14 鑑定判別 遠距離戦闘術
ゲーム「セブン ネイション ファンタジー オンライン」
そこでわたしの分身、ミーユンが最初に降り立った街。ゼーデス王国の王都ツェルマート。
友人の月那と交代で歩き回った街の中には、ダンジョンまであった。
“ダンジョン・スニヤド”
インゲルスさんと話していて、ここがゲーム「SNF」とよく似た世界と、頭で理解はしていたけど、見知った風景に出会って衝撃を受けた。
本当に日本じゃない場所へ来ているんだ。
自慢じゃないけど、歩いて行けない外国のどこかに置き去りにされて、家まで無事に帰り着ける自信なんて、まるでない。
ましてやここは…。
「ミユキ殿、どうかされましたか?」
知らないうちに足が止まっていたらしい。
そうか、直前まで話をしていたハイケさんが、足を止めてわたしを訝かって声をかけてくれたようだ。
「すみません、大丈夫です。
急に見知った景色が目の前に現れてたもので、呆然としてしまいました」
「ミユキ殿は以前にもここへ来たことがあるのですか?」
「いえ、見知ったと言っても絵で見た事があるだけです。あれはダンジョン…ですよね?」
「そうです。あれが“ダンジョン”。
このゼーデス王国建国の要因となった、“ダンジョン・スニヤド”。その入口です」
「ミユキ殿はダンジョンに興味がおありですか?」
リッケさんが話しに入ってきた。
「そうですね、興味はあります。好きになれるかどうかは分かりませんけど」
「そうですか。それでは後程入ってみましょうか」
「ええっ?」
リッケさんが軽~くそんなことを言ってきた。
なんでそんな提案をしてきたのか分からないけど、いいかもしれない。
なんといってもダンジョンだ。日本には、いや地球には無いものなんだ。
ウィアとの話次第では、明日にでもここを立つことになるかも知れない。
なら今のうちに。そういう事よ。
†
ドイツ製高級車の旗章のように、敷地を三つに分ける放射状の柵。高さ四メートルくらいのその柵……、四メートル?
あ───っ。
この猫族の体、前とどれくらいサイズが違うのか分からないから、目測に意味がなーい。
ん──────。
まいっか。
八分の一とかになったわけじゃなし、ヤードだのポンドだのとか言われてもどのみち困るんだから、気にするのはやめよう。
見た目で判断!
困った事に突き当たったら、その時また何か考えよう(真幸は開き直った)。
その高さ四メートルの柵から十メートルほど離れた柵沿いに、射場があった。
神殿の建物寄りに射場が一列に並び、横の壁はなく、そしてなんと三メートルほどの高さに天井が張ってある!
曲射軌道で距離を稼ぐのを認めてないのね、ここは。
的は俵の形をした重そうなものが台に乗っていて、的の後ろは盛り土が天井まで達している。
射場から的への距離は、二十メートルから百メートルまで、二十メートルごとに五種類が各ニレーンだ。
射場の手前に階段があって、上へ引き上げられるようになっているのが、よく分からない。
屋根の上になにかあるのかしら?
「ここが私どもの射撃訓練場です。弓でも魔術でも、的へ向かってお好きなように打っていただいて構いませんよ」
射場へ着くと、リッケさんがそう言ってきた。
好きなようにか。難しいな。
「では、普通の弓から射らせていただきますね」
どうぞ。と促されたので、先ずは柵側にあるいちばん短い「二十メートルレーン」に立つ。
高校にあった射場と同じ感じに見える。
まずは手首と足首などを回して、しっかりと柔軟。
収納から弓を出すが、これは背負ったかたちよりも手元に出てきた方がいいわね。その分矢筒を背中に持って行って。いえいいわ、後よあと。
レベル1装備の弓と木の矢。
全長百二十センチくらいの素朴で可愛いワンピースボウだ。
スタンプ、セット、ノック、アップ、ドロー。
パラドックスがどの程度になるか分からなかったので、とりあえず真っ直ぐ的の中心を狙ってリリース、そしてフォロー。
あら、やや左寄り、でも9点の範囲だね。
修正してもう一射。的中。
いちおう確認で、和弓風なつがえ方をして、リリース。的中。素直ないい弓ね。
隣の「四十メートルレーン」へ移って射る。
的中。
うん、この弓、この距離でまっすぐ打って中央に着弾する調整なのね。
問題なく三射して次へ。
「六十メートルレーン」
大学へ行く楽しみのひとつが、このクラスのレーンがあることなのよね。
それにしても良く的が見えるわ。ミーユンの眼は優秀ね。
風の流れや音、匂いもすごくよく感じ取れる。
室内に居るときには分からなかったけど、世界がとっても彩り豊かだわ。いまなら百メートルレーンでも射れるんじゃないかしら。
そんなことを思ったときもありました。
的を狙って、リリース。
そして的の手前で力尽き地に落ちる矢。
限界だ。レベル1装備の限界が来てしまった。たぶん。
ここが日本ならすこし上の方向を狙って撃ち、曲射軌道で当たりを狙う所だけど、ここには天井が張ってあるからそれは出来ない。
でも負けない。
物理が駄目なら術理があるのよ。
ここで“炎の矢”の出番でしょう(ちゃんと出てね、お願い)。
気を取り直して、新しい矢を番える。
ゲームの時のようなメニューはないから、収納を使ったときと同じ要領で魔術名を思い浮かべてリリース。
【炎の矢】
よし出た!
放たれた矢が炎を纏って的へ飛ぶ。
的中。
炎の矢が的に刺さって、その勢いのままに炎が的を包み込む。
的が燃えるものなら、一瞬で火だるまね。
恐いわー。
駄目だったら笑ってごまかそうと思ったけど、ゲームと同じにちゃんと出たわね、炎の矢。
次は弓あり矢なしで【炎の矢】。
的中。
弓あり矢ありの“炎の矢”よりも威力は低い。「ありあり」だと全身火だるまなのが、「ありなし」だと上半身火だるま位まで威力が下がる。
どちらにしても、人に使ったら即死コースね。
恐いわー。
ともかく、このあたりもゲームでやったのと同じ感じで変化してるようだ。
次は「なしなし」で。
弓を収納にしまい、架空の弓を引いて、【炎の矢】。
的中。
届いた。
ゲームでは較べてなかったけど、炎の矢の方が普通の弓矢よりも射程が長いみたい。
いちおう弓士を自認しているわたしとしては、なんか釈然としないかな。
いえこれはきっとレベル1のせいよ! レベルが上がれば高レベル装備の弓で矢の射程も伸びるはず!
さて気を取り直して次のレーン、「八十メートルレーン」に挑戦。
引き続き弓なし矢なしで、架空の弓を引いて、【炎の矢】。
あら残念、炎の矢が途中で力尽き燃え尽きたわね。
実体の矢は六十メートルレーンで力尽きたし、最後は弓あり矢ありで挑戦ね。
【炎の矢】
的中。
さて最後の、「百メートルレーン」に挑戦。
さくさく行こう。
当然弓あり矢ありで。
【炎の矢】
あうう残念、力尽き燃え尽きたわ。
これがレベル1の限界です。
残心のあと振り返り、「以上です。お粗末さまでした」と口にするが、反応がない。
何故か皆さん銅像にクラスチェンジしている。
「リッケさ~ん、ハイケさ~ん、インゲルスさ~ん、ウラさ~ん、ほかの名前を知らない皆さ~ん、終わりましたよ」
「ああ…、お疲れさまでした」
最初に動き出したのはリッケさんだった。
「ミユキ殿、たしかレベル1と聞いていたのですが、間違いありませんか?」
「午前中に五階の身上鑑定器で計りまして、その後は食事とここへ来ただけですから、変わってないと思いますよ」
なんだろね?
「なにか可笑しかったでしょうか」
「五階で測った……」
リッケさんがもの問いたげにインゲルスさんの方を見て、インゲルスさんが無言で頷き、それでリッケさんも納得した様子だ。
「失礼しました。レベル1の弓士が第二レーンを楽々と射通し、第三レーン以降も魔術を併用して射たのは、恥ずかしながら初めて目にした光景ですので驚いてしまいました…」
四十メートルレーンは第二レーンと言うらしい。
「その上魔術はたいへん強力ですし、すべてが無詠唱だったのにも驚かされました」
ハイケさんがそう続けた。
「さもありなん。ミユキ様はウィア様の使徒でいらっしゃる」
「「 はっ!? 」」
インゲルスさんがうんうんと頷きながらそう言うと、リッケさん、ハイケさんが声を出して驚き、片膝ついて頭を下げた。他の人たちもすぐに二人に倣い、立っているのは五階から一緒の四人だけになった。
「やめてください。頭を上げて立ってください」
「いやしかし…」
すぐに立ってくれるように言ったのだが、動いてくれる様子がない。
インゲルスさんもそこは伝えてなかったんだね。言わないなら最後まで言わずにいて欲しかったな。
「普通にしてください。わたしはウィアに呼ばれたらしいですが、何の用で呼ばれたのかはまだ聞かされてないんです。用事が静かに運ぶ必要がある事なら地位ある方のその態度は大いに目立ちます。わたしは故郷でただの学生なんです」
あまり理路整然としてはいないが、ウィアを崇めている人たちならばこそ聞き入れてくれそうな台詞を織り交ぜてお願いしてみた。
こんな落ち着かない状況は一刻も早く終わりにしたい。
効果はあったようで、リッケさん、ハイケさんが視線を交わらせてから立ち上がり、他の騎士術士の人たちもやがてそれに倣った。
勘弁して欲しいわ。




