この幸せをあなたに
この世界には役割がある。それは職業だったり、立場だったり様々なものが関係してくるだろう。この久留東学園に通う雨(あめ)もそんな役割に従順なひとりの男子学生だった。
「まただ、あの人ずっと一人で本読んでる。」
「あの人全く話さないから声すらほとんど聞いたことないよね」
「もう、あんな暗い人置いておいてさっさと行こ。次は移動教室でしょ」
此方を見る視線が消えて教室が静かになった。
「・・・もう、慣れたもんだな。」
俺のことをこそこそと話す奴らが消えた後、読んでいた本を閉じた。周りを確認すると自分以外の生徒はすでに教室を出ていて、教卓の上に”お前が戸締りしろよ”とでもいうかの如く鍵が置かれていた。
「集中してる俺も悪いけどなんか一言くれればよかっただろうに」
自分の荷物を確認した雨は教卓の上の鍵を取り、窓や扉の鍵を閉めて次の授業が行われる教室に向かう。ふと廊下の窓から外を見ると真っ黒な闇がそこにはあった。
「・・・」
言葉が出ない、何かわからない現象に遭遇したら人間なんてそんなもんだろう。その闇からは悲しみや恐怖、不安など様々な感情を沸き立たせてくる。その闇は窓から、昇降口からゆっくりと包み込むように学校を飲み込んでいく。
きっとこの光景を見たものは自分の死を覚悟し、ただただ静かに佇むだけしかできないだろう。少なくとも雨は何も考えることができないまま自分を包み込んでいく闇を見つめることしかできなかった。
その日、学園から一人の男子生徒が消えた。しかし、男子生徒が消えたことによる影響は些細なものだった。学校側は生徒が勝手に消えた結果でありこちらには責任がないと言い張り、警察は捜査を進めようとしたが一番心配しているであろう男子生徒の両親はそれを良しとしなかった。
学園の生徒からは神隠しだなどとオカルトめいたことを言い面白がっていたり何があったのかと神妙そうな顔つきをする者もいたが心の底から心配している人間はほとんどいない。田中雨はそんな物語でいうところのモブキャラだ。
しかしモブキャラにも人生があり、そこに関わる人間関係も確かにあった。自分の息子がいなくなったのにもかかわらず警察の捜査を良しとしない両親に不信感を覚える姉妹、急にいなくなった心のよりどころを探し求める級友、そしてそれらをみて悲しい笑みを浮かべるもの。
これから刻むは正義にも悪にも慣れなかったひとりの人間のものがたり。この人間が進む後に残されるのは
平和か
絶望か
現在作成中です。試験的に上げているのでゆっくり更新していきます。どうぞよろしくお願いいたします。