38 予定変更
「なんて事だ?アイツが裏切り者だったなんて」
テイロス達は城を出て、付近の森に潜んでいた。
彼の計画は、予備も含めて、あの商人のせいで頓挫したのだ。
「裏切り者と言うより、潜入工作員って奴だね。アレは」
「向こうに聖剣が三本も有りましたよ。それに、聖剣同士では戦いにならないなんて話は、聞いていない」
「聞いてないって言うよりも、少ない聖剣と、聖剣使い同士では、あの技は使わないでしょう?」
複数の聖剣があっても、致命傷を負う技を浴びせ合うなんて事は、まず、しない。
あの技は、致命傷以下の手加減が出来ないのだ。
そもそも、中距離兵器に分類される、聖剣や魔剣の能力は、同士討ちの可能性が有るので、開発の際に、それが考慮されて然るべきである。
他種族に対するプロテクト。
敵味方の武器を識別する機能。
「あの商人が、情報を流して、大戦中に紛失した四本のうち三本を、かき集めてきたんじゃないのかな?」
「こっちが魔剣を奪ったんだから、向こうが聖剣を奪っている事も考慮すべきだった」
大反省会は続く。
「一度、退却して作戦を練り直しますか?」
「あの商人を見ただろう?アレは人狼と言って、喰った人族の容姿と記憶を奪う魔族だ。実の父親でも、判らないうちに入れ替わっていたりする」
「戻って、誰かを頼れば情報が漏れるって訳ですね。かと言って、我等だけでは何も出来ない」
「仮に何か出来ても、再び城まで来るのは無理でしょう。目標を変えますか?」
「軍隊の支援を得られれば、何とかなるんだろうけど、そもそも、この奇襲成功が軍隊の支援を貰う条件らしいからね」
既に、八方塞がりの感がある。
テイロスは、考えていた。
彼が魔族を関知できる状態なら、魔族側も、テイロスや人族を関知出来ると、考えておくべきだった。
向こうには複数の人狼が居り、テイロスが奪った人狼の力は、向こうの方が本家本元なのだ。
人族領で、自分だけが持つ特殊な力で、自分だけが何でも出来ると言う傲りが、今回の失敗の一要因であった事は間違いない。
相手も自分以上の能力や力、武器や情報を持っているのが現実らしい。
返すがえすも、情報入手出来なかったのが悔やまれる。
「能力では勝てない。聖剣や魔剣でも相殺される。だが、向こうも、無制限に聖剣や魔剣の数が有る訳じゃあないだろう」
テイロスは考える。
あんな上位種の魔族も、そうそう数が居る訳もないだろう。
「予定変更だ。二人は聖剣と魔法を使いながら、人族領へと逃げてくれ」
「テイロス様は?」
「俺は領主の首を狙う」
「ならば、我等も!」
テイロスは首を横に振る。
「二人には、出来るだけ騒いで戦って、城のアイツ等を誘い出す囮をやって欲しい。城が手薄になれば、領主の首も狙いやすくなる」
話に嘘はない。
人狼に近いテイロスの匂いより、人族である二人の匂いの方が、ここでは明確で追いやすいと考えたのだ。
本当に領主の寝所は狙うが、落としには行かない。威嚇だけだ。
勿論、領主の寝所は警備が厳しいだろうが、テイロスの本当の目的は、ソコではないのだから。
「確かに、城の中には聖剣を持った者が一人は残るでしょう。聖剣や魔剣が使えないとなると、テイロス様の身体能力頼りの行動に、我等は足手まといかも知れません」
テイロスは、城から逃げる際に、馬車に積んでいた、愛用の剣を持ち出していた。
彼は、魔剣を背中に背負うと、愛用の剣を包みからほどいた。
「どうせ、奴等も聖剣は武器としては使えないだろう。魔剣も同じ。ならば、コイツなら勝機があるかもしれない」
一般人が使うサイズで作られた聖剣より、テイロス愛用の肉厚剣の方が、破壊力も数倍有る。
魔剣も大きいが、あの能力が有る故に、強度は考えられていないだろう。
彼女達を説得するには、良い素材だ。
「魔族が持っている聖剣は、城に集まっているだろう。ならば、逃げながら聖剣で戦えば、敵なしだ!俺が失敗した時の事を考えて、俺の様な偽勇者じゃなくて、いつか現れる本物の勇者の為にも、君達には聖剣を持ち帰って欲しいんだ」
テイロスにしては、上手すぎる説得だった。
巫女達は、己の使命を考えて、テイロスの案に従う事にした。




