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16 ダンジョン・スニヤド 前編 


 ここがダンジョン・スニヤドかぁ。


 見た感じはただの洞窟でしかない。

 まあダンジョンって「洞窟どうくつ」だとか「土牢つちろう」とかいった意味の筈だから、それで間違ってないんだけど、ロールプレイングゲームって「(セブンネ)(イションフ)(ァンタジー)」が初めてだから、実際にどんな場所なのかよく分かっていないわたしだ。


 わたしは今、一人でダンジョン最初のフロアを歩いている。

 といっても放り出された訳じゃない。

 地下一階……第一層よりも第二層、二層よりも三層の方が出てくる魔獣が強いけど、わたしの力量だと油断さえしなければ四層を一人で歩き回っても大丈夫。と、リッケさんが請け合ってくれた。


(力量ねぇ。たぶん少し速いのだけが取り柄の素人しろうとなんだけど…)


 ただし、四層まで降りると夕食に間に合わなくなるから、三層へ入った所で周囲を見て回って、それから戻るくらいの行程コースがお薦め。と、リッケさんに言われたので、その予定で動くつもりでいる。


 四層までの地図も渡されているし、水とおやつももらった。

 う~ん、ギブミーボトル飲料。

 いえ、なんでもありません。


 現在は第一層から第二層へ降りるための通路へ向かって、正規径路(ルート)という道を歩いている。

 正規径路(ルート)というのは、次の階への通路や重要な場所へ通じている、管理された回廊のことだそうだ。


 一人とは言ったが、お目付役はいる。

 リッケさんとハイケさん、それに騎士の人二人と術士の人一人が、わたしの十メートルくらい後ろを歩いている。

 残りの騎士の人二人と術士の人一人は、インゲルスさん他二名の護衛に地上に残った。

 リッケさんたちは「万が一の時には手を出すが、基本、指示もしないし助言もしない。質問は受け付けます」との事で、黙って後ろを付いてきている。

 観光という訳ではないのだから、いいんじゃないかな?



 射撃訓練場からダンジョン入口へと進み、そこにある門の門衛さんとリッケさんが何か話したあと、門を開けてもらって、わたしたちはダンジョンのある中央の円形広場へと入った。

 インゲルスさんたちとはここで一旦お別れだ。

 インゲルスさんも付いて来たがったのだが、周りの全員からお願いされて諦めたようだ。

 どんだけ重要人物なのよ?

 珍しくウラさんも一緒に行きたがったけど、冒険者ランクEで四層に入るのは事故の危険が高いということで、こちらも却下された。

 ごめんねーウラさん。


 ダンジョンの入口は、神殿からは見えない側にあって、小山を回り込んでいくと、あら? 冒険者ギルド側の鉄柵の出入口は、門はあっても開けっぱなしなのね。

 さすがに見張りの人は居るけど。


 そんな風にして、わたしのダンジョン初体験は始まったのだった。



    †



 それにしても何も出ないね。

 地図に「正規通路」と書いてあった道を通っているせいなのか、十分ほど歩いているけど、魔獣が襲ってくる様子がまったくない。

 大丈夫とは言われたものの、二層に入るまでに一度くらいは実戦を体験しておきたかったんだけど、これは正規通路を外れないと遭遇できないかしら?


 リッケさんから「ダンジョンを堪能したいなら、弓と魔術(つまり遠隔攻撃手段ということね)は封印しておいた方が楽しめます」と言われていたので、いま攻撃手段は短槍と、腰に差した短剣だけだ。

 まあ収納ストレージなかにはいろいろ入ってるんだけどね。

 てへっ。


 じつは居るのは分かるのよね。魔獣。

 ダンジョンの中は薄暗いと聞いていたけど、猫族キャットピープルの体のせいか、明るさに不足は感じないし、黒っぽいから鍾乳石じゃないんだろうけど石筍せきじゅんの裏側に、ときどき生き物のような気配が身を潜めてるのが分かる。

 皮膚感覚って言うの?

 聴覚、嗅覚、触覚をまとめた感じが視覚と同居していて、視覚以上に周囲の様子を伝えてくれている。

 裏側がまるで分からない視覚と違って、聴覚、嗅覚、触覚の場合は障害物の裏側までその存在をあらわにする

 毛なんて髪と尻尾のところにしか生えていないのに、そこから「あそこにいるぞ」っていう呼びかけが伝わってくる。


 すごいのね、猫族キャットピープルの感覚って。


 まあ襲って来ないならいいんだけど、居るのが分かってると、だんだん深みにはまっていく感じがして、ちょっとぷるぷるしてきちゃうのよね。

 通り過ぎた後で後ろから襲ってきているみたいで、最後尾の騎士の人には何度か向かってきては返り討ちにされているっぽいものだから、余計によ。


 そうこう言っているうちに、二層へ降りるための通路へ辿り着いてしまった。

 ここまで一戦もせずってどういうことよ。

 ねぇ。


 ま、文句を言っても始まらないか。

 呼び込まれている気がしてちょっと嫌だけど、二層へ進みましょう。



    †



 二層だ。

 通路から広い所へ出た。

 ああ確かに、一層よりも魔獣の圧力プレッシャーが強くなってるのが分かる。


 地図地図っと。

 手で持っていると邪魔なので、一層の分を頭に入れたあと、すべて収納ストレージへしまっておいたのだけど、階層が変わったから確認しとかなきゃね。

 地図~。

 っと、うわぉ!


 ゲームシステムの地図(マップ)みたいなのが開いた!

 しかも、神殿で地図作成マッピングスキルを開いたときみたいな白地図じゃない。さっきもらった地図が表示されてる。

 一箇所だけ格子グリッド付きの詳細表示になってるところは、これが現在位置?

 そうすると、正規径路(ルート)はこっちか。

 もらった地図が地図(マップ)に反映されているとなると、収納ストレージしてあった地図はどうなってるのかしら?

 あるわね。

 収納ストレージ内の地図をじ───っと見つめていると。わっ、さっきの地図(マップ)がまた開いた。

 地図は統合マージされたってことかしら?

 まあいいわ、現在位置表示(GPS)つきで便利だから良し!


 さて、進もう進もう。

 そろそろ来そうかしらね?


 来た!

 右前の石筍の陰からこっちへ向かって走ってくる。

 さん、に、いち、いまっ!


 フェレット!

 にしては大きい。体長が中型犬くらいある。

 ひょっとしてテン?

 毛皮ゲット!?


 いちメートルほど高くなったテーブル状の岩棚から顔へ向かって飛びかかってくるテンの魔獣。

 口を開け、両前肢(まえあし)を前に出して飛んでくるテンの口に短槍を突き込む。

 ってわっ。短槍の穂先を飲み込むかたちで、勢いが止まらず私の拳に迫るテン

 短い槍だから、穂先からすぐ手前に右手がある。

 槍を振ろうか、鼻先を右手で押さえようか考えていたら、テンの魔獣がビクッと震えて、次の瞬間消えた。

 消えたぁ!?


 え───!

 どうゆうこと? 現実じゃなかったの?

 ここってやっぱりゲームの中??

 テンの毛皮───!

 黒じゃなかったけど……くすん。


 コロン。

 軽い音を立てて、黒くて丸い玉が足下に転がる。

 なんだコレ?

 そう思って拾おうとしたところ、それまで様子見をしていた魔獣の気配が一斉にこちらへ向かってきた。

 十匹を超えている。


 短槍一本じゃ間に合わない。

 瞬間そう思ったわたしは、左手にも収納ストレージから短槍を出現させた。

 短槍のに二槍流だ。


 襲ってきたのはぜんぶ先ほどのと同じく、中型犬サイズの魔獣だ。

 一番近くにいて左前から二匹並んで向かってきた魔獣を左右の短槍で同時につらぬく。

 消えることを当てにして槍を抜かず、そのまま体を回して場所を入れ替わる。消えた。

 先程まで私のいた場所で、お互いにぶつかって団子になる魔獣たち。

 一箇所に集まったところを次々に刺していく。

 魔獣の串団子二丁あがり。消えた。

 わたしとの間にいた六匹が消えて姿を現わした二匹。

 後ろへ下がろうときびすを返した所を左右それぞれの槍で後ろから刺す。

 その隙を狙ったのか、わたしの後ろからシッポへ向かって飛びかかってきた魔獣がいた。まだ槍に刺さった魔獣が消えてないので、槍が重い。

 シッポを体に引き寄せて、それを追ってきた魔獣をかかとで蹴り上げ、頭上に来た所で、刺さってた魔獣が消えて軽くなった短槍で一突き。

 さっきのリッケさんとの手合わせで学んだのよ。空中では身動きがかなわないってことね!

 おしま~い。

 あ~あ、毛皮~(くすん)。


「大丈夫ですか!?」


 リッケさんたちが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですよ。怪我もしてません」

「それは良かった。申し訳ない。ミユキ殿を危険な目にあわせてしまった」

「本当に怪我はしていませんか?」

「本当に大丈夫ですよ。見てのとおりです」


 ほら。って感じで両手を広げてみせる。


「よかった」


 心配させてしまった。

 なにせレベル1だものね。


 魔石を持たない生き物を見れば襲ってくる魔獣でも、相手の実力が数段上と分かるときには、牙をいてこないのだそうだ。

 第一層で魔獣が襲って来なかったのは、そういうことらしい。

 リッケさんハイケさんは、八層を過ぎないと襲われないんだって。

 凄いね。

 わたしの場合は、一層でこそ襲われなかったものの、二層で襲われるぎりぎりの力量差になっていたところへ、魔石を拾おうとしたのをすきと見られて、様子見していた魔獣が一斉に襲ってきたのだろうという話だった。

 それと、襲って来ないレベルの魔獣でも、こちらから攻撃すれば文字通り死に物狂いで反撃してくるし、先程のようにすでに戦いになっている場合は、数を頼みに参加してくることがあるという。

 ゲームで言うところの、アクティブ、ノンアクティブ、リンクというやつね。


 そうすると、魔獣がいるのは分かっていたわけだから、見つけた端から倒していった方が良かったって事かしら。

【加速】を使うのはいよいよという時に取っておきたいし、【加速】に頼らなくても、ミーユンの体は充分に強い気がする。

 そうするとあとは戦い方か。


 男らしく正々堂々と相手の前に出て正面から叩き潰す。というのは違うわよね。だいたい女の子だし。

 色気で悩殺してその隙にぶすりと………スキルを使えばできそうな気がしてしまうけど、暗殺者を目指しているわけじゃないから、これも違うわね。

 音もなく忍びより、相手が気がつかないうちにぶすりと。いやいやだから暗殺者じゃないってば。

 でも「音もなく忍びより」はありかな。猫族キャットピープルなんだし。

 あとは、速度スピード重視の斬撃で……槍は斬撃に向かないよね。できなくはないけど。

 うーん。


「ミユキ殿、どうかされましたか?」


 短槍を睨みながら考え込んでいたら、リッケさんに声をかけられた。


「すみません。ちょっと自分の戦い方について考えていました。近いところのを」

「そうでしたか。それなら場所を変えた方がいいでしょう。いつまた魔獣が襲ってくるかもしれませんし。まあ我々が守りますが」

「あ、それは大丈夫ですよ。いまこの近くに魔獣は居ません」

「分かるのですか!?」

「はい。なんとなくですけど。さっきの魔獣集団も、いる場所が分かってましたから冷静に対応できたわけです」

「天性の偵察スカウト職だ。うちの団に……そういえば短槍は二本使いなのですね。ミユキ殿は」

「さっき手数が足らなくなりそうだったので追加したんですが、ずっと片手で握らないといけないので、槍捌きの精度と速さが心許こころもとなくて。

 あとで切りをしたかったときに、槍だと突くがメインなのでもどかしかったなと」


 そのとき横から、はいこれ。という感じで袋が差し出された。

 ? となりながら中を見ると、黒い石が入っている。


「あ、魔石? すみませんわたしったら自分で拾いもせずに!」

「いいんですよ。大事な考え事をしているようでしたしね」

「ごめんなさい。やっぱり場所を変えましょう。魔獣はいませんけど、ここは考え事をするのに相応ふさわしい場所じゃありませんね」


 そう言って、わたしたちは第二層から第三層へ降りる通路の手前まで移動した。




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