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25 商人再び

夏の始めに、テイロスに弟が産まれ、それ以後、彼は畑の納屋で寝泊まりしていた。


理由は幾つかある。

一つは、妹を売って直ぐにまた、子供を作った事。

こんな両親とは一緒に暮らしたくなかった。


二つ目は、臭いだ。

母の妊娠も、体臭の急変で気が付いたが、産まれてきた赤子の排泄臭は、彼の嗅覚に苦痛しか与えなかった。


畑の準備や手入れは、今まで通り続け、夏も終わろうとしている。


この年は、昨年の様な日照りもなく、農作物は順調に育っていた。

村には、例年と同様に行商人や冒険者が出入りしている。

奴隷商人も昨年と同様に出入りしていた。

飢饉ではなくとも、金が必要な者は居るのだ。


テイロスは畑仕事の後に、狩に出掛けず、広場で、そんな商人達を見て回っていた。


そして、やはり夏の終わり頃、テイロスは、その奴隷商を見付ける事ができたのだった。


「やはり、居ないか!」


荷台の奴隷達を覗いて、シンディの姿を探すが、居る筈も無いだろう。


「おやおや?これは冒険者の方々。奴隷をお探しですか?」


様子を伺っていた、奴隷商のクーデルが声をかける。

冒険者姿のテイロスには、既に取り巻き冒険者が付いていた。

ギルド長から彼の話を聞いた冒険者が、多数押し掛けたので、その中から選抜された者達だ。

仕事は荷物持ち。


「奴隷商人さん。去年、この村で買った奴隷は、どこに売ったんだ?」

「えっ?ご購入じゃないんで?さて?どんな奴隷だったか?」

「シンディって15歳、俺の妹だ」


奴隷商には。『15歳』でピンときたが、魔族との取り引きを、口にする訳にはいかない。


「いくら肉親でも、取り引き先をお教えする訳にはいきません」


奴隷商は、突っぱねるが、テイロスが引き下がる訳はなかった。


「俺はな、家族を助ける為ならば、この村がどうなろうと、この身がどうなろうと、構わないんだよ」


彼は、奴隷の襟首を締め上げる。

商人は、見た。

テイロスの腕が、一部だけ獣化しているのを。


「商人さん、答えた方が良いぜ。このアニキは、冒険者でも容赦なく手足を潰しにかかるからな。運が悪けりゃ魔獣の餌だ」


取り巻きの言葉以上に、テイロスの目は、既に血走っていたし、この村での騒動は、都でも有名になっていた。


「わ、分かりました。金髪で黒い瞳の娘でしたよね?ただ、この御兄さんにだけで、良いですか?」


テイロスの目配せで、取り巻き達は、少し離れる。


「で、シンディは生きているのか?」

「ええ。運の良い事に、今も生きている筈ですよ」


シンディが選ばれていなければ、奴隷商は落命していただろう。彼は苦笑いが止まらない。


「何処で、何をしている?」

「大きな声では言えませんが、魔族領のアルフヘイゼ伯爵の城で、奴隷をしています」

「魔族領?奴隷?」

「貴方も、人に言えない身体になっている様ですし、意外と会えるかも知れませんね?」

「ちっ!」


テイロスは、奴隷商を降ろして、十数枚の金貨が入った袋を奴隷商に押し付けた。


「迷惑料だ」

「毎度ありがとうございます」


頭を下げる奴隷商を見ずに、取り巻きの所へ戻るテイロスは、やたらと殺気だっていた。


「これは、ご報告申し上げた方が良さそうですね」


奴隷商人は、馬車の準備を始めた。


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