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31 聖剣魔剣

テイロスには、そう言った話に、聞き覚えがあった。

ギルドでの基礎知識座学で習って、まだ数ヶ月もたっていない。


「それは、もしかして、『勇者』とか言うものですか?」

「流石にテイロス殿は御聡明ごそうめいであられる」


勇者とは、神の加護を受けて、人族の先頭に立ち、魔族を討ち滅ぼすとする英雄。

つまりは、教会の先兵である。


冒険者に比べて、危険と責任ばかりが増えて、自由も実入りも少ない。貧乏クジでしかない。

ここは、丁重に断るべきだと、テイロスは判断する。


「私などには、とても勤まりません」

「いやいや、王都で話題騒然で、陛下にまで信頼の厚いテイロス殿ほどの適任は、おりません」

「私にも、多少は都合が有りまして」

「確か、テイロス殿は聖剣を御求めとか?」


テイロスの口調が、その言葉で止まる。

『なんで、こんなに情報が駄々漏れなんだ?』とテイロスは思った。


「勇者には、聖剣が与えられますぞ。それも本物の」

「本物って、如何にもニセ物が有る様な」


法皇は、テイロスの反応を見て、ニヤリと微笑んだ。


「まずは、聖剣と言う物を、御覧になってみては?いかがですか?どうぞ、こちらへ」


法皇は、案内役のベネラード枢機卿に目配せをして、扉を開けさせて、出ていく。


「なんか、完全に乗せられてるよなぁ」


そう呟きながらも、テイロスは、腰を上げて後を追った。



そこは、ギルドの訓練場を思い出させる広さだった。

本来の目的は、屋外集会の為の広場だが、その様な集会が開かれなくなって久しい。


先行した法皇達の前には、白銀の剣を持った女剣士が一人立っている。


「ルティア、お見せしろ」

「はい。猊下」


女剣士が剣を構えると、刃が光を帯びてくる。


「えいっ!」


気合いと共に降り下ろすと、その光が離れた所に設置されていた鎧に当たり、鎧が袈裟懸けに切り裂かれた。


「どうですかな?テイロス殿。神殿の華奢きゃしゃな剣巫女でさえ、あの程度の威力が有るのです。貴殿が振るえば、さぞや凄まじい力を示すでしょう」

「あれが、聖剣?」


法皇の言う通り、テイロスが求めているのは、この様なトリッキーな力だ。

剣を振るった女剣士は、特に疲れた様子も無い。


彼女は、その剣をテイロスに差し出した。


「特に、コツとか有りますか?」

「そうですね。体内の力を流す感じと、標的に向ける集中でしょうか?」


テイロスは、剣を受けとると、言われた通りに力を込めてみる。


「あれっ?光りませんね?」


既に交換された標的の鎧に向けて、降り下ろしてみるが、光の刃は飛ばなかった。

むしろ、腕力による風圧で、鎧がガタガタと震えている。


「よもや・・・」


案内役の枢機卿が声をあげる。


「何だ、ベネラード!」

「はい、法皇様。テイロス様の御力は、呪いによる物らしいので、それで聖剣が力を発揮できないのでは無いかと?」

「まさか、今まで特級冒険者に振らせても発揮しなかったのは、力不足ではなく、呪いのせいなのか!これでは・・・・」


法皇が、それまでの表情を崩し、悩み始めた。


「別の聖剣では?確か聖剣って七つ有るんですよね?他の聖剣では?」

「いいえ、テイロス様。対魔大戦時に七本有った聖剣のうち、四本は先の対戦中に紛失し、二本は本国で行方不明になりました。後日、新規に六本を作り直したのですが、威力は格段に落ち、真に聖剣と呼べるのは、教会で保管していた、この一本だけなのです」


法皇が『本物』と言った理由が、ここに有った。

その時、共に悩んでいたベネラード枢機卿が、何かを思い付いた様に、顔を上げた。


「対魔大戦と言えば・・・・少々お待ちを!」


急いで駆け出した彼が戻って来たのは、三十分後くらいだ。


枢機卿が持って来たのは、黒い剣だった。


「テイロス様、これを御試し下さい」

「これは?」


答えを聞く前に、軽く振ってみたテイロスは、思わずけた。

何も考えずに振った先にあった鎧が、粉々に砕け散ったのだ。


「それは魔剣です。先の大戦時に、魔族の元から奪取した物ですが、これ程とは・・・」


剣を持ち込んだ枢機卿も驚いている。

見ていた法皇が、大きく目を見開いた。


「これは、イケるではないか!別に聖剣にこだわる必要など、無いのかも知れぬ」


既に目的の為には、手段を問わなくなってきた法皇のあり方は、多くの疑問を残すが、結果を出せなくては話にならないのも確かで、これが現実の悲しい所と言える。


「テイロス殿。ここで本気で振られては困るが、勇者の件を受けてくれるなら、その剣を聖剣と銘打って、差し上げるが?」

「法皇様。彼一人に重荷を背負わせるのも酷ですから、教会からルティアとカルディナを同行させては、いかがでしょうか?」


テイロスの興味は、既に、この魔剣に集中していた。

『これが有れば、魔族からシンディを助け出せる』と思えてしまう。


「あー、すみません。えっと、誰が何ですって?」

「ですから、勇者の件を引き受けてくれれば、その剣を差し上げた上に、支援を二名付けましょう」


「少し、考える時間を貰えますか?」


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