10 降臨
なんでもここは聖地だったらしい。
でもってわたしが神人?
神器、神獣、神人の神人。
神様が手ずから創った人ってなによ?
帰っていいかな。ていうか帰らせて欲しいな。
せ……
責任者出てこーい!!
そう心の中で叫んだ瞬間、世界が光って凍り付いた!
『は~い。
呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん』
古っ。
いったいいつの時代のギャグよ!
『あら、こちらの世界ではまだ誰も使っていませんよ。
というか、ミユキちゃんだってまだ生まれてないころのお話でしょうに、なぜ知ってるのです?』
わっ。わたしは白黒アニメのライブラリーを漁ってるときに観かけたのよ。
というか、心の中の突っ込みに突っ込み返すなんて、……そんな非常識なことをするの……は…ウィア…さま?
『はい、そう呼ばれてます。
初めまして。そしてようこそ私の管理世界へ。ミユキさん』
心の中で突っ込みを入れつつ声のした方を向くと、ウラさんがにこにこ笑いながらこっちを見ていた。
首が重いよ!
だけど話をしているのに口は動いていない。というか微動だにしていない。笑顔で固まってる。
さらに周囲を視界に入れると、インゲルスさんも無口さんも、一様に固まっていた。
時間が止まってる?
『いいえ、私たちが少しだけ早く存在しているだけ。ミユキさんの場合これで十分意思疎通がはかれるから、ちょっと省エネです』
わたしの場合…だけ? 省エネ?
『そう。さっきした鑑定の中で、思考加速という技能があったでしょう? その効果ですね。
今だいたい通常より千倍くらい速く存在していますから、この状態で十五分お話ししたとしても、他の人には一秒くらいでしかありません』
ああ、だから周りの人が固まって見えて、首を巡らせるのにあんなに苦労したんだ。
それでわたしをこの世界に呼んだのがウィア様ということでしょうか。
なにか御用でも?
『様はいらないわ。ウィアって呼んで。私もミユキって呼ばせてもらいたいから。
ミユキには迎えをやったんだけど、ちゃんと辿り着いてもらったようで嬉しいわ。
で、お願いなんだけどね。ミユキのお友達のルナさんとお兄さんのタツヤさんのところへ行ってもらいたいのよ』
兄さんと月那ってやっぱりこっちへ来てるんですか?
無事なんですか?
『来ています。元気ですよ。
無事というか、順調すぎて神頼みをしに神殿へ顔を出してくれないものだから、託宣を降ろす隙がないのですよ。
ミユキのお兄さん、隙がなさ過ぎですよね。
いざとなればそうも言っていられないのだけど、なまじ時間に余裕があるのが徒になっていますね』
隙ってなによ、隙って。
でも良かったー。兄さんたち元気にしてるんだ。
それで、兄さんたちのところへ行ってどうするんです?
『そのあたりのことは今夜お話しましょうか』
今夜?
『そう今夜。ミユキの夢にお邪魔します。そこなら降臨の必要もないし。人目もなくてさらに低コストだからね、もっとゆっくりお話しできるというわけです。
それじゃあそろそろ戻るけど、最後にひとつだけ忠告を』
はい?
『加速思考の効果が終わるとき、ちょっとした衝撃があるのでその心積もりをしておいてね。
ああ、そんなに心配する必要はありませんよ。すぐに通り過ぎるから。でも気を抜いているときに衝撃を受けるとけっこう辛いからね。
そのあとはまあ本能が命ずるままに行動すればいいから。
では、また今夜』
バイバイと言いながらウィアは消えた。
ウィアが居たというその場の空気が溶けていく。素速く、でもとてもふんわりとした感じで。
フレンドリーな神様だね。いや、管理者さんだっけか。
ウィアが消えると、凍て付いていた世界がふたたび動きだした。
それと共に体にも衝撃がやってきた。どんどん強くなる。うわっ、これはキツいわ。全身でこむら返りを起こしたみたいだ。
やーん。と思った瞬間にはその衝撃は潮が引くように遠のいていき、深呼吸一つする間に完全に消え去った。
よかった。ウィアの言ってたとおりね。一瞬の事だったけど、これは確かに知らなかったらパニックになっていたかも知れないわ。
それよりお腹が空いたな。そういえば起きてからなにも食べてないや。
「いま………なにか…起こりましたかな?」
インゲルスさんの声が聞こえた。そうか、置物と化してたけど復活してるんだ。
インゲルスさんは無口さんを見、ウラさんを見て、最後にわたしに視線を向けたまま動かなくなった。
わたしに答えてくれってことなのね。はい。分かりました。
「ウィアが来てました」
「なんと、大地母神様が。急に空気が変わったような気がしたのですが、そうですか。大地母神様が……」
しまった。呼び捨てでって言われたからつい呼び捨てちゃったけど、この人達にとってウィアって神様だったわね。
気分を悪くしたかな?
「あの、ウィアが“さま”はいらない。ウィアと呼んでって言ったもので呼び捨ててしまいましたけど、お気に障るようなら直します…よ?」
インゲルスさんが無口さんの方を見ると、無口さんが頷き、それからまたこっちへ視線を戻して言った。
「いいえ、それには及びません。大地母神様がそのように望まれたのでしたら、われわれが口を差し挟む筋合いではございません。どうぞそのままお呼びになってください」
良かった。いいらしい。
「それでウィア様が…」
きゅー、クルクルクル───
誰かのお腹が鳴った。
ウソですごめんなさい。誰かのじゃなくて、わたしのお腹だ。
クルクルクルクル───
しかも鳴り止まないっ!
「おお、これは失礼いたしました。ミユキ様はまだ目を覚まされたばかりでしたな。話は一旦置いて、食事にいたしましょうか。
ミユキ様は先ほどの部屋で摂られるのがよろしいですかな。それとも下の階にある神殿関係者用の食堂まで出向かれますと、多少なりとも早く頂けると思われますが」
「下でお願いします。
あとこの腹ぺこは、さっきウィアと会ったときに使った“加速思考”のスキルの反動だと思います。帰り際にそんな事を言ってましたから」
「さようでございますか。ではそちらへ向かう前に、もう一度だけ鑑定器に手をかざしていただけますか」
「えぇー」と心の中で思いながらも顔には出さないように気をつけて、黙って鑑定器に手をかざした。
これがいちばん時間がかからない。これがいちばん時間がかからない……。
結果はすぐ出て、前と同じ。
「ウラ。あなたももう一度やってみてください」
インゲルスさんが続けて言い、ウラさんも手をかざす。
【名前】 ウラ
【年齢】 19
【性別】 女
【種族】 人 族
【階梯】 4
【技能】 巫 女
【状態】 依代 Eランク冒険者
あら、【状態】が減ってるわね。憑依だっけ。
「けっこうです。それでは下へ参りましょうか」
なにか納得がいったのか、そう言ってインゲルスさんの号令で外へ出た。
†
祭壇のある“復活の間”前のロビーを元の方向へ戻らず突っ切ると、視界が一気に開けた。
吹き抜けだ。
一番下のフロアには人の出入りが見えるので、あそこが一階なんだろう。
それからすると、ここは五階なのかな。
鎧を着て武器を持っている人が多い。
騎士?
そんな事を考えながら階段を降りていく。
そう、階段なのよ。
エレベーターもエスカレーターもないのよね。
インゲルスさんくらいの年齢で、この高さを毎日上り下りするのは大変なんじゃないかしら。
そんな事を思いながら、壁につくり付けられた広い螺旋階段を降りていった。
カラーですよ




