22 冒険者達
二人の冒険者が、周囲を警戒する中で、別の一人がイノシシの様な動物の皮を剥いでいた。
「今日の収穫は、こんなところか!インフェルノボアとデスラビットが二匹」
「あぁ、春先にしては、まずまずだろう」
人族領に近い魔の森は、グレーゾーンとして、双方の狩猟が認められている。
それぞれが、そこを越えると命の保証をしない取り決めになったのは、数百年前の話らしい。
もっとも、そのグレーゾーンですら、魔獣の驚異が有る為に、命の保証はされていないし、人族の一般人では、魔獣の餌食でしかない。
特殊能力を持つ冒険者でさえ、見張りをつけないと、獲物の解体ですら危険になる。
「おいっ、何か来るぞ!」
五百メートルほど奥地から、何かが近付いて来るのを、一人の冒険者が察知した。
まだ、木々で見えないが、その冒険者が剣を構える方向に、他の二人も剣を構える。
「あーっお騒がせしてすみません。近くの農民ですから、剣を納めてください」
そう言って、茂みから現れたのは、二足歩行する虎だった。
いや、虎の頭を頭上に乗せた、テイロスだった。
「何だよ、驚かすなよ!」
虎の頭の下に、人の顔と身体が有るのを確認して、冒険者達は剣を納めた。
しかし、近づくテイロスから、彼等は目を離す事が出来なかった。
「おいおい、それって、まさかデビルタイガーじゃないだろうな?」
「あーぁ、種類は良く判らないのですが、虎の魔獣ですよ」
テイロスは、軽く答える。
「よく見せてくれよ。あぁ、やっぱりデビルタイガーだ。どこのチームだ?こんなのを仕留めるなんて?」
「チーム?いいえ。コイツは、俺一人で倒したんですよ。行商人に『虎の魔獣だったら高く買う』って言われたんで、三日も掛かっちゃいましたよ」
冒険者達は、テイロスの答えを聞いて、いきなり笑い出した。
「お前、冗談だろ!デビルタイガーなんて、中級以上の冒険者が、十人掛かりで倒す相手だぞ。値段も金貨百枚以上だ。それに洗浄も十分してあるし、一人じゃムリムリ」
「第一、この気節に魔の森の奥で一人で夜になったら、冒険者だって生きちゃあいねぇよ」
冒険者の言葉に、テイロスはキョトンとした顔をする。
「これ、そんなに大物なんですか?金貨百枚?貴族の敷物に使いたいって言うから、腹だけ刺して、中身を川で洗って下処理だけしてきたんですが、意外に高く売れそうですね。教えてくれて、ありがとうございます。これを御礼に」
テイロスは、腰ヒモに挟んだデスラビットの皮を、一つ差し出した。
冒険者達が、よく見ると、他にも八匹分のデスラビットがぶら下がっていた。
「お前、いったい何者なんだよ?本当に一人か?」
「ヌラブの村の農民ですよ」
農民が、山菜や木の実を取る為に、魔の森に入る事は聞いているが、あくまで境界線辺りだ。
冒険者が、彼の背後の気配を探るが、一向に誰も来ない。
冒険者の一人が、テイロスからデスラビットを受けとる瞬間、テイロスは、空いた手で鉈を、他の冒険者達に向かって投げ付けた。
ドスッ
アンダースローで投げた鉈は、冒険者達を通り越して、反対側の木に刺さっていた。
冒険者達は、咄嗟の事で身動き出来なかったが、ゆっくりと、鉈の方を振り向いた。
確かに鉈は、木に刺さっていた。
デスラビットを串刺しにして。
それは、まだ脚をピクピクと動かしている。
テイロスは、目前の冒険者の手に、デスラビットの毛皮を握らせて、冒険者達を迂回して、鉈の方へと歩いていく。
「洗浄は、この先へ二十キロほど行くと、川がありますから、それを使うと便利ですよ。あぁ、コイツも御礼に受け取って下さい」
テイロスは、鉈を引き抜くと、デスラビットを冒険者達の方に投げた。
そのままテイロスは、虎を担ぎ上げ、手を振りながら村の方へと歩いていった。
冒険者達は、硬直した様に動けない。
「あいつ、いったい何者なんだ?」
「この先二十キロって、完全に魔族領の奥じゃないか?」
デスラビットを受け取った冒険者が、手の感触を確認している。
「これって、夢じゃないんだよな?確か、ヌラブの村とか言ってなかったか?」
魔獣と魔族の違いは、言語を理解するかどうかによります。
魔族は漢字名称で魔獣はカタカナ名称となります。
角狼は、話はできませんが、理解は出きるので魔族扱いです。
因みに、吸血鬼はヴァンパイア、小鬼はゴブリン、大鬼はオーガ、人狼はワーウルフと言われる者達に似ています(笑)




