12 暦と時間
歴名というものはございません。
過去にはあり、今でも昔ながらの歴を使い続けている国はございますが、少なくとも外務対応は現在使われている暦で統一されておりますので、個々の国の歴史などに興味を持つのでなければ歴名を気にする必要はないでしょう。
このウィアで刻というのは、昼と夜をそれぞれ12に刻んだものを均して、1日、つまり1昼夜を24に刻み、その1区分を1刻と呼んでおります。
1年が365日、閏年では366日で、これをやはり12等分して12ヶ月、1月は基本30日となっております。
余った5日を季節ごとに1日づつ割り振っていくと、31日の月が年に4回。まだ残っている1日と閏年の1日は、1年の始まりの月、つまり1月に加えられます。
この加えられた年5日もしくは6日というのが、季節の初めの月に割り当てられて、季節ごとにある休日となっております。
月 日 休日
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1月 32日~33日 2~3日
冬 2月 30日
3月 30日
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4月 31日 1日
春 5月 30日
6月 30日
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7月 31日 1日
夏 8月 30日
9月 30日
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10月 31日 1日
秋 11月 30日
12月 30日
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まとめると、このような感じですな。
一年の始まりは、日の出がいちばん遅くなる日ですので、太陽暦と呼ばれております。
日付とは別にここ数百年、魔術の七属性、「光」「火」「風」「水」「土」「闇」「空」を使った「曜日」というものが割り当てられておりまして、7日で一巡いたします。
先ほど上でもご説明いたしました、属性魔術四種の相変化と温度の関係。それに加えて、魔術としてはあまり一般的ではございませんが「火」が極まると「光」属性に、「土」が極まると「闇」属性に至るという説がありまして、さらにそれらを包括している「空」属性魔術。
この七属性が曜日として割り当てられております。
この地で空属性魔術は、初歩である整理箱と収納の使い手はそこそこおりまして、それは物流の一翼を担えるほどなのでございますが、その上位となります転移や転移陣の使い手はほとんど居ないか、時代によってはまったく居りません。
原因は不明でございます。
話が逸れました、暦の話でしたな。
曜日というものは、手近な周期性としての便利さから浸透しておりますが、曜日自体に固有の意味は持たされておりません。
固有の意味のある日というと、やはり季節の休日でございましょうな。
季節の変わり目にあたる月。1月、4月、7月、10月の最初の日に休日が設けられております。
ただ、休日だからといって魔獣の脅威が無くなる訳ではございませんので、国や領主、騎士団、冒険者組合などは、事実上24刻365日の全日稼働となっております。
そこと取引がある商業組合や鍛冶組合らもいきおい似たような状況になっておりますな。
さすがに夜は一般向けの窓口を閉めるものの、どこも当直や夜間受付でなにがしか対応のための窓口を残しております。
個々の休みは輪番制で取っておりますが、年中同じ調子で張り詰め続けるのも大変でございますから、季節を区切る日をなるべく休みにする日として定めたのが、季節始めの休日の由来でございます。
大手はいささか大変でございますが、現場の冒険者や個人の商店、工房などは好きに休みを取っておりますよ。
もちろん仕事を休めば収入もお休みとなるわけですが、休みと仕事を自由に選べるという意味では、国などよりも選択肢が多ございますな。
さすがに同業者組合に加盟しているような店や工房は、最寄りの同業店と休みが重ならないような配慮をしているようでございますがね。
そして本日は1821年4月1日。春の始まりの休日でございました。
いえいえお邪魔なものですか。
春の初めに大地母神様からの素晴らしい贈物でございますよ。あなた様は。
†
この世界の日、週、月、年というような暦についてインゲルスさんから概略説明を受けた。
ウィアが現れた短い時間について話をするのに、この世界での時間について予め知っておきたかったからよ。
元の世界の暦ととっても近かったので、理解しやすかったのはありがたかったわ。
それで一般の人にとってこの世界の時間というのは、1時間(1刻)まで。その下の短い区切りはせいぜいその時の1刻に属するか、次の1刻に近いのか(30分過ぎ)くらいまでしか使われていないそうだ。
じゃあ分や秒はまったく未知の領域なの? 想像もされていないの? というとそんなこともなく、ちゃんとある所にはありました。
何処に?
ここでした。
五階にあった身上鑑定器。
あれは暦と刻を表示してくれて、その表示は第七世代に至るまでどの鑑定器にも備わっているらしい。
驚いたことに若い世代の、つまり小型の鑑定器を遠く離れた場所へ移動させると、時計の表示も変わるのだそうだ。
「○○○○/○○/○○ ○○:○○ ○○+△△」という表示になるんだそうで、「○」の部分は全部の鑑定器で共通で、「△」の部分が置き場所によって変化するんだそうよ。
これって時差に自動で対応してるってことよね。
さっきまでしてもらっていた暦と時間の説明も、鑑定器に表示される時間と自然の時間との関連を、研究して紐付けたものだそうよ。
なんだかすごいね。
で、「△」の項目が「0」になるのはどこなのかしら? って、訊いたわたしが莫迦でした。
そう、それも「ここ」だったのです。
そんな時計のネットワークみたいなものがあるなら、グリニッジ標準時みたいな場所はどこかしら? くらいの軽い気持ちで訊いたのだけど、もう何と突っ込みを入れたらいいのやら。
神器だしね(投げやり)。
ともかく。秒までの細かく表示する時計は、しかるべき所へ行けばある。ということでした。
でも一般の人が実生活で手軽に時を知る手段は、太陽の高さか3刻ごとの教会の鐘くらいで、そんなに細かい時間まで気にせずに、ゆるやかな生活をしているので、正確な時間というのは一般には普及してないということなのだそうだ。
けど「秒」についての理解があるのは助かったわ。
少なくともインゲルスさんたちはそれを理解しているから、説明するにも言い換える必要がない。
あとは、ウィアいわく千倍に加速した状態で、話をしていた時間を1分として、60秒割る1000で0.06秒。
1秒の100分の6だ。
文字通り瞬きする間の出来事ってわけね。
でもよかった。これならストップウォッチで扱える範囲だから、わたしにも実感できる。
兄さんなんかときどき「1ミリ秒で音が30センチ動くから…」とか言い始めるから、たまに……ちょくちょく話について行けなくなるのよね。




