100 旅立ち
『それじゃあ出かけるかい?』
わたしはまだ話をしているウラさんとマヌエラさんに目をやった。
『ドロスさん、……もうちょっと待ってもらってもいいですか?』
『問題ないよ。ウィアからは「できるだけミユキのしたいようにさせてあげて」と言われてる』
うう、ウィアから信頼されているな……ーんてことは、ないない。
核爆発を起こしても気にしない人だから(ヒトじゃないけど)、基本的に大雑把なんだね。わたしたち人間から見てだろうけど。
まあいいや。やりたいようにやらせてくれるなら、それはそれで助かる話だ。
「ウラさん、マヌエラさん」
「はい、何でしょう?」「どうかしたの?」
「二人にお渡ししたいものがありますので、ちょっといいですか?」
「渡したいものですか?」
「何かしら……」
考えてみたら、二人ともウィアの関係者なんだよね。
と言うかここにいる四人(三人と一匹?)、まとめて全員ウィアの関係者だ。
わたしは、わたし達に何か頼み事があると言うウィアに彼女の管理世界へ連れてこられたそうだ。わたし達のゲームアバターを基にして、ウィアが作った体へわたしの意識と記憶を入れたらしい。
友人の月那と兄さんは別の国にいるので、合流のためにドロスさんとクワン神国へ旅立つところ。
ドロスさんはかわいい黒マスティフの子犬だけど、リンクフィラーを通して意思を通わせることができる。今回わたしをクワン神国まで案内してくれる犬で、ウィアからリンクフィラーを預かってきてくれた犬だ。
ウラさんは大地母神を祀る神殿の巫女さんで、世界に三器あると言う第二世代身上鑑定器の使い手だ。
わたしの冒険者としての相方でもある。
マヌエラさんは冒険者ギルドの職員だけど、種族が森精族なんだよね。
エルフはウィアが四億年前(!)に契約した植物系種族の動物型分身が種として独立したものだそうで、今でもウィアの手の者として活動しているらしい。
この二人にならドロスさんと同様、リンクフィラーを渡しても問題ないでしょう。
ハッキリ言って思い付きだけど、この二人にもリンクフィラーを渡した方が後々上手く行きそうな気がする。
ゼーデス王国に残る人に持っててもらえば、遠距離通話の確認もできるよね。
という事で、まずは第二世代のリンクフィラーの二つ目を作ろう。
──アイテム名、リンクフィラーよりリンクフィラー#1を生成
Yes/No
順調に#0の次は#1だ。
細かい所はあとで“HELP”を見るとして、今はともかくはい、“Yes”。
すると収納に、リンクフィラー#1が現れた。
外観はさっきと同じ、並んで流れる紺色の“流星”マークが二つ。
できた“リンクフィラー#1”を取り出して、
「ウラさん、ちょっと失礼するね」
と言って、リンクフィラーをウラさんの襟元に着ける。
「えっ、リンクフィラーを装備、確定って……」
よしよし、ちゃんと使用者が認められたね。
というか、収納がないウラさんにも声が聞こえたって事は、あの声みたいなのは収納じゃなくてリンクフィラーが原因なのかな。
これもあとで確認だ。
『ウラさん、聞こえる? 声に出さずに頭で考えて返事して』
『ミユキさん。こうですか? これは一体……』
『すぐに説明するんで、もうちょっとだけそのままにしててね』
『は、はい』
そりゃ驚くよね。
でも説明は、二人まとめた方が面倒がないから。
『じゃあまずこう考えて。「アイテム名、リンクフィラー第二世代より第三世代を生成」』
『あ、……これ…』
うまく子世代が出来たみたいね。
「次はウラさんからマヌエラさんへ、わたしがしたのと同じようにして渡してみて」
と、声に出して言う。
「はい。マヌエラさん、失礼します」
「ちょっと…」
「すぐに説明しますから」
「頼むわよ…え、これって」
よしよし、こっちもちゃんと装着できたみたいだ。
マヌエラさんへ着けた第三世代の見た目は、並んで流れる“流星”が三つ。色は青くなっている。
これはもう“流星群”マークと言っていいんじゃないかな?
デザインはこっちの方がカッコイイと思う。
色はわたし的に、紺色が好みかな。
カスタマイズは出来るかな~。
『あーあー、二人とも聞こえますか? 聞こえたら声に出さなくていいので、声を出すつもりで頭で考えてみてください』
『はい、聞こえます』
『こう? どうかしら、聞こえてる?』
『ちゃんと聞こえてますよ』
『私にも聞こえました。これはどういう……』
よし、二人とも無事に装着完了ね。
『いま着けてもらったのは、“リンクフィラー”という名前のアイテムです。何のためのアイテムかというと、こうやって口に出さずに考えるだけで話が伝わります。なぜこれを着けてもらったかというと、ここにいる四…名が全員ウィアの関係者だからです』
「「えっ」」
『四名? あとの一名って……、まさか』
『ドロスだ』「キャン」
ドロスさんがリンクフィラーで名乗ったあと、実声で鳴いた。
『嘘だろう──』
『かわいいですね』
『可愛いもんか! どれだけの同胞がコイツに倒されたと思ってるんだ』
『分かりません。どれだけなんです?』
ウラさんも、ナチュラルに煽るね。
『知るもんか! 数えるのも莫迦らしい数だ!!』
ありゃりゃ、わりと根深そうだぞ。早まったかな?
『マヌエラさんって、ドロスさんが話ができると知ってたんですか?』
『いや……、それは今初めて知った』
『じゃあこれからは話が通じるわけです。今後いろいろと話し合ってみてください』
言葉が通じるからって話が通じるとは限らないけど、兎にも角にも話してみないと始まらないよね。
角兎じゃないからね。
どちらもウィアの眷属同士なんだから、仲良くできればそれに超した事はない……といいな。
いざとなったら着拒もできるみたいだから、最悪でも離れていれば今までと変わらないでしょう。
と、おちゃらけ気味に考えながら、わたしが何をしていたかというと。
話の合間に一秒くらいずつ百倍加速しながらリンクフィラーの“HELP”を読んでました。
一秒間を百倍加速して体感時間は百秒。一分四十秒あれば一項目か二項目は読み切れるんだよね。
着拒の事もそれで知った。
これは伝えておいた方が良いかな。
先ほどウラさん用に第二世代を作った時に付いた枝番号は、そのリンクフィラーのいくつ目の子供なのかを表わしているんだそうだ。
『今のようにリンクフィラーを他の人に渡す場合の話をします。ウラさんに渡したリンクフィラーは第二世代で、子供は100個作れます。その子供、つまりマヌエラさんが着けている第三世代は、子供を1000個作れます。さらにその子供という風に、作れる子供の数が一桁ずつ増えます。つまり無限に増やせるわけではありませんから、渡す相手と残りの数には注意してください』
そんな話をしながら、わたしは四名が参加するリンクフィラー通話を聞く専用にして、ドロスさんにソロ通話で話しかけた。
『ドロスさん、この通話は他の二人には聞こえません。どうやってクワン神国まで移動するんでしょう、他の方が騎獣を用意して待機してるんでしょうか? 教えてもらえますか?』
『ドロスでいいよ。急ぎのときは短い方がいい。へえ、こんな使い方も出来るんだね。移動方法は簡単だよ、私がミユキを乗せて走る。単純だろう』
『大きさ的に無理がありません?』
『見えている通りの大きさじゃない。と言っておくよ』
マヌエラさんが言っていた「大きな黒い体の犬」って話は、合ってるのか。
『へー、わたしを乗せて走り出すまでどれくらい時間がかかるんですか?』
『そうだね、合図をもらって三つ数える間に走り出せるよ』
『あそこの騎獣たちを振り切れますか』
『楽勝だね』
『わあ、凄いですね。じゃあそろそろ、走り出す準備をしておいてください』
『承知した』
『それじゃあまるっきり、身上鑑定器じゃないか』
『そうですね。リンクフィラーはわたしが元いた場所から持ち込んだものですが、この世界で使えるように改造したのはウィアですから、同じ技術を使っているんじゃないでしょうか』
『何だって!』
『ミユキさんそれは本当ですか!?』
『ウィアがリンクフィラーに追加した機能として、同世代以下の身上鑑定器に、少し離れたところから遠隔で接続操作できるという機能があるんで、まったく別の技術ってことは無いと思いますよ。細かいところは“HELP”を読んでください』
『『な!‥‥‥』』
二人とも口をあけたまま固まっちゃった。ちょっと刺激が強かったかな。
ウラさんは普段から第二世代を使っている人だから、自分が使う身上鑑定器に遠隔で接続できたらいいかな。と思って、第二世代のリンクフィラーを渡した。
その神殿の身上鑑定器に外から繋げられては不味いだろうから、マヌエラさんのリンクフィラーは一世代下げて第三世代のものを渡したんだ。
あとは“HELP”を読んで使ってね。
『ですから、これを渡す相手と世代は慎重に選んでくださいね』
『なに考えてるんだよお前。冒険者組合の身上鑑定主器でさえ第三世代だよ。と言うか、国が持っているものでも第三世代以下なんだからな!』
お前呼びになっちゃった。やっぱりこの人、けっこう子供だぞ。
それにしても、国でも第三世代なのか。
と言うか、なんで冒険者ギルドが国と同世代の身上鑑定器を持ってるんだろう?
突っ込み所は色々あるけど、気にし始めたら出発できなくなる。
このあたりが切り上げ時かな。
『それじゃあ名残は尽きませんが、そろそろ発ちます。日が暮れたら一度連絡してみてください』
「インゲルス様、ミユキ様が発たれます!」
ウラさんがインゲルスさんに向かってそう叫んだ。
インゲルスさんの方を見ると、
「ミユキ様! どうぞこれだけお持ちください!」
と言って、自分の横に立たせた大きなトランクを手で指した。
何だろう?
まあ収納があるから大きさは関係ないし、せっかくだから貰って行こうかな。
『行こう、ドロス』
『承知』
『あのお爺さんの近くを騎獣くらいの速さで抜けてくれる? 停まる必要はないから、そのまま出発で』
『了解』
言うが早いか、ドロスが大きくなった。
大っきい。
頭の高さが一メートルを越えている。体の長さも三メートルを越えた(尻尾を含めない)。
“虎”よりおっきいんじゃないかな?
姿も子犬じゃなくて、立派な成犬になっている。
カッコイイね。
『乗って』
言われて背中にまたがる。
一瞬少し下がったと思ったら、次の瞬間前へ進んでいた。
速い!
三歩で騎獣の速歩ぐらいの速さになった。
『すぐに追いつくから』
ドロスがインゲルスさんから三メートルくらいの所を通過した瞬間、わたしはドロスから飛び下りる。
そしてインゲルスさんの横のトランクを収納し、インゲルスさんにバイバイっと手を振ってからドロスへ向かって駆け出した。
【身体強化】全開。
【加速思考】は、二倍でいいかな。
「全員騎乗! ミユキ様をお見送りする!」
リッケさんが号令をかけた。
やっぱりか!
わたしはドロスに追いつき、再びその背にまたがる。
「お待たせ。じゃあ出かけましょう」
『やるね。人にしておくのは惜しいよ。振り落とされないでおくれ』
ドロスがさらにスピードを上げた。
神殿騎士の早い人はもう走り出してるけど、すでに全体が豆粒のように小さくなっている。
これは追いつくのは無理だね。
さすがウィアの眷属だよ。
こうしてわたしは、現地の人に大地母神として崇められている空間知性によって連れてこられた、始まりの街“ゼーデス王国王都ツェルマート”から旅立った。
転移から九日目。
現地時間 1821年4月9日 だね。
“第一部”の閉幕です。
続けて“第二部”などと考えていたところ、突然PCの m.2 SSD がクラッシュ。
執筆用ではありませんが、執筆用は執筆用で改造とアップデートで楽しく延命してきた元Win8.1マシンです。
流石に次はないだろうと考えていたところへ落下事故。外れたバッテリーを養生テープで押さえつつ、届いたnewPCの環境構築をゆるゆると始めたところにもう一台がクラッシュした格好です。
対応で忙しさが二乗倍になりました(笑)。
そんなこんなで一区切りついた“真幸編”を書くための時間を、色々先送りにしてきた事柄の実施へ振り向けようと思います。
“本編”は継続の予定です。
それでは再開まで、“真幸編”は暫し別れと致します <(_ _)>




