23 管理者 説明
『さて、道草はこれくらいにして本来の用件に戻りましょうか』
道草って言った!
あー、でもたしかに、さっきから横道にそれているかな。
えーと、惑星が死病を患っていて、その処置をするって話だったよね。
具体的には何をすればいいの?
『患部の除去と隔離をお願いしたいのです』
それってわたしに出来ること?
『出来ますよ。
昼間に身上鑑定器を使ったとき、熱制御という技能がありましたね。
技能の内容は祭司が説明した通りで、それを使うことで実施できます。
もう少し熟練度を上げる必要はありますけどね。
攻撃向きの熱制御技能ですが、これを防御に使えるくらいまで習熟すれば、充分に出来ます』
熱制御技能について、インゲルスさんは聞き覚えがないって言ってたけど、特別な技能だったりするのかな?
『いえ、珍しくはありますが、使い手は他にもいます。
特別なのは、ミユキの熱制御技能に対する適合性の高さと器の大きさですね。
普通は火属性魔術が他人より上手に扱えたり、冷却の術が使える程度ですが、あなたならそのずっと先を目指せるでしょう。
収納と地図作成の技能は、私からの贈り物です。
見ず知らずの場所で行動するのに、これがないと大変でしょうから、三名同じものを目一杯まで附与しておきました』
その先? よく分からないけどいずれ分かるのよね?
収納と地図作成の技能は、兄さんと月那も持ってるんだね。
カッコ付きの技能っていうのは?
インゲルスさんが隠蔽されてるって言ってたけど、なんでそんなことになってるの?
『加速思考と生命力ですね。
この二つはあなたがもともと持っていた技能です』
ええぇー! そうなの!?
『そうです。これらも依頼の達成に大きく貢献する事でしょう。ただこれが表に出ていると、こちらへ来た際に得られる新たな技能が無くなってしまうので、隠蔽を施しました。
隠しているだけで無くなった訳ではありませんから、ちゃんと使えますよ』
向こうでそんな技能があるなんて、少しも気付かなかったわ。
『平和な場所だったようですからね。技能として発現したり磨かれたりする環境ではなかったのでしょう』
そうなんだ。
兄さんと月那も同じ技能を持ってるの?
『私が贈った二つ以外は、それぞれの個性に応じたものを持っています。
ですがその詳細について今は触れません。
本人のいないところで本人も気付いていない技能の話をするのは、公正ではありませんからね』
はーい。
『魅惑の尻尾…』
それは結構です!
『そうですか……』
そもそもの話だけど、なんでわたし達だったわけ?
言っては何だけど、ふつうの学生とふつうの会社員だよ。
『それはあなたの熱制御技能と同様の理由で、他の二人の技能でも事態の解決が可能で、しかも連携することで成功率を上げたり解決までの時間を短縮することが可能だからです』
有用だ。
『そうなのですよ。
一人で事に当たる場合、必要な技能の習熟に要する期間は1年から3年と見積もっているのですが、二人なら半年から1年。三人で協力できれば1ヶ月から3ヶ月ほどで必要とする習熟度が得られると予測しています。
適切に役割分担する事で、ひとりで実行するよりも低習熟度のうちに処置が可能になると言う事ですね。
これほどの人材が、この世界と繋がりを持った場所でまとめて三名も見つかったとなれば、私に召喚しないという選択肢はありませんでした。
処置が早ければ早いほど、目的の達成難度は低く抑えられますし、星体への負担も小さくて済みますからね』
まあ、早期治療が大事なのは分かるわ。
うちにも重い病気を患った人がいたからね。
『では協力していただけますか?』
確認だけど、ちゃんと元の世界に帰れるのよね?
『ちゃんと元の世界の元の時間に戻れます。
戻る方法は、依頼達成後に私が開く送還陣を使うか、こちらの世界で死んだ場合ですね』
帰らずにこっちに残って暮らすっていうのも可能なの?
『可能ですけどお薦めはしませんよ』
なんで?
『送還陣を使わないという事は、こちらの世界で死んで戻るということになりますから』
あ、不老か。
『はい。自然死がありませんから、事故か事件か自死で帰るということになります。
ミユキの場合、私の使徒として顔を知られましたし、冒険者として名を上げる事にでもなれば』
二千年前の勇者みたいに王様になっちゃう?
『その可能性も高く有りますが、冒険者として一流以上であることが、必ずしも統治者や政治家として一流という事には繋がりませんからね。
むしろミユキを利用しようとする人たちの相手をするのに忙殺されるのではないかと
おまけに永遠の十八歳となれば、神秘方面のヒト達に神の使いと担ぎ上げられて…』
あー、それは嫌だな! 超面倒臭い!
『そうでしょう?
その上それらを上手く捌いて八百年ほど生きると、ミユキの肉を食べれば不死になれるなんて噂が立って、こんどは別の目的でヒトビトに追い回されたり』
わたしは八百比丘尼じゃな────い。
月那がそっち方面の話が好きでいろいろ聞かされてるからね!
ふつうに帰るのが一番か。
『まあまだ先の話ですから、お兄さん達とも相談してよく考えてください』
うん。わかった。
それで合流って、ゲームとは逆にわたしが騎乗資格を取って、クワン神国まで行けばいいのかな?
そうするとレベルを二十まで上げて、免許を取って、冒険者ギルドで騎獣を借りるのか。
乗り捨てって出来るのかな?
そこら辺から調べないといけないか。
『それですが、旅の足兼護衛はこちらで用意します。
クワン神国への道も知っていますから、道案内は任せて大丈夫ですよ。
ミユキはその迎えとの合流までに、出来る範囲でこちらの世界での一般常識を身につけてください』
そうなの?
なんか凄いのが来そうだけど助かるわ。
で、こちらの一般常識って?
『宿の取り方、お金の使い方が最低限。
できれば野営のし方と、地理や地勢ももしもの時のためには知っておいた方が良いでしょう』
旅のための知識いろいろね。わかったわ。
†
いくつか不思議に思う事があるのだけど、訊いていい?
『どうぞ。いい機会ですからいくらでも答えますよ』
ありがと。じゃあ、神殿の第二世代身上鑑定器でわたしを調べた時、種族が“猫族神人”と出たんだけど、この体を作ったのはウィアなのよね?
空間知性は神じゃないんじゃなかった?
『あの表示は、読む者が最大限理解出来る形で表示されるのですよ。
読む者がまったく理解できない表示はほぼしません。
例えば、巫女ちゃんの鑑定結果が、“人族”と出ましたね』
巫女ちゃんて……。
『ここの人族はおのれの出自が“猿”であることを認識していません。こちらの大陸に、猿がいないという理由もありますけどね。
猿族は、木に掴まって過ごしていたことから、直立状態への適応が他種族よりも早く、脳の発達で他種族に先んじることになりました。もともと群れをつくる習性があったことや、遠くをよく見るために目を二つとも前方へ持っていった事から立体視知覚を得ることで、さらなる進化への優位を得た種族なのです。
ですが短命種の常で、自分たちの出自を忘れて久しく、外観から出自を想像出来ないほど変化した今では“猿族”と表示しても自分の事と理解できませんし、後ろがまったく見えないという欠点も忘れてしまい、これまでもこれからも今の状態が普通なのだと考えるようになっています。
同じ理由で、わたしが作ったから“空間知性人”と表示しても、説明されなければ誰にも、それこそミユキにも理解できなかったことでしょう。
それで“上位者”という認識で“神”という言葉が使われて、“神”に作られた“人”という意味で“神人”と表示されています。
正確には表示でもないんですけどね』
け、結構深い話だったわ……。
『機会があるなら、もう一度第二世代の身上鑑定器で自分を調べてみてください。
ミユキは真相を知った訳ですから、もしかしたら“空間知性人”と読めるかも知れませんよ。
あれは文字も表示していますが、身上鑑定器を持つ知性種族の認識の中から最も妥当な概念を、闇属性術を使って見ていると認識させる動作をしています。
一種の拡張現実装置ですね』
めんどくさー。
『ミユキもかなりその面倒くさい動作の恩恵を受けていますよ。
言葉や文字の翻訳というかたちでね』
あー。そのせいなのか、不思議だったんだよ。
あれ物凄く助かったわ。
上位者…そこは否定しないのね。
『それは否定のしようがありません。
私達の存在が、その階梯からして上位にあるのは、疑いようもない事実です。
この世界の先端種族と異なるのは、私たちの前身が機械知性であり、それを創ったのがここのではない別の猿族であることを、私たちが忘れていないということです』
次回、起床します(やっと)。




