24 ギルド長
全話を書き終わりました。
44話まで毎日掲載致します。(^-^)v
村の酒場の入り口に、珍客が立っていた。
「諸君、久しぶりだな!ここに来れば冒険者に会えると、村長に聞いてきたのだが?」
「これは、サザンドギルド長。どうして、こんな末端の現場に?」
ギルド長と呼ばれた男の後ろには、金属鎧の男が二人、立っていた。
外を見ると、同じ様な鎧兵が十人以上も立っている。
ギルド長は、店内のテーブルの一つに腰を据えた。
「実は、この村に、かなり大規模に密売をしている冒険者が居ると聞いているんだが、心当たりはないか?」
ギルド長の言葉に、酒場の冒険者達が、小声で騒ぎだす。
「もしかして、アイツか?」
「でも、アイツは冒険者じゃ無いだろう?」
「じゃあ、別の奴か?」
「俺は、アイツには関り合いたくは無いぞ」
「誰の事か知らんが、俺は関り合いたく無い」
「俺は知らん」
「俺もだ」
「知りたくもない」
冒険者達は、いつの間にか無口になり、杯を口から離さなくなった。
「偽名かも知れんが、名前はテイロスと言うらしいのだ・・・」
名前を聞いて、冒険者達が一斉に目を伏せる。
中には、勘定を済ませて、逃げる様に出ていく者も居る。
酒の追加を持ってきたルーデリアが、テイロスの名を耳にして、口を挟んだ。
「テイロスに、御用ですか?」
「君は、テイロスと言う冒険者を知っているのか?」
ルーデリアは、ギルド長の話に首を傾げる。
「テイロスは幼馴染ですが、冒険者じゃなくて、村の農民ですよ」
今度は、ギルド長が首を傾げる。
「テイロスか?奴は農民だ!」
「あぁ、間違いない。俺達は、確かめに行ったからな」
「俺は関り合いたくも無い」
「畑を耕していたな。うん、確かだ」
貝の様に口を閉ざしていた冒険者達が、何人か口を開いた。
彼等は、春の騒ぎの翌日に、テイロスの家まで見に行ったのだ。
「農民?他に、この辺りに『テイロス』という男は?」
「居ないと思いますよ」
ルーデリアの言葉に、ギルド長は、眉間にシワを寄せる。
「貴族の知り合いから、商会、行商人と遡って、この村に辿り着いたのだから、ここで間違いない筈なのだが」
ギルド長は、腕を組んで、悩みだした。
「会ってみますか?まだ昼前だから、狩に行ってないと思いますが」
「そうだな。農民と言うなら、確かめれば除外できる」
ギルド長は、ルーデリアに連れられて、テイロスの居る畑に向かった。
店の冒険者達も、ぞろぞろと着いてきている。
その頃、テイロスは畑仕事をしていた。
耕して、種子を撒き、水を与え終わっていた。
テイロスは、畑で雑草を抜いていたが、大勢が来たので腰を上げて、彼等の方へと歩み寄って行った。
「何か、御用ですか?」
「君がテイロスだね?私は、この地方で冒険者のギルド長をやっている、サザンドと言う者だ」
横で、見慣れた冒険者達が、頷いている。
後ろには、金属鎧の兵士が並らんでもいた。
「で、そのギルド長って人が、俺なんかに、用ですか?」
「少し、聞きたいのだが、君は行商人にデビルタイガーの毛皮を売ったかね?」
同行した冒険者達が、目を剥き、口を開いた。
「春の始めくらいでしたかねぇ?御貴族様の敷物に、虎の魔獣の毛皮が欲しいって言われて、取ってきたのが、確か、そんな名前だった筈ですね」
これは、ギルド長が調べた内容と一致した。まだ、ここに来て、誰にも話していない。
冒険者の中には、何人か倒れた者が居た。
「君は、元冒険者かね?」
「見ての通りの農民ですよ。今年で17歳。産まれも育ちも、この村です」
「しかし、魔獣を行商人に売っていたね?」
「農民が、森で狩りをした物を、行商人に売ってはいけないのですか?」
「しかし、魔獣じゃないか?」
「村では、時おり現れるデスラビットを行商人に売っていますが?あれは、魔獣ですよね?」
「しかし、デビルタイガーだよ?」
「種類に制限があったのですか?」
「無いが、デビルタイガーを倒した農民なんて、居ないだろう?誰かが手助けしたのか?」
ギルド長は、冒険者達の方を見るが、皆が青ざめた顔を左右に振っている。
そんな冒険者の一人が、前に出てきた。
「ギルド長。本当に、コイツは冒険者じゃなくて、農民で間違いないですよ。俺は五年くらい毎年、この村に通っていますが、毎年の様に森でコイツを見掛けてます。前は、女の子と一緒でしたが」
「と、言う事は、彼は未成年の時から、ここに居るのか?娘さんも『幼馴染』と言っていたが」
冒険者の登録は、成人にならないと出来ない。
今年で17歳になるなら、流れてきた冒険者である筈がない。
「しかし、そんな農民が居る訳が・・・・ちょっと待て、最近、中級冒険者四人が、一人の農民に再起不能にされたって言う与太話は、まさか?」
冒険者の一人が、思い出した様に語る。
「シラフの中級冒険者四人が、酒を三樽空けた農民にたかって、素手相手に剣を抜いた話でしょうか?」
「いや、そこまで詳しくは知らないが・・・・」
冒険者達の視線が、一斉にテイロスの方を向いた。
「俺は悪くないですよ。機嫌が悪い酔っぱらい相手に、剣を抜く奴が、絶対に悪い」
「「「・・・・・」」」
冒険者達は、何も言えない。
酔っ払った時に絡まれたら、たまらないからだ。
「そもそも、毛皮くらいで、何で、こんな騒ぎになってるんです?」
「金貨百枚が『毛皮くらい』?いやいや、詳しく話せば、冒険者の収穫物換金は、ギルドか、ギルド直営の行商人を通す規約が有るのだが、最近、高額の毛皮などがギルドを通さずに流通しているので、密売をしている冒険者と判断して、探していたのだ」
「あぁ、そう言う話ですか?でも、虎の毛皮は、現金が無いとかで、75枚分は、手形って奴で分割払いになってますけどね。元々が、デビルタイガーではなく、デスタイガーくらいをを予定していたそうで・・・」
「デスタイガーでも、中級三人以上必要だが・・本当に一人なのかね?」
「虎でしょ?」
ギルド長は、空いた口がふさがらない。
「兎も角だ、君が商品を流すと、流通経路が迷惑を被る」
「非合法でもないし、それは、そちらだけの都合でしょ?第一、俺は大金が必要なんで」
「それなら、いっそ、冒険者に登録をしてくれないか?」
「他の冒険者に聞きましたが、半年の試験期間があるんでしょ?俺は秋までは、村を離れられないんで」
このまま、ワンシーズンも市場を混乱させられたら、上が黙っていないと判断したギルド長は、腰の剣に手を掛けた。
後ろの鎧兵達も、同様な動きをし、冒険者達は、その場から逃げ出した。
「シラフのテイロス相手に、あのレベルと人数で、勝てるかわからね~」
「巻き添えは御免だ!」
逃げる冒険者達を見て、ルーデリアが慌てて口を挟む。
「あの、あの、テイロスがギルド直営行商人に売る事は出来ないの?」
「いや、別に相場額を払ってくれるなら、構わないが」
「他からの依頼は受けないで欲しいが?」
「騒ぎになるくらいなら、我慢しよう。『ギルドを通してくれ』って言えば良いんだろう?」
ルーデリアの提案で、ギルド長は剣から手を離した。
テイロスの方は、慌てもせず、緊張していたのは、ギルド長側だけだった。
「秋になれば、冒険者登録をしてくれるのか?」
「秋になれば登録して、試験と研修を受けるよ。村を離れるつもりだから」
仮に秋までに、妹の情報収集が出来なくとも、次までには一年くらいの猶予が出きる。
ギルド長は頷き、テイロスの畑を後にした。
「いったい、なんて農民なんだ!これは、手配をしておいた方が良いな」
ギルド長は、そのまま急いでギルド支部へと帰っていった。




