26 支部談義
テイロスは、サザンドがギルド長を務める、冒険者ギルドの地方支部に来ていた。
シンディの行き先は解ったし、あんな両親の居る村など、少しでも早く立ち去りたかったのだ。
案内だと言って、取り巻き冒険者の数名が着いてきた。
支部では、誰何も無しにギルド長室へと案内され、さっさと椅子に座らされてしまった。
書類仕事に一区切りを付けて、ギルド長のサザンドが、向かい側の椅子に腰を降ろす。
「で、どうだった?」
「どうだったって、何がですか?」
農民の時と違い、一応は部下になるのだから、テイロスも丁寧語になるが、話が見えない。
すると、同行してきた取り巻き冒険者が一人、前に出てきた。
「報告します。知識や経験に、不足な部分は有りますが、総合評価はS。中央ギルドでの研修を推奨します」
「ほぅ、Sか?」
取り巻きとギルド長で、勝手に話が進んでいる。
テイロスは聞いてみた。
「何なんです?これは?」
「あぁ、実は、冒険者になる迄に、時間が欲しいと言っていたので、先に、君の能力を査定する調査員を送り込んでいたのだ。騙す様な真似をして、申し訳なかった」
ギルド長がテイロスに頭を下げた。
「いや、仮免許みたいな事もさせてもらいましたし、いろいろと勉強になる教えも頂きましたから、差引きゼロって事で」
「そう言って貰えると、助かるよ」
ギルド長に笑みが浮かぶ。
「で、何が、どうなるんです?」
「そうだな。通常は、ここの様な地方支部で研修を受けてもらうのだが、君は能力が高いので、国の中央にあるギルド本部で受けて貰いたい。メリットは後々の昇格試験が免除される」
「免除されると、どうなるんです?」
「より高額の仕事や、特権が直ぐに与えられる」
既に明確な目標のあるテイロスにとっては、あまりメリットを感じなかった。
彼の表情を察したギルド長は、別の切り口を提示する事にした。
「あとは、中央での知名度が上がるので、情報収集が楽になったり、時間的な余裕が出来たり、対魔戦争の時のハイスペックな武器が手に入りやすくなる」
テイロスの眉がピクッと動く。
「魔族を倒した武器が、手に入る?」
「あぁ、保管者とのコネクシュン次第だが。何にしても、地方支部では無理な事が、いろいろと叶うのが中央だ」
テイロスは、考え込む。
どうせ、交渉など無理だろうから、魔族領に殴り込むつもりだった彼は、武器の重要性を失念していた事に、気が付いた。
「その中央での研修って、長くなるんですか?」
「基本的には、座学2ヶ月、訓練2ヶ月、実地試験2ヶ月の六ヶ月で変わらない。成績が悪いと途中で失格になるが、成績が良ければ短期で終わる場合もある」
ここまでは、比較的に良い話ばかりなので、テイロスは聞いてみた。
「で、デメリットは?」
「研修中は寮生活が中心になるが、合格すると中央を拠点にするので、家賃とか物価が高いくらいかな?知人の家に間借りしている冒険者も少なくない」
年貢という物がない代わりに、家賃が存在するし、食品は買わなくてはならなくなる。
「あとは、『有名税』かな?知らない奴が、知人とか、親戚だとか、勝手に名乗り出す」
農家から都会に出た時の、御決まりカルチャーショックだ。
「それで、どうするね?テイロス君。返事は急がないが?」
「やはり、良い武器は命を繋ぎますから、魅力的ですよね。では、中央行きで御願いします」
「ありがたい。正直言って、君の様な特級能力者は、中央でないと研修ができなくてね。地方支部では上級止まりなんだよ。君の査定をしたのも、うちの数少ない上級冒険者でね」
「『特級』?」
「ああ。この国の冒険者には、初級、中級、上級、特級があってね。通常は初級から順次に昇格する物なんだが、君の場合は、農民時代の実績が凄すぎて、上から・・・と言うか、例のデビルタイガー関係の貴族からの圧力なんだよ。」
あの、虎の敷物が、絡んでいるらしい。
「階級によって、取るべき獲物が変わるんだが、あの敷物を見た貴族が、君を初級から始めさせたら、自分がデビルタイガーを手に入れるのが何年後になるとか、ゴネだしてね」
「なんか、世知辛いですね。でも、でも、デビルタイガーって、人数居れば中級でも捕れるんですよね?」
「ああ、もしくは上級数名だ。ただし、傷だらけで修復痕がイッパイだがね」
テイロスの虎は、腹以外には、一切の傷がない。
「だから、是非とも君を『早急に、力量に見合うランクの冒険者にして、デビルタイガーを少しでも早く』と言う命令が 来たんだよ」
無理を通して、道理が引っ込んだらしい。
「具体的に、どこの貴族なんですか?」
テイロスの質問に、ギルド長は、少し考えた。
「あ~え~。まあ、独り言なんだが・・・・・・公爵様が手に入れた敷物を、国王陛下が非常に気に入ったらしく、『ヨコセ』『イヤダ』で国政が大変って、困ったもんだよな~」
ギルド長の独り言の後には、テーブルに頭を付けて動かないテイロスと、立ったまま壁に頭をぶつける冒険者達の姿があった。
テイロスは、なんとか頭を持ち上げて、
「可能な限り、早く資格を取得して、狩りにいきますね~」
と、だけ言った。




