25 活動報告
朝食というのでまた三階の食堂へ行くのかと思っていたのだけど、向かった先は寝室と同じ五階のさらに奥まった場所だった。
小じんまりとしたパーティーなら開けそうないい雰囲気の食堂が、こんなところにもあったのね。
部屋に入ると、中にいたのはインゲルスさんと無口さんの二人。
正直ホッとした。
食事のたびに新しい人が増えて、そのたびに新しい人に紹介される。なんてことになるのは願い下げだったからだ。
ウィアの話を聞いた後ならなおのことね。
「おはようございます。遅くなりました」
「おはようございますミユキ様。遅いなどととんでもない。昨夜はよくお休みになれましたかな?」
「はい、それはもう。おかげさまで目覚めすっきりです」
インゲルスさんと朝の挨拶をかわし、無口さんと目礼をかわすと、ウラさんに案内された席へ着く。
インゲルスさんの向かい側だ。
「今朝のこの食卓に、ウラさんの席はありますか?」
「それは昨夜のお話に関係してくる事でしょうか」
席に着くやいなや、わたしはウラさんの事を切り出した。
するとインゲルスさんも自分の関心事に関係するのか? と問い返してくる。率直ですねー。
「関係します。最初と後の方で、二度」
「わかりました。
ウラ、あなたの食事もこちらで摂るように準備をしてください」
インゲルスさんに言われて、ウラさんが隣の部屋へ準備に行く。
無口さんは今日もなにも話さない。
「いつもこちらで食事をされているのですか?」
食事の準備ができるのを待つ間の繋ぎに、そんな話題を振ってみた。
「いえ、いつもは三階の食堂でいただいておりますよ。
今日は他人の耳目を引いては差し障ることもあるかと考えましたので、こちらの部屋をご用意いたしました。
どちらで食べても味は変わりませんから、部屋を用意する甲斐はあまりありませんがね」
そう言って両の掌を上へ向けて肩をすくめるインゲルスさん。
様になるなあ。
こういうことらしい。
この建物の地下一階に調理場があり、地上一階には搬入口が、三階に食堂があり五階にこの部屋があって、各階を荷物専用の昇降機が繋いでいるということ。
そりゃ味は変わらないね。
人力で荷物を昇降させるのはさぞや大変だろうと思ったら、ここは魔石を使った仕組みで昇降させているのだという。
をを、魔石を使った動力源があるの!? 「産業革命の波」が来ているの!? と一瞬思ったのだけど、そうじゃなかった。
滑車を挟んで綱で結んだ、一方に荷物を乗せる篭があり、もう一方に鎮があってけ重量の均衡を取る機構を使っているのだそうだ。
均衡が取れているところへ、土属性の魔石に働きかけて鎮の大きさを操作する。
鎮が大きくなって重くなり下がれば、篭が昇る。
鎮が小さくなって軽くなり上がれば、篭は降りる。
昇降機の出来上がりだ。
質量ナンとかの法則はどこ行った!?
なんとも予想の斜め上を行く造りだけど、この世界らしいっていえばらしいのかしら。
この神殿が出来たころはそんな機構はなかったから、最初は用があるときだけ歩いて昇ってきたそうだ。
それが国としての体裁が整うと祭司が常駐するようになり、やがて騎士団の一部がここに入り、荷物運搬用の昇降機(人力)が設置され、やがて魔石を使った鎮操作による昇降機能を備えるようになったのだそうだ。
うーん、歴史を感じるわね。
そんな四方山話を挟みながら朝食を終えると、いよいよ昨夜の夢の報告だ。
片付けられた食器の代わりに置かれた茶器を前にして話を始めた。
「先ずはウラさん、ウィアから『昨晩わたしと居てくれたことで、同調が取りやすくて助かりました』という言葉を預かっているので伝えます。
眠る前にいろいろお話ししていたのが良かったみたいね。
わたしからも、ウラさんありがとうね」
ウラさんが両手を拳にして口許に持っていって驚いている。
ウィアは「ミコちゃん」って呼んでたけどね。
インゲルスさんと無口さんも驚いているようだけど、ウィアからの言葉に驚くと同時に、それに驚くウラさんを見て驚いているという風にも見える。
これについても分かっているけど、それはまあ後だ。
「それで本題ですが、この大地は滅びの運命にあります。ただし滅びはずっと先、最低でも千年以上先の話です」
わたしは、わたしの言った言葉がインゲルスさんたちに沁み入るのを待った。
「それは本当……の話なのでしょう……。
しかしまたいったい何故そんなことに……」
話を疑ってかかるつもりはないらしい。
疑われても問題ないけど、行動を制限されるようになっちゃうとちょっと困るかな。
「その質問に答える前にあなた方が、ウィアとこの大地の関係を、どう考えているのか教えていただけますか?」
インゲルスさんの答えは、ほぼ予想した通りだった。
つまり、大地の女神ウィア。
大地=ウィアという図式だ。
「では認識の訂正から。
あなた方に贈物や恩寵を与えたウィアと、この大地とは別物です。
少なくとも私が逢ったウィアはそう言っていました」
「そんな……」
あら珍しい。無口さんが呟いたわね。
「この世界の大地がわたしの世界のそれと同じなら、大地は巨大な岩の塊です。
ウィアはその大地を管理する“空間知性”と名乗っていました。
今までも管理者と名乗っていたのでしたよね? たしか。
それで今回の事ですが、その大地が死病に冒されたので、その患部を処置するためにわたし達が呼ばれました。
放っておくと、大地が砕けて無くなるそうです。
とうぜん大地に生きるすべての生き物が死滅します。
ただ先ほども言いましたとおり、実際に事が起こるのは最低でも千年は先です。
わたし達に与えられた時間は九年。ただしこれは一人で事に当たった場合の事で、三人で協力すれば一年ほどで結果が出せるだろうと言っていました」
「大地が……砕けて…無くなる…」
インゲルスさんが絶句している。まあそうなるよね。
「はい。
そう言う事ですので、少々ご協力をいただきたいのです」




