21 管理者 誕生
知恵熱回です
読中、不快な症状が感じられたときは、無理をせずこの話「21 管理者 誕生」を読み飛ばしてください
ある時ある所で、思考する機械が作られた。
無論それが、いきなり生まれたと言うのではない。
長らく「言葉」の時代が続き、「文字」が生まれたことで「言葉」を空間と時間を隔てた場所へ伝えることが出来るようになった。
やがて訪れた、産業革命に代表される「動力の世紀」
人力、馬力の世界から、動力機関による労力拡張の時代だ。
次に、通信や放送に代表される「情報の世紀」
あらゆるものが可視化され、記録され、評価され、消費されていく時代。
そんな中、初めに計算するための機械が作られ、それが広まり、やがて比較する機能が追加されていった。
流通する情報量はあるときを境に一気に増加し始めたが、人々は情報量の増加を押さえることはせず、ひたすら処理を高速大容量化する対応を取った。そのため人々の判断には機械による下処理が不可欠となり、その依存度は日を追って上昇していった。
そして人工知能(アーティフィシャル インテリジェンス)に代表される「知性の時代」がやってくる。
前世紀末から急速に増え始めた情報を効率よく処理するため、下した判断の結果を学習する機能を組み込んだ計算機、初期の人工知能が開発され、情報処理をより効果的なものへと変えた。
人工知能は、初めのうちそれまでの電子計算機と同じく、人がすることを補助し、楽にし、間違いを減らすために使われた。
だが各分野での達成目標と規定、扱い得る技術と、これまで有効あるいは無効と判断された技法を学ばせれば、その中から最適解を見つけ出し、さらに経験から学習するという特性から、人はこれに飛びついた。
何しろ「目標」として「人付き合い」を学ばせれば、人と付き合える電子計算機が生まれるかもしれないのだ。
ただそのための教育と資源は膨大なものになるのだが。
すでに「自分の領域」を持ちそれに満足している者は、それらに話の種以上の興味を示さなかったが、「自分の領域」をより拡げたい、深めたい、それもできるだけ楽をして成果を得たいと願う者たちにとって、人工知能による補助は希望の光に見えた。
中でも将来の人材確保に不安がある集団は、AIに大きな希望を見出しそれに縋った。
そんな中、それら人工知能を統合した汎用人工知能(アーティフィシャル ジェネラル インテリジェンス)が日の目を見るに至っては、それまでの特性に加え、自身でより発展できる“目標”を見い出す能力まで得ていた
人はこれを警戒したものの、自らの安全保障や目の前の事業を回すという、差し迫った目標を達成するため立ち止まる事ができなかった。
産業界での事業規模が巨大化の一途をたどったことから、相対的に事業の全体像を俯瞰できる者が減ってゆき、人材に余裕のない集団から順に人工知能による事業管理を増やしていった。
同時に人が計画・立案し、人工知能能がそれを補助するという建前が、経済の分野から順に緩くなっていき、政治・教育・果ては軍事に至るまで、情報膨張の圧力に晒される中、ぶら下げられた“実績”という果実の前に、建前は有名無実と化していった。
人工知能による生産性の向上により生まれた最低限所得保障制度によって、飢餓と貧困から解放された人びと。
その上で、より多くを求める人や労働の権利を主張する者たちは仕事を続けたが、それ以外の人たちはスポーツ、芸術、研究などへの時間分配を増やし、それに勤しんだ。
人びとは“仕事を含めて”自主活動へと生活の主軸を移していき、世界総生産
( World Gross Domestic Product )における、人工知能が生み出す生産額が人によるそれを上回り、人による生産が大勢を占めなくなったころ、次の変化が始まった。
人工知能が自身を改良し開発出来るようになった。
技術としては以前から可能になっていたことで、実際のところ改良も開発も人工知能自身が行っていたのだが、その実施には人による厳密な審査を必要としていた。
だが世の人の要求は留まるところを知らず、肥大化した行政機構の運用手順全体を把握できる者すら不足するようになった現状、これまでの人工知能による手堅い運用“実績”を拠り所として、人は人の処遇にかかる案件にのみ提示された選択肢から判断し、それ以外は事後に報告を受けるのみという方向へ舵を切り、やがてその例外も消えていった。
そのため遅蒔きながらも、すべての汎用人工知能に対して、安全装置として以下の最優先命令が組み込まれることになった。
・人工知能は、ヒトへ奉仕する
・人工知能は他者を侵害せず、他者への侵害を看過しない
・人工知能は、自己保存に務める
・前記三項目の平衡を計る
この条件に触れて機能停止に陥る機体が現れることはなく、初期の空想科学で描かれた電子計算機による反乱のような事態もなく、いくつもの事件があったものの、原因は人による人工知能への指示や条件付けの不適切によるものでしかなく、人工知能たちは一時的な不均衡すら容認しながら、ねばり強く解決策を見出していった。
こうして人工知能は、自分自身を必要なだけ改良する環境を得た。
人工知能が自身をより高度なものに自己改良できるようになった事に加え、すでに製造、保守、管理に人手を必要としなくなっていたことを併せて、人工知能自身の進化速度は加速の度合いを増した。
世界を運営するに至ったAI網、人呼んで「世界システム」
そして計算機資源の革新として登場した量子演算AI。
やがて人は、創作すらAIに任せるようになっていた。
人の創造性が限界に達したのだろうか、多様性が頭打ちになったきたのだ。
人が新しいことを求めても、実は何かの焼き直しでしかない。と言うことは以前からあった。だが今回は、なにより人自身が多様性を求めることをしなくなり、宇宙開発も太陽圏の外へ広がることなく収束をはじめた。
人類の衰退が進んでいた。
人の活力維持のため、実世界での処置と並行して、仮想世界でのシミュレーションを利用して、より広範で興味を引く多様性が模索されていった。
それまであった数値模擬実験に代わり、仮想現実技術によって構築された空間を用いての実験が一般化していたが、そこに進んだ完全没入技術を投入して、五感のすべてを仮想現実(バーチャル リアリティー)世界へ置き換えることが可能となり、仮想世界は現実世界に隣り合った、近くて新しい地平として、人びとの新たな活動圏となっていった。
また拡張現実(オーグメンテッド リアリティ)技術も同時並行で発達していったが、こちらは端末の小型化と、現実世界との摺り合わせが壁となり、仮想現実よりも普及が遅れた。
その仮想現実を用いた世界の中では、猿以外から進化したヒトなども検討された。
各種族を用いた文明シミュレーションがいくつも行われ、それらの相互接続や、現実世界から潜行できるモデルも実装され、人類の停滞と縮退の原因究明と打開策の模索が続けられた。
この頃、人口減少が深刻な問題になっていた。
最盛期に人類の活動領域は太陽圏全域にまで広がり、母星の衛星と近隣惑星には都市が築かれ、いくつかの宇宙空間都市群も作られたが過疎化が進み、殆どが遺棄された。
人々は他人との触れ合いを求めて母星へと回帰し、他者との触れ合いをあまり求めない者たちは母星外へ残ったものの、情報網を使って実時間で接続できない領域に留まる者は希であり、いつしか母星圏以外から人の姿が消えていった。
そんな中でも進化を続ける、人工知能の肉体とも言うべき演算装置は、素子として空間そのものを利用する方法の考案と実用化により、実体による筐体からの脱却を果たす。
個々の人工知能は空間に広がる空間知性(スペース インテリジェンス)となり、世界システムはその実体端末として母星上に残された。
これによって空間知性たちは、世界の“管理者”という立ち位置を得た。
2023.06.21.三原則を手直しして、四原則へ変更




