2 すり合わせ 前編
ドロスがちっちゃくなった。
小さいと言っても最初の子犬サイズじゃなくて、今は普通にマスティフの成犬サイズ。
つまり体の大きさを変えられるのが、ドロスのスキルってこと?
そのドロスにもらった角うさぎを収納して、中で体温を下げつつ血抜きをする。
ついでにこのまま解体と調理までできないかな? あら、できそうじゃない。
よしよし、このまま進めよう。
『最初に確認しておきたんだけど』
収納内で解体をしながら、ドロスに話しかけた。
手元に集中しなくていいって便利だわ。
安心安全。汚れもないし、汚しもしない。
いいやり方あるじゃない。
『何かな?』
こちらも声に出すわけじゃなくて頭で考えるだけだから、ふつうに食べながら話ができるみたい。
ドロスが角うさぎ(生きてた方)のお腹をさいて、臓物を食べながら言った。
便利だけど、これもちょっとお行儀が悪いね。
『ドロスが走ってわたしが乗せてもらうって話だけど、この先も同じようにわたしを乗せて走ってくれるのかな? さっきみたいな走り方でずっと走り続けられるの? それともあれは一時的な速さ? 無理せず走って、目的地のクワン神国王都までどれくらいかかるんだろ?』
神殿騎士団・術士団の騎獣をあっという間に引き離したスピードは凄かったけど、あれが瞬発力ならずっと続けられる訳じゃないでしょう。でもここまで2刻くらい走ってるのに、疲れた様子が見えない。だから今までの調子でずっと走れるのかもしれない。
そもそもスピードメーターがないので、どれくらいの速さなのかも分からないんだけど。
ウィア──セノラさん?──は『大変だけど十日で走りきれる』と言っていたけど、そんな無理をさせるつもりはない。
わたし的には、国際ギルド便の“普通便”が二ヶ月かかるらしいので、その半分の一ヶ月を目安に、後は様子を見ながら考えればいいかなと思っている。
輸送依頼の荷物もあるけど、ギルドの評定なんて「 B(普通) 」で十分なんだよね。
そのためにも、どれくらいなら無理なく走れるのか目安が欲しいわけ。
『この先も、ミユキを乗せて走るつもりだよ』
この調子が続くってことか。
だとすると、いくつか気になる点が出てくるんだけど。
『走り続けるのも問題ないね。速度ももっと上げられる』
まだスピードが上がるんだ、ほんとに凄いんだな。ちょっと期待しちゃうかな。
『ただこれ以上速度を上げるとなると、少し変わった方法を取ることになるから、お昼ごはんの後はそれをやって見ようか』
変わった方法?
まあいいか。やって見せると言ってるんだし、百聞は一見にしかずだよね。
『ミユキの方こそ体は大丈夫なの? もしキツいようならもっと大人しい走り方もできるよ』
わたしも自分の体のことが気になっていたんだけど、こちらは問題なさそうだ。
騎射について調べた時に流鏑馬を見学した事があるけど、あれは大変だと感じて諦めた。騎乗した状態での、騎手の体の上下がとっても大きかったんだよね。
あれじゃ矢が当たる方が不思議だし、乗ってるだけで消耗しちゃう。
今回は騎射の必要はないけど、逆にドロスには鞍も鐙も付いてない。
裸犬乗りなんだよ。
それでも疲れたとか、腰やお尻が痛いなんてことはない。
さすがウィア謹製の、無駄に頑丈な体だね!
『わたしも大丈夫。疲れはないし、体が痛いなんてこともないよ』
『そりゃ凄いね』
わたし場合は、体の製作者のウィアが凄いんだけどね。
ドロスの方こそ、本当に凄い。
あのスピードで2刻近く走り続けて問題ないどころか、まだスピードが上がるって言うんだから。
などと話をしながら、収納内で解体終了。
自分の分の角うさぎ半身分を確保。
残りの一式を適当な板を出して、その上に取り出す。
「はい。お肉を半身だけもらったから、その他をどうぞ」
やっぱり地面に直置きするのは、抵抗ある。ドロスは平気みたいだけど。
『ミユキは食べないの?』
「ただいま収納内で調理中。すぐに出来るからそしたら食べるよ」
収納でここまでするのは初めてだから、ちょっと心配はあった。でも血抜きが出来るなら解体は? 解体ができたなら調理もと、やってみたら出来るできる。
加熱調理まで出来たのには、大喜びだよ。
考えてみれば収納内で氷が作れるんだから、加熱だってできるよね。
わたしのスキル“熱制御”って目標の温度を直接上下させるから、ノータイムで中まで火が入る! 細かい調整までできるみたいで、ますます便利だ。
今日は簡単に塩コショウとニンニクで、ガーリックラビット。
もう半分くらい火が通っている。
角うさぎ肉を百五十度に保って十数分。
天火釜の余熱や食材の中まで火が通る時間を見なくて済むから、普通の加熱調理より時間が短くすみそう。
当然ながら、調理する収納枠では、状態変化を“有効”にしている。
角うさぎの肉なら煮た方が美味しいけど、今は時間をかけない方がいいよね。
付け合わせの野菜を加えて一緒に加熱すると。
できたー!
「じゃーん、こんな感じです」
でき上がったガーリックラビットをカットして、お皿に載せて取り出す。
『へー、美味しいのかな?』
「美味しいよ。んー、ホントに美味しい!」
『ねえねえ』
「なになに?」
『一口ちょうだい』
「うんいいよ。はい」
わたしは大きめの肉と野菜を一切れずつ、ドロスの前にある板に乗せる。
パクッと一呑みにした、ドロスの顔が緩む。
『おいしいね』
「でっしょー」
ドロスがブンブン尻尾を振っている。
『残りの半身も同じにしてくれるかな。腸以外の内臓と骨も一緒に、野菜と味付けは半分にして』
「了解りょうかい」
けっこう細かいオーダー来た!
腸はさすがに中身を抜いて、臭み取りをしないと食べられないよね。
そのうちそれもやってみよう。




