1 旅の始まり
わたし敦守真幸は三月の終わり、別の大学へ行くことになった高校の友人“佐橋月那”と多人数参加型オンラインロールプレイングゲーム「セブン・ネイション・ファンタジー・オンライン」、通称「SNF」を始めることにした。
だけど機械にうとい月那とわたしは、ゲームを始める手ほどきを兄の敦守達弥に頼む必要があったのね。
兄さんに手伝ってもらって見事ゲームアバターを登録したわたしは、翌日、月那に手ほどきしながら、意気揚々と彼女のゲームアバターを登録した。
筈だったのになぜか、わたしと彼女の出発国が違ってしまった。
何て事!
キャラクターの種族が違うと別の国になりやすいなんて、聞いてないよ!
原因は取扱説明書の読み落し(泣)。
わたしも月那も気合いを入れてキャラクターを作ったから、今さら顔や名前を変えたくないの!
だから助けて! 兄ヱ門!!
再度兄さんに助けを求めたわたし達は、兄が示したお助け方法の中から「一方が、兄の助けを受けつつ促成でレベルを上げて騎乗免許を取り、騎獣で国を移動して合流する」という方法を選んた。
合流してから神殿で、レベルをリセットしてやり直せるらしいのよ。
月那と兄さんがレベル上げを始める中、手持ち無沙汰なわたしは「どうせなら月那が来たとき一緒にレベルリセットできるようレベルを上げておこう」と決意、一人で街の外へ飛び出した。
だけど悲しいレベル一桁。
強い魔獣に倒されて、気付いたときは神殿の“復活の間”!
それも現実の!!
しかも体がゲームの猫族アバターになってる!
ゲームどこ行ったの?!
目覚めた神殿に祭られていたのは、SNFと同じ大地母神ウィア。と呼ばれる、実はどこかの世界で人工知能から進化した機械知性がさらに進化した空間知性とかいう存在だった。
わたし達をこの惑星へ呼んだ彼女(性別はないらしいけど)は、「自分が直接手を下すと、波及効果で地上の生き物が死に絶える」という作業を、代わりに穏当にできる適合者を探して、わたし達を呼んだらしい。
そう、わたし達なのだ。
わたし一人じゃなくって、月那と兄さんもこの世界へ呼ばれているのだ。って、ウィアが言うんだよ。
事のあらましを聞かされて、「まずは二人と合流してちょうだい」と頼まれたわたしは、付け焼き刃だけど戦闘訓練を受け、スキルを磨き、自力でも移動できるようDランク冒険者の昇級審査と騎乗免許試験をクリアして、最低限の移動要件を手に入れた。
まさか現実で騎獣の騎乗免許を取るとは思わなかったわ。
ギルドの皆さん、神殿の皆さん、とくにウラさん。協力してくれてありがとう。
そしてウィアが用意してくれた案内人(?)さんと落ち合い、見送る神殿騎士団・神殿術士団の騎獣隊を振り切って、始まりの街“ゼーデス王国王都ツェルマート”から旅立ったのでした。
今ココね。
†
『ねえドロス、一度ストップしてもらっていい?』
『はいよ。そろそろおお腹が減ったかな? お昼時だからね』
「だーれが“腹ぺこ猫”よ! わたしはそんなに食い意地張ってな────い!」
みんなそう言うんだよね、失礼しちゃう。
『そうなの? ミユキは技能を使ったあと猛烈にお腹が空くって、セノラが言ってたけどね』
「セノラ? って誰??」
『セノラ・ウィア、あたしらのご主人だよ』
「セノラ・ウィア!? ってそれウィアのこと?!」
どういう事? 空間知性のウィアが地上で犬を放し飼いにして……いても変…じゃないのか……。
言葉の分かるワンちゃんだけど、森精族なんて眷属もいるわけだし。
ん?
あたしら?
“あたしら”の中にわたしは含まれてないと思うから……、というと。
「あたしらって言うことは、ドロスみたいな……犬? が他にもいるってこと?」
『いるよ。あたしの連れ合いが』
既婚者だった!
……別に不思議じゃないのか。
『でも他にはいないって。セノラが言うには、あたしら二頭は一度死んだんだそうだ。それをセノラが生き返らせてくれて、そしたら今度はセノラが空にのぼった。それでその後は、セノラが空から話してくれるようになったんだよ』
生き返らせた!
まあウィアならそれくらいしそうか。
なにしろ人を異世界へ連れてきちゃうような存在だもんね。
わたしのこの猫族の体はウィア渾身の作らしいし、この宇宙もウィアのお仲間が創ったとか言っていたし。
アバター使って地上に降りた事があるとも言ってたから、ドロスの話はそのときの事かな。
そうすると、犬族って種族はいないってことか。
『立ち止まって話だけしてても実がないから、ともかくお昼にしようよ。それ』
と言ったドロスはひょいと茂みに近付くと、無造作に頭を突っ込んで何か咥えてこちらへ放ってきた。
角うさぎだ。一瞬で……。
首のひと噛みで仕留められた角うさぎをキャッチしたわたしを降ろしたドロスは、もう一度別の茂みに頭を突っ込む。
すると今度は角うさぎが飛び出してきた。
こっちへ向かってくる。
手前でジャンプして頭(角)から突っ込んできた角うさぎを、手を伸ばして首筋つまんでぶら下げた。
これくらいなら【加速思考】を使うまでもない。
結果、両手に一匹ずつの角うさぎがいて、一方が暴れている。
「これは?」
『お昼ご飯だよ』
現地調達だ! それも生っ!!
『一匹で足りる? もう一匹は自分用のつもりだったけど、足りなきゃもっと取ってくるよ』
「足りる足りる。足りると言うか、生肉か」
ドロスって基本的に“わんこ”なんだね。
まあ犬なんだけど。
立派な黒マスティフだ。
『他に何かいる?』
「あー、野菜とか果物……とか?」
「ごめん。自分であんまり食べないから、そのあたりは分からないや」
犬って肉食主体だからね。
野生の犬(?)、狼か。は、肉だけ食べて生きている……だっけ?
ビタミンなんかは内臓でとってたような?
ドッグフードなんて、ないもんね。
人間でも昔のエスキモーが、そんな暮らしをしていたはずだ。
『猫も肉食だから、同じでいいと思ったけど』
「そっちか───! わたしは人。猿から進化した、人なのよ。猫族は仮の姿!』
今度はわたしがドロスへ、わたしがウィアの世界に来たいきさつを説明することになった。
『そっか、見た目は“猫族”だけど、中身は“猿族”って事なんだね』
“猿”……確かに“猿”……。なんだけど、なーんか引っ掛かるわね………。
そっか、“猿”で意味が通じているからか。
いま突っ込むと話が進まないから、そこは後にしておいて。
『でも体が“猫”だと新陳代謝は猫かもしれないから、一度肉食を試してみた方が良くない?』
キャットフード食べて美味しいか!? わたし!
「今のところは結構です。こっちへ来てからずっとこれまで通りの食生活で問題なかったから、当面は雑食でやってみます。お弁当も持ってきてるからね」
ケミーナさんも普通に食事していたから、猫族の食生活も普通に雑食なんじゃないかなあ。
わたしの収納には、食べ物がいっぱい入ってる。状態変化無効って便利よね!
とくに沢山持ってきたのが飲み水、それと野菜や果物。
肉は現地調達できそうなので在庫は僅か。少な目なのが穀物。結局お米は見つからなかったし……、旅の合間にゆっくり炊いたり捏ねたり伸ばしたりしてられないから諦めたよ。
でも本当のところどうなんだろ? ミーユンの体って、肉食した方がいいのかな?
ともかくせっかくわたしのために獲ってくれた獲物なんだし、お肉はこれをもらうとして、これに野菜を足して。
「でも折角の新鮮なお肉なんで、半身だけいただきますね。ドロスこそ、その体で角うさぎ一匹で足るの?」
『あたしは問題なし。小さくなれば食べる量も少なくて済むし、いっぱい食べたければ体を大きくすればいっぱい食べられる』
何それ、どうゆうこと?
ドロスの新陳代謝こそ、どうなってるのよ!
ドロスって、小さくなれば食事も少なくて済む……の?
沢山食べたい時は体を大きくするって、どうゆうこと??
突っ込みどころが一杯あるんだけど……、
「とりあえず、食べながら話そうか」
『そだね……』
新年おめでとうございます。
真幸編を再開します。
本年もよろしくお願いいたします。




