40 同族演技
流石に、外部から来た応援の兵士が、城内をうろつくのは目立つだろうと彼は考えた。
見たところ、城内は燕尾服を着た獣人達しか見掛けなかったからだ。
屋外には、武装のまま休憩や食事、昼寝をする獣人の姿が有った。
他には、洗濯などの日常作業をする獣人達。
臭いのせいか、若干は睨まれるが、兵士としては、十分に溶け込めている様だった。
彼等を尻目に、テイロスは時間潰しのふりをして、うろうろと歩いた。
「人族の匂いが濃いのは、この辺りか?」
彼は、匂いの濃い上方に意識を持っていく。
匂いは、二階か、それ以上の階からだ。
不用意に、城内に入れば怪しまれるのは解っている。
周りに魔族がいる緊張感と、必死に考える焦りで、思わず首に巻いたタオルケットで汗を拭った。
人族形態の時の癖だが、狼など犬科の生き物は、身体から汗をかかない。
つい手にしたタオルケットを見て、テイロスには一案が浮かんだ。
「そうか!これを使えば」
彼の頭の中では、城内で獣人に出会った時の対応が、何パターンか模擬実験的に考えられていた。
相手の動きを見て、戦いかたの対応を考えるのに似ている。
ある程度のパターンを考えて、テイロスは城の扉を開ける。
案の定、燕尾服の獣人に声を掛けられた。
「あー君!何をしているのかね?」
「あぁ、お邪魔します。先ほど人族のメイドさんにタオルケットを借りたのですが、上の階ですよね」
テイロスは、首に掛かったタオルケットを見せる。
それを見て燕尾服の獣人は、一瞬、受け取ろうと手を伸ばしたが、自分も荷物を持っている事に気付き、引っ込めた。
「あぁ、二階だ。長居はするなよ」
「了解です。返却と御礼だけですから」
テイロスは、少し頭を下げると。指示された階段を目指した。
彼の観察の結果、暇な執事は出歩いていない。
何らかの仕事の最中である者が殆んどだった。
階段を昇りきり、テイロスは人族の匂いを探った。
更に女限定と言うのは探りやすかった。
何種類かの匂いの中から、先ほどの女性とは違う匂いを探る。
壁際に何度も鼻を着けて、真新しい匂いを探る姿は、まさに『犬』のようでもあった。
二階には、燕尾服の獣人執事の姿は少なく、また、匂いも少ない。
「こっち・・・かな?」
彼は鼻を頼りに、廊下をユックリと歩く。
そして、匂いの強い部屋を見付けた。
獣化を解き、ノックして覗くと、女性が一人で洗濯物を畳んでいた。
シンディではないが、先ほどの女性とも違い、更に若い。
30代くらいだろうか?
「あら?どなたかしら?」
「あのう、先ほど人族のメイドさんにタオルケットを借りたのですが、返却と御礼を言いたくて」
「メイド?さて、どちらかしら?」
「もう少し、幼い方だったのですけど解りますか?」
この言葉には、かなりの思慮を用いた。
女性に『貴女より若い』では反感を買う点だ。
もし、先ほどの女性より年配者が居た場合は『十代くらいだった』と言う予定だった。
「じゃあ、シンディね」
テイロスの心の声が『ビンゴ~』と歓声をあげている。
肉体的にもガッツポーズをあげたいが、目を大きく見開くだけにして、必死に耐えた。
「シンディさんですね?その方は、どちらに?」
「呼ばれて、この廊下の一番奥の部屋に呼ばれたけど?」
「ありがとうございます。探してみますね」
必死に感情を抑えつつ、シンディの情報を手にいれたテイロスは、静かにドアを閉めて廊下に出た。
実のところ、真新しい人族の匂いのうち、二つが判明したので、消去法でシンディの匂いが判っていた。
これで移動しても探せると、期待に胸を高鳴らせたテイロスは、後ろに忍び寄っていた影に気が付かなかったのだった。
「見付けたぞ!勇者」




