42 兄妹再会
先日、PV2,000件突破しました。
ありがとうございます。
「えっ?お兄ちゃん?なんでココに?」
その部屋で、シンディはチョコンと椅子に座っていた。
「お前を助ける為に、冒険者になって、忍び込んで来たんだ」
「この騒ぎは、お兄ちゃんなの?」
テイロスは手を伸ばしたが、シンディは躊躇した。
「さあ、二人で逃げるんだシンディ」
「逃げて、どこに行くの?」
「王都だ。そこで二人で暮らそう」
「王都って、人族領?」
「当たり前じゃないか」
シンディは、その答えを聞いて、出しかけた手を引っ込めた。
「どうしたんだ、シンディ?」
「嫌っ、もう奴隷みたいな生活は嫌っ!」
「大丈夫だ。俺が守ってやる。俺は強くなった。誰よりも強く金持ちにも成った」
「お兄ちゃんまで、力で人を捩じ伏せるの?それで私まで奴隷にするのね?」
「まさか、そんな事はしない」
「でも、奴隷商人や貴族みたいに、力で他人を捩じ伏せるのんでしょう?そんな世界に行くのは嫌っ」
テイロスには、返す言葉が見つからなかった。
金や力で捩じ伏せてきたのは、シンディを拐った奴隷商達と変わらない。
「それは、その兄貴が偽者だからさ」
その声は、テイロスの後ろからした。
出入り口を塞ぐ様に立っていた、その男は冒険者風だった。
妹との再会に興奮して、周囲への警戒が疎かになっていたのだろう。テイロスは全く気が付かなかった。
「ガイセルさん」
「ガイセル?お前は人狼か?」
「その通り。だからお前がテイロスの偽者だって事も解る」
「偽者?」
テイロスが、シンディの方を振り返ると、彼女は椅子から降りて、逃げ出していた。
「お兄ちゃんの偽者なの?」
「違う!俺は本物だ。証拠ならある。一昨年の夏に、シンディが川で溺れかけた事も、一緒に花の冠を作った事も、本物の俺しか知らない筈だ!」
シンディも、それは覚えていた。
確かに、危ない深瀬に行ったのを両親に怒られるからと、シンディとテイロスだけの秘密にしたのだった。
「本物のお兄ちゃんなの?」
「騙されるなシンディ。お前の兄貴は魔族の城に来れるほど強いのか?農民が強くなれるのか?」
「確かに、お兄ちゃんは冒険者に憧れていた。だけど誰でも冒険者になれる訳じゃないってお父さんが言ってた」
「そんな事は無い。俺は強くなれたんだ」
「頑張れば強くなれるなら、村の子供が全員、冒険者になれただろうよ」
テイロスは剣を抜いた。
「妹を惑わすなぁ~!」
テイロスは、目にも止まらない速さで、自前の剣を振るうが、ガイセルは、いとも簡単に剣で受け止めた。
「やはり、剣技が浅いな。力任せで技も浅い」
ガイセルは後ろに下がる形で、廊下に出た。
テイロスにもシンディに被害を及ぼさない意図が見えたので、誘いに乗った。
廊下の突き当たりに位置するソコは、広い廊下が更に広くなっていた。
壁に注意すれば、剣を振るうのにも支障はない。
ただ、視界にシンディが居るので、間違っても魔剣は使えない。
御互いに普通の剣で、テイロスとガイセルは、激しく剣を交えた。
剣圧で窓が吹き飛ぶ程だ。
「この剣で、なんで押し通れない?」
「人族より速かろうが、強かろうが、ここでは通用しない。お前には技もない」
御互いに、かすり傷は出来るが、すぐに再生してしまっている。
ガイセルが手を抜いているのは明らかで、手傷はテイロスの方が多い。
「俺が、どれ程努力してきたと思ってるんだ!」
「高々数年だろ?こっちは三桁なんだよ」
本来が不死である者の技術力は、強大だ。
恐らくは、基本能力は互角だろう。
テイロスの方が武器に利があるが、膨大な経験値の前では、意味を成さない様だった。
感情も、思いも、正義感も、信念も、使命感も、他者から見れば、所詮はエゴに過ぎない。
精神力で、それを押し通そうとしても、実力は変わらない。
次第に手の内を読まれ尽くして、テイロスは満身創痍となっていく。
「やはり喪失した者は、他愛もないな。これくらいにしておいてやるか」
ガイセルは、テイロスをシンディの居る部屋へと蹴り入れると、剣で、テイロスの腕を切り落とした。
「ぐっ、ぐあぁぁぁ・・」
肘の辺りから、腕を綺麗に切り落とされたテイロスは、大量の血を撒き散らしながら、床をのたうった。




