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4           後編  


『この辺で今日は休もうか』


 その後もドロスとわたし、お互いにいい感触になるところを探りながら歩を進めた後、ドロスが野営のできそうな場所を見つけたようだ。

 わたしに屋外活動キャンプのスキルはないから、このあたりは取りあえずドロスにお任せとなる。

 しばらくすると日没という時間だ。

 一応テントも持ってきてるけど、どうしようか。


「ねえドロス、夜はどうやって眠るの?」

『ここで良いんじゃない? 大きな木があるから夜露に濡れることもないでしょ』


 やっぱり野宿か。


『寒いようなら、こっちへ来てもいいし』


 寒さは……たぶん大丈夫よね。わたしのスキル的に。

 あれれ? そうすると、このまま野宿で差し障りって……ないのかな?


「寒さはたぶん大丈夫だから。ともかく夕食にしましょうか」

『わかった。じゃあ獲物を獲ってくるね』

「うん、よろしく」


 あれ? これから獲物を獲ってくるって言うと、ドロスは夕食は食べないつもりだったのかな?

 キャンプといえば焚き火(キャンプファイア)だから、火だけ焚いておこうか。

 冒険者ギルドの講習で「暗くなってから火を焚くと、人の気配を嗅ぎつけた魔獣が襲って来るから火は焚くな」と言ってた。だけど周囲に魔獣の気配はないし。


 そう言えば朝、神殿の人たちと話をして以来、人の声を聞いていない。

 ドロスは人の言葉で意思疎通できるけど、リンクフィラーでテレパシーみたいにして話ができるだけ。

 耳で人の声をまったく聞いていないのだ。

 近くの街まで通り過ぎちゃったから、ちょっと人恋しいのかな。


 周囲に散らばっている木の枝を集めて火を点ける。

 わたしの“熱制御サーマルコントロール”スキルで、着火は一発。

 あたりが暗くなってきたからか、焚き火の光がけっこう眩しい。

 火をできるだけ小さくして、けっきょく最後は自分との間に一抱えある岩まで挟んだ。

 そっか、猫族キャットピープルの体だから、暗いところでも平気なせいだね。きっと。



 まさかクワン神国行きが裸犬乗りと野宿になるなんて思ってなかったから、ちょっとびっくりしたよ。

 野営の訓練なんてDランク昇級講義の時だけだ。あとは宿や神殿で快適に暮らしていたもんね。

 元の世界での合宿は何とか学習センターみたいなところだったし、屋外でのキャンプなんて初めて。

 でも料理は収納ストレージの中でやれる、暗くても目は見える、夜露に濡れるのは困るけど、暑さ寒さは自力でなんとでもなる。

 火を焚く意味が、ほぼないじゃん。

 ウィアの作った体って、文明から離れて生活するのに向いてるんだ……。


 き火の必要はなさそうだけど、食事の間に灯りがないのも寂しいので火をチョピリだけ残しておく。夕食が終わったら、消せばいいかな。

 空を見れば満天の星じゃない、地平線だけがほんのり赤い。

 別の惑星のはずなのに、天の川っぽいものまで見える。

 三日月が出てるけど、元の世界よりも小さいね。

 少しすると、ドロスの足音が聞こえてきた。


『ただいま』

『お帰りなさい』

『はい獲物』

『ありがと』


 ドロスが岩の上に獲物を出してくれた。

 尻尾が平たいから、ビーバーみたいに見える。

 ビーバーって食べられるの? ま、毒じゃないだろうから食べてみよっか。

 続きは? と思ったら、後がない。


『ドロスの分は?』

『ないよ。いつも夜は食べないから』


 そうなんだ。


『夜は食べないって言うと、普段の食事はどんなタイミングでとってるのかな』

『朝起きて、移動の途中で獲物がいれば食べる。日が傾き始めて、獲物がいれば食べる……かな。基本的には、おなかが空けば食べる感じだね』


 そっか、元の世界でもツェルマートでも普通に三食食べてたけど、ドロスは午前と午後で昼間二食が普通なんだ。

 と言うことは、この獲物って自分では食べないけど、わたしの為に獲ってきてくれたのか。


『そう言う事なら、夜の獲物は獲って来なくて大丈夫よ。お弁当をたくさん持ってきてるから、わたしはそれを夕食にするわ』

『わかった』


 さて、明日からはそうするとして、今日のコレはどうしよう。

 このビーバーっぽい動物は、昼間の角ウサギよりずっと大っきい。

 角ウサギでも半身で良かったのに、これだと肢が一本あれば十分だわ。


『ねえドロス』

『なに?』

『これ一匹は多いから、明日の朝ふたりで食べましょう。今日の夕食は、持ってきているお弁当を食べることにするわ』

『これを朝に食べるの?』

『別に今でもいいけど、ドロスは夕食を食べないんでしょう?』

『うん』

収納ストレージに入れておけば痛まないから、朝か、なんならもっと後で食べても問題ないでしょう?』

『そうなの?!』


 へっ?


『いつもそうしてないの? ドロスにも収納ストレージがあるんだから、同じ事ができそうに思えるんだけど』

『そうなの?!』


 ええっ!? ドロスの収納ストレージってウィアから貰ってるのよね。同じ事が出来る……とは限らないか。でも少なくとも収納ストレージはできるんだし、近いものじゃないのかなあ。


『今まではどうしてたの? 収納ストレージってずっと持っていたんじゃないの??』

『持ってたよ、収納。今の体になってから、ずっとある。使ったのは今日が初めてだけど』


 持ってただけで、ぜんぜん使ってなかったのか。

 そういえば“時計”も持っているけど使っていないって言ってたね。


『時計も使ってないってウィアが言ってたけど、もしかして収納ストレージも使っていなかったって事?』

『そう』


 ガ───ン。


 そうなんだ。

 こんなに便利なのに、ウィアの収納ストレージ




 話を聞いてみると、とくに困る事がなかったから使っていなかったみたいだ。

 おなかが減れば獲物を探して歩き、動物でも魔獣でも捕まえて食べる。

 日が暮れたら眠る。

 それでお腹をすかせる日も、困った事もなかったらしい。

 それはそれで凄いね。


 わたしの収納ストレージには無い機能もあった。

 相方さんと収納ストレージを共有しているのだ。

 つまり、ツェルマートの大地母神ウィア神殿にある復活の間でウィアにリンクフィラー(接続アンテナ)を渡し、ウィアが改造して自宅にいる相方さんへ渡す。それを収納ストレージ共有シェアしているドロスが取り出して、わたしに渡した。

 と言う事らしい。


『なるほどねー』


 話がひと区切りついたから、それでは夕食を──と思ったところで、



 ポン──



 と着信のチャイムが響いた。

 もう完全に日が暮れてるわ。

 ウラさんかな?


 ああぁ、夕食が(涙)。



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