表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/44

26 支部談義

テイロスは、サザンドがギルド長を務める、冒険者ギルドの地方支部に来ていた。


シンディの行き先は解ったし、あんな両親の居る村など、少しでも早く立ち去りたかったのだ。

案内だと言って、取り巻き冒険者の数名が着いてきた。


支部では、誰何すいかも無しにギルド長室へと案内され、さっさと椅子に座らされてしまった。

書類仕事に一区切りを付けて、ギルド長のサザンドが、向かい側の椅子に腰を降ろす。


「で、どうだった?」

「どうだったって、何がですか?」


農民の時と違い、一応は部下になるのだから、テイロスも丁寧語になるが、話が見えない。


すると、同行してきた取り巻き冒険者が一人、前に出てきた。


「報告します。知識や経験に、不足な部分は有りますが、総合評価はエス。中央ギルドでの研修を推奨します」

「ほぅ、Sか?」


取り巻きとギルド長で、勝手に話が進んでいる。

テイロスは聞いてみた。


「何なんです?これは?」

「あぁ、実は、冒険者になる迄に、時間が欲しいと言っていたので、先に、君の能力を査定する調査員を送り込んでいたのだ。騙す様な真似をして、申し訳なかった」


ギルド長がテイロスに頭を下げた。


「いや、仮免許みたいな事もさせてもらいましたし、いろいろと勉強になる教えも頂きましたから、差引きゼロって事で」

「そう言って貰えると、助かるよ」


ギルド長に笑みが浮かぶ。


「で、何が、どうなるんです?」

「そうだな。通常は、ここの様な地方支部で研修を受けてもらうのだが、君は能力が高いので、国の中央にあるギルド本部で受けて貰いたい。メリットは後々の昇格試験が免除される」

「免除されると、どうなるんです?」

「より高額の仕事や、特権が直ぐに与えられる」


既に明確な目標のあるテイロスにとっては、あまりメリットを感じなかった。

彼の表情を察したギルド長は、別の切り口を提示する事にした。


「あとは、中央での知名度が上がるので、情報収集が楽になったり、時間的な余裕が出来たり、対魔戦争の時のハイスペックな武器が手に入りやすくなる」


テイロスの眉がピクッと動く。


「魔族を倒した武器が、手に入る?」

「あぁ、保管者とのコネクシュン次第だが。何にしても、地方支部では無理な事が、いろいろと叶うのが中央だ」


テイロスは、考え込む。

どうせ、交渉など無理だろうから、魔族領に殴り込むつもりだった彼は、武器の重要性を失念していた事に、気が付いた。


「その中央での研修って、長くなるんですか?」

「基本的には、座学2ヶ月、訓練2ヶ月、実地試験2ヶ月の六ヶ月で変わらない。成績が悪いと途中で失格になるが、成績が良ければ短期で終わる場合もある」


ここまでは、比較的に良い話ばかりなので、テイロスは聞いてみた。


「で、デメリットは?」

「研修中は寮生活が中心になるが、合格すると中央を拠点にするので、家賃とか物価が高いくらいかな?知人の家に間借りしている冒険者も少なくない」


年貢という物がない代わりに、家賃が存在するし、食品は買わなくてはならなくなる。


「あとは、『有名税』かな?知らない奴が、知人とか、親戚だとか、勝手に名乗り出す」


農家から都会に出た時の、御決まりカルチャーショックだ。


「それで、どうするね?テイロス君。返事は急がないが?」

「やはり、良い武器は命を繋ぎますから、魅力的ですよね。では、中央行きで御願いします」

「ありがたい。正直言って、君の様な特級能力者は、中央でないと研修ができなくてね。地方支部では上級止まりなんだよ。君の査定をしたのも、うちの数少ない上級冒険者でね」

「『特級』?」

「ああ。この国の冒険者には、初級、中級、上級、特級があってね。通常は初級から順次に昇格する物なんだが、君の場合は、農民時代の実績が凄すぎて、上から・・・と言うか、例のデビルタイガー関係の貴族からの圧力なんだよ。」


あの、虎の敷物が、絡んでいるらしい。


「階級によって、取るべき獲物が変わるんだが、あの敷物を見た貴族が、君を初級から始めさせたら、自分がデビルタイガーを手に入れるのが何年後になるとか、ゴネだしてね」

「なんか、世知辛いですね。でも、でも、デビルタイガーって、人数居れば中級でも捕れるんですよね?」

「ああ、もしくは上級数名だ。ただし、傷だらけで修復痕がイッパイだがね」


テイロスの虎は、腹以外には、一切の傷がない。


「だから、是非とも君を『早急に、力量に見合うランクの冒険者にして、デビルタイガーを少しでも早く』と言う命令が 来たんだよ」


無理を通して、道理が引っ込んだらしい。


「具体的に、どこの貴族なんですか?」


テイロスの質問に、ギルド長は、少し考えた。


「あ~え~。まあ、独り言なんだが・・・・・・公爵様が手に入れた敷物を、国王陛下が非常に気に入ったらしく、『ヨコセ』『イヤダ』で国政が大変って、困ったもんだよな~」


ギルド長の独り言の後には、テーブルに頭を付けて動かないテイロスと、立ったまま壁に頭をぶつける冒険者達の姿があった。


テイロスは、なんとか頭を持ち上げて、


「可能な限り、早く資格を取得して、狩りにいきますね~」


と、だけ言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ