33 初陣と妹
テイロスは、非常に妹想いだ。
シンディの為ならば、調査、準備、労力、出費、犠牲を惜しまない。
まず彼は、教会から与えられた二人の巫女との連携を訓練した。
貴族から、冒険者に成りたい者の訓練を頼まれたと言う建て前だ。
剣の巫女と呼ばれ、聖剣を使えるルティアは、実践はカラッキシだった。
聖剣を使わず、普通の剣で戦わせると、デスラビットにすら敵わなかった。
五色の巫女と呼ばれ、五種類の元素魔法を使うカルディナは、破壊力は凄い。
しかし、基礎体力が低く、動きながらの攻撃と、動いている者への攻撃が当たらない上に、攻撃準備に時間が掛かりすぎる。
「攻撃力としては、普通の冒険者とかを上回るけど、実践には非力だな。基礎からやるしかないか?」
「しかし、テイロスさんが女とチームを組むとは、思いませんでした」
冒険者に女性は居るが、大方は女性同士でチームを組み、男女混合は稀だ。
テイロスには、いつもの荷物持ち達が付いている。
既に、虎敷物の件は終わったので、ギルド依頼の仕事ではないが、テイロスの後援者として自主的に同行している。
「チームじゃない。教育だよ。御貴族様の関係者だ。手を出すんじゃないぞ」
両者共に、持久力を含めた基礎体力から始めた。
平行してルティアは、剣の使いかた。
回避などの身のこなし方。
カルディナには、致命傷にならない程度の小魔法を、早く連弾する訓練と、動きながら動く敵を狙う訓練だ。
秋口から、春先にかけて、主に練習場で訓練を続ける。
テイロスとは違うので、取り巻き連中のアドバイスが、かなりの功を奏していた。
春からは魔の森へ入り、弱い魔獣から、順にレベルアップしていき、テイロスとの連携をとれる様になった。
ルティアもカルディナも、小さな攻撃で相手の動きを止めて、大技で仕留めると言う基礎を身に付けていく。
「じゃあ、いよいよ、魔族狩りに行こうか?」
魔族には、人族を襲って食べる者が居る。
魔族領に面した一部の地域では、毎年の様に被害が出ている。
地区によって異なる様だが、この地方の角狼、獣人、小鬼、大鬼などは、人族を襲っている。
勿論、人族領の兵も常駐しているが、多くの兵を長期間駐屯させる事は、費用面で無理である。
また、魔の森に面した幾つもの村を少数でカバーするのは限界があり、襲われた村はノロシを上げて救援要請をするのが、精一杯であった。
テイロス達は、人族領と魔族領のグレーゾーンの魔族領側で、狩りをしながらノロシを待った。
襲撃が終わり、帰途についた魔族を狙うのだ。
国境の幅が広くても、ノロシを見付けて、そちらへ向かえば、帰途に出くわせる算段だった。
「人質がいても、死なない程度の攻撃を打ち込め。もし死んでも無視しろ!人質を手放した段階で魔族に致命傷を浴びせるんだ」
一見、非道に見えるが、この方法が人質を助ける最善の方法だ。
魔族側が手強ければ、無理せずに撤退できる。
獲物を手にしている魔族は、追ってはこない。
「兎に角、経験を積まなくては話にならない」
巫女達は、信仰の為、教会の為に、涙を流しながら、必死に戦った。
取り巻き冒険者達は、尊敬するテイロスの為に、惜しみ無い協力をした。
そして、テイロスは・・・
「多少でも、囮として役立ってもらわないとな」
テイロスは、非常に妹想いだ。それ以外には腹黒かった。
◆◆◆◆◆
そして、あの日から二年目の秋。
人族領と魔族領の境にある小高い丘に、彼等は到達した。
遥か遠くに、白い城が僅かに見える。
テイロスは、丘の一番高い所に立って、その城を睨んだ。
「ここが、アルフヘイゼ領か?待ってろシンディ!」
ここで『偽勇者の章』は終わりです。
前章『メイドの章』の最後と繋がります。
次回からは最終章




