 キリキリ釣るわよ!


 きた…。

 これは普通の魚。

 水の魔獣一匹につき、三匹の普通の魚が釣れている。

 魔獣が放つ、敵意(●●)みたいなものは感じないけど、食欲と好奇心で普通の魚も寄ってくるみたいだ。

 潮が満ちてすこし経ったら、大きめの魚も来るようになった。

 けっこう熱烈にアタックしてくれるので、こちらも誠意を持って対応している。

 おかげで収納ストレージの中には、お昼ご飯の時点で「水の魔獣、二十匹」「普通の魚、五十八匹」が収まっている。

 ひょっとしたら、釣りで食べていける?

 いえいえそれはありません。ストレスで死んじゃうよ!


 お昼ご飯は、“お菓子亭(ヘクセンハウス)”のパン販売コーナーで売っていた惣菜そうざいパンだ。

 もともとは朝ご飯を食堂レストランで食べる時間のない人向けの品だけど、わたしたちの場合は“状態変化無効”のついた収納ストレージがあるので、お昼に使って問題ない。

 ご馳走さまでした。美味しかったです。

 食後のお茶を飲みながら、つくづく思う。

 便利よね~、収納ストレージ

 まあ無ければなかったで、きっと釣れた魚を焼いて食べていたんだろうけどね。ソルト胡椒ペッパーバターも用意してるから。


 午後からも、水の魔獣と普通の魚を釣り続け、潮目が変わったかな? という頃合に、異変は訪れた。


 水の魔獣だ。

 圧迫感プレッシャーというか存在感が、これまでのものより桁違いに大きい。


「ウラさん、大きいのが来る。おかに待避しましょう」

「はい」


 ウラさんがきびすを返して陸へ戻ろうとするけど、なんだコイツ、もの凄く速い!


「ウラさん間に合わない! 防御態勢!」


 ウラさんが陸を背に振り返って、短丈ワンド塹壕短刀トレンチナイフを左右の手に構え、身体強化をかけ直す。

 わたしも短矛たんぽうを出して、体の前に掲げる。そして【加速思考アクセラリーズン】スキルを×四倍で発動。


 相手は水からやって来る。


 出た!

 水面を割って、頭に長い角を生やした大きな魚が飛び出してきた。

 本当に速い!

 四倍に加速しているって言うのに、速い自転車が向かって来るくらいのスピード感がある。


 足元から跳び上がるように向かってくる水の魔獣の突進を避けると、魔獣はそのまま岩を飛び越えて、反対側の水へ落ちていった。

 まだ来るわよね。

 しっぽを水から上げているので、水中の様子は分からない。でも、水から飛び出したらその瞬間に分かる。


 出た!!

 下からわたしの首下を狙うコースだ!


 短矛たんぽうを縦に構えて横に薙ぐ。

 進路コースを逸らされた水の魔獣は、わたしの横を通り過ぎて、岩に突き刺さった!?


【加速思考】×二倍まで落として水の魔獣に駆け寄る。

 岩に刺さった角を抜こうとしているのか、水の魔獣が体をひねってジタバタしている。


「大丈夫? ウラさん」

「はい、問題ありません。ありがとうございました」

「怪我がなくて良かったわ」


 “加速思考アクセラリーズン”スキルも、二倍程度なら他人との会話が成りたつ。

 もちろん相手の声は間延びして聞こえるし、普通に話す私の声は甲高く聞こえるらしい。

 それでも相手の言っていることは分かるし、意識してゆっくり話せば、こちらの話すことも違和感なく相手に伝わるみたいなので、ウィアと話をして以降、インゲルスさんやリシュヌさんとの会話では、加速思考二倍を織り交ぜて使っている。

 もちろんこちらが考えるための時間を稼ぎ出すためよ。

 今の場合なら、完全解除するのがまだ危ないからだね。

 弓で言う“残心ざんしん”という…、心構え?


 岩に刺さっているこれは、「カジキ」かしら?

 つのかと思ったのは、上顎うわあごが剣のように延びている口吻こうふんという場所だった。

 それにしても何て硬さなの! 薄いとはいえ岩を突き通してるわよ!


 空中でビタビタとのた打っているカジキの魔獣に近づき、尻尾を振りきったタイミングで手を当てて、【熱制御サーマルコントロール】を発動する。

 水から上がったばかりで、体表もえらも口も水にまみれている魔獣が、一瞬で凍りつく。

 動きの止まった水の魔獣(氷漬け)の頭周りを半解凍パーシャルデフロストして、腰の短剣ダガーで目の後ろを突き、とどめを刺す。


 そのとき、水音とともに魔獣の気配がもう一つ、海面から飛び出してきた。


 まだいたのか!

 こんどの狙いはウラさんだ!




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