27 王都研修
「サザンドの紹介状と、例の勅命が有るからと言っても、前代未聞な事だな」
王都にある冒険者ギルド本部長であるリノータスは、書類とテイロス達を前に、唸っていた。
「そもそも儂は、あの噂を信じてはおらんのだ」
『まぁ、普通はな』と言う顔をしているのは、テイロスに付き添って来て、道案内も兼ねた例の上級冒険者達だった。
数ヶ月を供にした彼等以上に、テイロスの実力を知る者はいない。
そして、事の重要性を知る『一般冒険者』も居ない。
「だから、研修も兼ねて、少し『農民』の実力を見せてはくれないか?」
そう言って、執務室を出ると、彼等を裏手の訓練場へと案内していく。
途中で職員に、何かを命じていた。
訓練場は、かなり広く、三百メール四方は有るだろうか?
恐らくは、複数の者達が同時に訓練する想定の場所だ。
既に、なん組かの者達が訓練をしていたが、ギルド長の指示で屋内へと消えていく。
代わりに現れたのは、武器を持つ三人の冒険者。
テイロスの取り巻き達が、目を見開いて見ている。
「彼等の持つ剣を、素手で折って見せてくれ」
冒険者達は、数本の剣を手に持っているか、目立つのは大型魔獣用の大きくて丈夫な奴だ。
冒険者の一人が、その抜き身の剣をテイロスへと放り投げる。
恐らくは、これも試験なのだろう。
テイロスは、微妙に立ち位置を変えて、刀身の切れない部分を掴んで受け止めた。
冒険者達の目が鋭い。
テイロスは、受け取った剣をしみじみと見る。
「これは、腕だけじゃあ時間がかかるな」
そう言うと、剣の両端を手で持ち、上げた片膝に叩き付けて、へし折った。
鋼鉄を使った剣は、柔軟性が無いために曲がらずに、細い部分で折れてしまったのだ。
「バカな!あの剣が折れるなど・・・・」
ギルド長が、呆然としている間に、冒険者は次の剣をテイロスに投げた。
今度は、放り投げたと言うより、刺し殺す勢いだ。
テイロスは、そんな剣も上半身の移動をしただけで、片手で柄を掴んだ。
「これくらいなら・・・」
剣を指先だけで押さえて、熱した飴細工の様に、苦もなく曲げて、放り投げた。
冒険者達の眉間に、皺が寄る。
「いやいや、こんな事は有り得ん!何かの細工か?いや、魔法なのか?そもそも、あの大剣は、いくらすると思っているんだ?」
ギルド長は、汗を流しながら取り乱している。
彼の思惑では、ここにある一番丈夫な剣を渡して『やはり無理か?じゃあ、これくらいなら』と行く展開だったのだろう。
予想では、サザンドの紹介だから、上級の上部くらいだと思っていたのだが、初っ端からへし折られ、全ての皮算用が破綻してしまった。
「ギルド長、見極めと言われましたが、手合わせしても良いですか?」
「抜け駆けするなよ。俺が先だ!」
冒険者二人が言い争っている間に、三人目が姿を消した。
いや、ギルド長側を向いていたテイロスの後方から、高速で、いきなり斬りかかっていたのだ。
しかし、
「死なない程度で良いんですか?」
既に位置を変えて攻撃を躱し、ギルド長の横に移動していたテイロスは、折れた大剣を見てしゃがみ込んでいるギルド長の肩を叩いて、確認を取ろうとしている。
「あ?何の話だ?」
ギルド長には、状況が掴めていない。
「よく、あの一撃を避けたな。後ろに目でも付いているのか?」
必殺の一撃を躱された冒険者は、直ぐ様に体勢を整えて構えをとっていた。
「おい、ちょっと待て!」
ギルド長は、向けられている刃で状況把握をしたが、既に止まりそうにない。
「農民相手なんですから、手加減してくださいよ」
そんなテイロスの言葉に、『それは何の冗談だ』と顔を歪める冒険者。
本当の戦士は掛け声など上げない。
無言で間合いを詰めて、剣を振り上げた。
周りの者達には、鈍い打撃音がして冒険者が居た所に、いきなりテイロスが現れた様にしか見えなかっただろう。
冒険者の姿は消え、左手を大きく前に出したテイロスの姿しかない。
30メールくらい離れた地面に、件の冒険者は、倒れていた。
剣を振り上げた冒険者の腹に、テイロスの平手打ちが当たったのだ。
「やるじゃねえか!」
最初に手合わせの名乗りをあげていた冒険者が、剣を抜いて突進していく。
彼は低姿勢で、剣を下から上へと切り上げた。
カキン!
鋭い金属音の後に、何かが飛び去る空気音。
振りきった、その手には、根元近くから折れた剣が残っているだけだった。
テイロスも、いつの間にか剣を抜いている。
冒険者は、振りきった時に離れた左手をそのまま腰の後ろに回し、小さい動作で、やはりアンダー気味にショートソードを投げてきた。
冒険者は、折れた長剣を手放し、右の腰にぶら下げていた予備の剣に手を伸ばすが、その剣が抜かれる事はなかった。
テイロスの抜いた剣は、初撃で剣を折り、折り返しでショートソードを弾きなが、峰打ちで冒険者の脇腹を強打していたのだ。
かなり変な切り返しなので、さほどの力は入っていないだろうが、彼の剣の質量が冒険者の意識を奪った。
長さは普通の長剣程だが、その肉厚は3センチを越える。
倒れていく二人目の身体を死角に利用して、三人目が魔法の炎を放った。
直径は30センチ程もあり、当たれば火傷では済まない。
テイロスは、避ける事も、防ぐ事もせずに、左手で愛用の鉈を投げる。
鉈は、三人目の冒険者の、顔の横を素通りして、後ろの壁に深く刺さった。
テイロスに飛ばされた魔法は、彼の身体に直撃したが、身体を焼く事もなく、手の平で叩いて消し止められた。
「なぜ、魔法が効かない!あの服は魔獣の革か?」
見ていたギルド長が、声をあげる。
三人目の冒険者は、顔の横を通った鉈に意識を持っていかれて、震えている。
「まさか、王都のトップスリーを瞬殺とはねぇ」
テイロスの強さを知る取り巻き連中も、流石に呆れていた。
戦い方を見ていても、テイロスには余裕しか無かった。
「えっ?上級冒険者くらいじゃないの?手加減したんだけど?」
テイロスも、取り巻き連中の言葉に、驚愕している。
訓練場の管理係が、急いで救護班を呼んでいた。
「テイロスさんは、森の深部での実務経験もあるし、戦闘訓練は不要だし、法令とかの座学だけで充分じゃねぇか?」
「そもそも、この状況と実績で、誰が訓練と実地試験をできるんだよ?」
取り巻き連中は、顔を見合わせ、ギルド長はしゃがみこんだまま、放心していた。




