24 起床
兄さんのことだけど。
『はい、なんでしょう?』
昼間、兄さんたちが順調すぎて神頼みに来ないから、託宣が降ろせないとか隙がないとか言ってたけど……。
こっちへ来てまだ一日でしょう?
なんというか、いろいろ落ち着きすぎじゃないかな? って思って。
『あああっ』
突然ウィアが両手を額にやり空を仰ぎ見た。
空だよね? 天井は見えないから
『すみません、それは未来情報なので、少しのあいだ聞かなかった事にしておいてもらえますか?』
は? 未来情報……って、未来の情報?(そのままだ)
『はい、未来の情報です。
私たちは空間だけでなく時間方向へも幅を持って存在しています。それは過去だけでなく未来に対してもで……』
ああごめん。その話はわたしじゃ絶対に理解出来ない。
月那とも兄さんとも、時間の話をして理解ができた例しがないのよ!
そこら辺りの細かい話は、兄さんや月那がいるときにしてもらうとして、思いっきりざっくりと説明するとどうなるの?
『……ヒトと対話できる程度まで演算領域を分割した私(分体)には、未来の記憶は一週間分の蓄えしかありません。
一週間毎に本体と同期を取ったさい、未来の記憶もまとめて更新されるのです』
へぇ、一週間でもすごいと思うけどね。
それで、一週間のあいだに兄さんたちがどうなるの?
『聞かなかったことにして欲しいのですが……』
いいからいいから。ほれほれ。
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「あんのぉ、バカ兄貴はぁっ! あたしの月那に何してくれてんのよ!
ぶっとばす。
ともかく一回ぶっとばす」
あたしは拳を握りしめて、誓いを立てた。
『だから聞かなかった事にしてくださいと言ってますのに。
だいたいミユキの性格がおかしくなってますよ』
「性格がなんぼのもんよ!
そう言うウィアこそ昼間と性格違うじゃない。
『は~い。呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん』」
『はう! あれは掴みにいいかなと』
うん、ウィアが新米だって言う話が、がぜん現実味を帯びてきたわね。
『酷いです。
なんだかクワン様に叱られているような気分になるのは気のせいでしょうか?』
え? クワン様ってクワン神国のクワン?
実在するの?
ウィアのお仲間?
クワン神国へ行ったら会えるのかな!?
『クワン様は実在しますけど、クワン神国へ行っても会えませんよ…くすん。
千八百年前の事件の際、この国の初代が最後の詰めを誤った付けが、大陸南方へ飛び火したのですが、わたしが頼んでそちらを補綴してくださったのがクワン様です。
その後、この惑星を任されて独り立ちしたんですよ。私』
そっかあ、それまでは仮免許だったってことかな。
なんか凄そうな……空間知性?
『ええ、同族ながら、私などでは計り知れない大きさを持った方です。
そのクワン様は、私が独り立ちしたときにこの惑星を離れていますので、いまクワン神国のクワン神殿は私が担当しています』
と言う事は、兄さんと月那を連れて、そのクワン神殿へ行けばいいのかな?
『そうです。三名揃って、クワン神国の王都セリエスにあるクワン神殿へ来てください。そこで改めて事情を説明した上で、仕事を依頼したいと考えています』
分かったわ。
『時間制限が緩いとはいえ、かなり長々と話してしまいましたね。
今日のところはこれくらいにしておきましょう。あまり詰め込んでも消化出来ないでしょうから。
次回は私の情報が更新される七日後を予定していますが、それまでに何か相談したい事が出来ましたら、身上鑑定器のある部屋でそう口にしてもらえば、その夜に今日と同じようにしてお邪魔します。伝言だけでも構いませんし、“緊急事態”でしたらそう言っていただければ、そのように対処します。
こちらから連絡があるときも同じですね。
たぶんミコちゃんから伝えてもらうことになるでしょう。
他になにか、今のうちに聞いておきたい事はありますか?』
旅の足兼護衛を用意してくれるって話だけど、いつ来て、どれくらいで向こうに着くのかしら?
『すでにツェルマートの外の平原外れにある森で待機していますから、呼べば半日とかからず到着しますよ。
クワン神国の王都セリエスまでは、寄り道なしで大急ぎに急げば十日ほどで着けますが、さすがにそれはミユキにとってきつい旅になるでしょう。
前にも言いましたが時間に余裕はありますから、途中で冒険者活動をしてレベル上げするも良し、観光などしながら向うのも良いかと。
もちろん早々に二人と合流して、向こうで一緒にレベル上げということでも問題ありません』
時間制限とかはないの?
『そうですね、さすがに千年も経ちますとヒトの手では何ともならなくなるかと思いますので、それまでにはお願いしたいです』
ながっ!
『まあそれ以前の問題として、百年こちらで暮らしたとして、元の世界へ戻って十八歳からやり直すのもいろいろと大変でしょう……』
それはちょっと……想像がつかないわね…。
『達成意欲などいろいろ勘案して、期限は今まで生きてきた時間の半分という事でどうでしょうか』
それでも9年の猶予かっ!
兄さんなんか13~14年だわ。なっが!!
最後にもう一つ、この会話の内容を総祭司長さんに何処まで話していいのかしら?
『それはミユキの判断で決めてもらって構いません。
ただ、話す内容は良く選んだ方が良いでしょう。
興味を引き過ぎて、手放してもらえなくなっても問題ですし』
ああなる程、そう言うことがあるかもなのね。
聞いておきたいのはそんなところかしら。
『分かりました。
それでは、何事もなければ七日後の夜にまた逢いましょう。
良い目覚めを』
そう言ってウィアのいる風景は、わたしの視界の中で溶けていった。
†
目が覚めた。
カーテン越しに薄い日射しが差し込んでいる。
朝か。
珍しく、というか生まれて初めて朝からしっかり目が覚めている。
疲れも取れた。
頭もすっきりだ。
うーん、ミーユンの体のせいか、いや神人の体のせいなのか。
どちらにしても凄いや。
寝台の上に起き上がり、隣を見ると空だ。
ウラさんはすでに起きているらしく、姿が見えない。
起き上がって窓のカーテンを開ける。
今日も良い天気。
ぐっと伸びをして、軽く太極拳のように柔軟体操しながら体の感触を確かめていく。
うん、良い感じ。
それが終われば、次は新しい日課だ。
掌を上に向け、上に布切れを載せて、意識を集中していく。
──“浄火”───
掌に火が生まれる。
熱くない火で、布が燃えることもない。
それを掌全体に広げていく。
広がった。
次は腕全体まで広げる。火力は増やさない。だから広がった分厚みが減っていく。
もう火が燃え上がっている感じはしない。
腕全体に火が纏わりついているという感じだ。
「きゃっ」
きゃっ?
声のした方を振り向くと、ウラさんが扉を開けて、驚いた表情でこちらを見ていた。
「ウラさん、おはよう」
「……お、…おはようございます」
驚いた顔で固まっているので、なにかな? と考えてみて気がついた。
「あ、これ?
昨夜ウィアに教えてもらった“浄火”という魔術なの。熱くないのよ。火傷もしないから大丈夫」
“浄火”を消してウラさんに近づき、掌の上に乗っていた紙片を渡す。
「ほら、ぜんぜん燃えてないでしょう?」
ウラさんは、布きれと私の腕を交互に見較べて、大丈夫とわかるとホッとしたようだった。
うん、ええ子や(年上だけど)
「総祭司長様が、お目覚めなら朝食をいかがですかと仰ってます」
インゲルスさん、ウィアとの会談の結果が待ち遠しいんですね。
「分かったわ、行きましょうウラさん」
そう言って、わたしとウラさんは部屋を出た。




