表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/127

31 お宿 ヨアンナ、恐ろしい娘 


「こちらがお部屋です」


 ヨアンナさんに案内されたのは、この宿“お菓子亭(ヘクセンハウス)”の二階にある客室のさらに上、二階の廊下から階段を五段上がった、踊り場というか中二階、いえ中三階のようなところに作られた部屋でした。


「ここ、入り口の真上かしら?」

「そうです、よく分かりますね。

 入り口は母屋よりも屋根が一段低くくなってて、なのに入り口ホールの天井が高いものだから、あいだに挟まれたこの場所はどうやっても天井の高さが取れなかったらしいです」


 そう説明されたのは、屋根裏部屋と呼ぶのがよく似合う場所。

 部屋に入ったところの天井が三角屋根のてっぺんの裏側で、手を延ばして跳び上がれば天井の一番高いはりに手が届く高さ。その梁がのびた部屋の反対側に窓があり、天井が低くなった左右両方の壁際にベッドがひとつずつ置かれてるというお部屋でした。


「屋根裏部屋だあ!」

「気に入りませんか?」

「ううん逆だよ。ちょっと憧れだったの、屋根裏部屋!」


 月那るなとお泊まりするときに、ちょくちょく話に出てきた屋根裏部屋。

 こんど月那と会ったときに自慢できるわね!


「この天井の低いのが客室として使わなくなった理由?」

「そうです。床の広さは他の客室と変わりないんですが、天井が低くてななめですからね。見たとおり寝台ベッドの上が低くて、前に貸したお客さまが、朝あたまをぶつけて怪我してしまって」

「あちゃあ。それでこの部屋を封印したの?」

「はい。他にもたなが作れないので、荷物の多いお客さまや荷物を床に置きたくないお客さまが困ります。…そういえばお客さまたち荷物がほとんどないですね」


 窓を開けて風を通しながらヨアンナさんがそう言う。


 わたし達はいま武器と頭の装備を外して、見せかけ(ダミー)の小振りな背負袋(バックパック)だけを身につけている。

 武器のことは、わたしが“街中で武器を装備していることに抵抗があった”から、背負袋(バックパック)のことは、神殿から出かける前にウラさんの提案でそうなった。


 採取にしても魔獣の討伐にしても、成果を運ぶ袋を持っていないというのは、袋ごと無くすような突発事にったか、収納ストレージ整理箱アイテムボックスを持っていることを疑わせるので、どうしても揉め事(トラブル)の種になるということだ。

 そこで冒険者ギルド以外の場所では収納ストレージなんて知りません。というフリをすることにした。


「荷物はもともとほとんどないからね。

 今日は冒険者ギルドから手桶亭ペイルインまで、色んな変な男にちょっかいかけられたんだけど、やっぱり武器くらいは目に付くところに装備しておいた方がいいのかしら?」

「そう言えばまだEランクで二日目って言ってましたものね。

 戦士さんのよろいも神官さんの法衣ローブも、装備レベルは高くなさそうですけど物は良いですから、武器が無いといいカモと思われるかもしれませんね」


 おお、さすが冒険者の泊まる宿の娘。立派に目()きが出来てるわ。

 ヨアンナ、末恐ろしい子!


 でもそうか。軽くでも武装してないと“カモ”に見られちゃうか。

 と言うことで、見せかけ(ダミー)背負い袋(バックパック)から出す振り(●●)をして、収納ストレージから装備品を取り出す。

 ウラさんには武器に短丈ワンドと頭装備の金環サークレットを、いつもの長丈スタッフは背負い袋に入るわけがないからこっちでね。

 わたしの分は短矛たんぽう短剣ダガーに替えて、ヘルムは同じ理由で鉢金はちがねを出す。

 短剣は腰の後ろに水平に装備して、左右に一本ずつ抜ける二本差しのものだ。

 鉢金の真ん中に【忍】の字がられているのは見なかったことにする。

 どういう趣味なのよ! 兄さん。


「こんな感じだけどどう?!」「…どうよ」

「なんだあるじゃないですかいい装備! いいですよ、それなら上を目指せるEランク冒険者に見えますよ」


 いいらしい。良かった。

 これで無事Dランクになったところで、いつもの装備に戻せばいいかな。いや、街中にいるときはこっちでいいや。

 街の外ならともかく、街中でいかつい格好をしてるのは趣味じゃない。これでまだ問題が起こるようなら、その時また考えよう。



 気になっていたことがひとつ解決か。

 気分良く窓を開けて外を見ると、わぁ! いいながめ。

 二階建てで三角の瓦屋根が多い居住区の景色が、目の前に広がっていた。

 ふつうの二階より少し高い場所にある部屋だから、視線が高くて三角屋根の波にまれているような感じが目に楽しい。


 これはアレね。いらかの波というやつ!

 こいのぼりが泳いでいるところが浮かんできて、心浮き立つ風景だわ。


「いい景色ね。とっても気に入ったわ。

 この景色が楽しめるなら無理して部屋を作らずに、宿泊者用のラウンジにしても素敵じゃない?」

「らうんじですか?」

「そうそう。談話室というか、冒険者ギルドにもあるでしょ? 打合せ用の区画スペースが。あれの宿屋版かな。

 冒険者がよく泊まる宿なら長期滞在の人だって居るでしょうし、お客さんも必ず(ひと)部屋に収まる訳じゃないから、部屋の外で話ができる場所があってもいいじゃない。そういう場所よ。

 まあ大人数なら食堂でとか、泊まり客じゃない人を混ぜるなら食堂でとか、使うルールは決めないとだけど、それより何よりここすごくいい風が通るじゃない!

 部屋にして閉めきっておくのはもったいないわよ。住人や宿泊客の健康にもいいわよ」


 ちょっと興奮してしまった。

 だってホントにいい風景ロケーションなんだもの。

 三泊と言わず、ずっと泊まりたい気分だけど、そうも行かないわね。

 八日の夜は神殿に泊まってウィアと話をしないといけないから、延長してもあと三泊か。

 ちょっと惜しい気がしてきたな。



 朝食夕食を食べられる時間とか、近くのお風呂屋さんや市場、冒険者向けの武具、防具、道具店の場所。街中で武装をしたまま歩いても構わないけど、緊急事態でもないのに剣を抜くと罰則があるなどの注意を聞いてから、夕食までの時間を使って市場調査に出掛けた。


 ウィンドウショッピングよ!



    †



 いろいろ有益な情報(おもに値段と品ぞろえ)を調査ひやかして、戻ってみれば夕食の時間だ。

 食堂レストランにはいると、昼間とはちがって他の冒険者の姿も見えた。

 壁ぎわの席へ行けば、長い杖や剣を壁に立てかけている人もいる。

 やっぱりみやこなかでもある程度武装しているのが普通みたいだ。外を歩いていてもそんな感じだった。


 テーブルに着くと、昼間は見なかった女の子が注文を取りにきたので、部屋の鍵番号を見せて夕食を予約していると告げると、注文が通った。

 この前行った旅行の時とあまり違わない気がする。

 月那るなは今頃どうしているのかしらね。ウィアは順調だって言ってたからおかしなことにはなっていないだろうけど。……いえ、おかしなことになるのだったわね、兄さんと!


 出てきた料理は“うさぎ肉の煮込み(ラグー)”だそうで、と───っても美味しかった。

 使っているのが普通のうさぎなのか角ウサギなのかはよく分からない。こんどヨアンナさんか女将のアンジェラさんに聞いてみよう。


 そしてパンだ!

 舌触りは柔らかなのに、千切ちぎるのに要る力はフランスパン(バゲット)並という、噛み応え満点の不思議な食感のパン。

 とっても味わい深いのものだから「これどんなパン?」って訊いたら、ウラさんが「たぶんジャガイモのパンだと思います。それにしてもここのジャガイモパンはおいしいですね」って教えてくれた。

 ジャガイモでパンが作れるんだ! 麦じゃないんだね、このパン。


 そして昼間はパンの販売コーナーになっていた場所。

 そこは今もパンを売っているのだけど、夕食に出てきたパンとその他いくつかの小振りなパンが、“夕食の利用者はお代わり自由”になっていた!

 ただし、持ち帰りは有料! お残しも有料! だって!


 当り前よね!



 そんな風に異世界ウィア二日目の夜は、おなかを満足させて終わりました。まる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ