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41 人狼再戦

テイロスは別に、コイツの存在を忘れていた訳では無かったのだ。

十分に用心もしていたし、気配も消していた。


ただ、手抜かりだったとすれば、衣服が乾いてきており、匂いが戻りつつある点と、相手の能力が数段も上手だった点だ。


斬りかかってきた剣を、反射的に魔剣で受けてしまったのは、最近、使いなれていたせいなのか?何かの勘なのか?


既に斬りかかった状態で見た相手の剣は聖剣。姿は巨大な人狼。


御互いの剣の力は斬撃にならず、爆発として両者を吹き飛ばした。


「こんな事が・・・」


テイロスとルティアでは、力量が違う為に試した事が無かったので、聖剣と魔剣で爆発が起きるなど知らなかったのだ。


テイロスは吹き飛ばされ、大型人狼は踏みとどまった。

しかし、踏みとどまったのが災いしたのだろう。

室内での爆発により、壁などが損傷し、天井付近の物が落ちてきた。


「クソッ!屋外で試した時には、こんな事には・・・・」


後悔を口にしながら、巨大な人狼は瓦礫の下敷きになっていった。

吹き飛ばされたテイロスは、身体能力も有り、逆に無傷で受け身を取っていた。

だが、テイロスは油断してはいない。

巨大な人狼が、いまだに動いていたからだ。


「このまま行けば、巻き込んでしまう」


テイロスの一番大事なものを危険に晒さない為に、彼は、あえて最も危険な場所へと向かう。


「地下で、魔族が一番集まっている所は・・・・・」


テイロスは、気配察知能力をフル活用して、その場所を探す。

領主である吸血鬼の寝所。


しかし、地下には全く生き物の気配がない。


彼は、仕方なく一階に降りて、床にあたり構わず魔剣を振るう。

そして、その斬撃の力が霧散する範囲を探した。


「そこかぁ~!」


散々壊して、やっと見付けた魔剣で壊れない区画を、自前の剣で壊していく。

この下に、魔剣を持った魔族が居るはずなのだ。

それは、領主を守る以外には無いだろう。


騒ぎを聞き付けて城に入ってきた魔族兵を、左手に持ち替えた魔剣の斬撃で、粉砕していく。


「この様子だと、城に残っている魔剣は二本か!」


魔剣を持たない兵など、漫画の様に吹き飛んでいく。

平行して、右手で持っている剣で、領主が眠っているであろう、区画を何度も破壊していく。

攻撃されている認識が有ればいい。攻撃が届く必要は無い。

地下の領主にも、守る魔族にも興味はない。

威嚇して二階から、あの人狼を引き離せばいいのだ。


テイロスは、二本の剣を振り回しながら、ひたすら、その時を待った。


「好き勝手をやってくれるじゃないか?」


一階の天井を突き破り、その人狼は落ちてきた。

既に使い道が最悪な聖剣は手放し、魔剣だけを持っている。


テイロスと、大型人狼が向き合った状態で、にらみ会った。

その時、


「火事だぁ~!誰か火を消せ!」


遠くで、叫ぶ声がする。

テイロスの鼻にも、焼ける匂いが伝わってくる。


「へっ!別動隊が、やってくれたか。このまま城と一緒に丸焼けになっちまいな!」


テイロスは、こう言って、城の外に逃げ出した。

たが、実は別動隊など居ない。

井戸の近くの薪に、テイロスが種火を放っていたのだ。


「クソッ!こっちが陽動か?後は頼むぞ、シャーライン!」


領主の寝所を守っていたのは、土属性の力を持つ不死者シャーラインだった。

大型人狼は、テイロスが逃げ出したのを確認すると、火元の方へ走っていく。

テイロスの言う別動隊を倒さないと、本当に城が火の海となり、逃げられない伯爵も燃やされてしまうと思ったのだ。


テイロスは、一度は城外まで逃げたが、再び城に戻っていた。


一階では、獣人の執事が瓦礫を取り払おうと、右往左往している。

彼は城の外壁面を二階までよじ登り、窓から侵入した。


地下の領主の寝所が襲われ、遠方で火事が発生していれば、二階のメイドが居る区画は全くの手薄になっていたからだ。


テイロスは、焼ける匂いのする空気から、必死にシンディの匂いを探した。


「やはり、この奥の部屋か!」


シンディは、アテンシアの言っていた部屋から動いてはいない様だった。

ユックリと深呼吸をして、テイロスは全身の獣化を解いていく。


「ふーっ、これで良し」


テイロスは、シンディの居る部屋の扉を開いた。


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