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21 彼の帰還

テイロスが彼の村へ帰ったのは、遭難から二ヶ月後だった。

風向きの関係か、少し遠くの村へと辿り着いたのだ。

人族領へは着いたものの、見も知らない土地だったので、冬場で少ない行商人馬車を乗り継いで、やっと帰宅出来たのだった。


「テイロス、よくぞ無事で。もう、てっきり死んだものと・・・ 」


彼は、両親はともかく、ルーデリアまで号泣するとは思わなかった。


「何故だ?ルーデリア」


『道に迷って別の村に出た』と言う言い訳に、特に怪我もなく、以前と変わらないテイロスに両親は安堵し、深くは追求しなかった。

この時期に流通の馬車が少ない事は、周知だからだ。


数日して、普段の日常に戻った頃に、テイロスは村の酒場に向かった。

テイロスは、家に居たくなかったのだ。

妹を売った家族と、少しでも一緒に居たくなかったと言うのが、彼が森へ出た理由だった。

かと言って、先日に遭難した森へ向かうのは、流石に文句を言われた。


冬の間は農作業もなく、更に彼の家は食いぶちが減った上に、妹を売った金で行商人から食料を買い求めて居たので、無理して森へ出る必要も無かったのだ。

確かに、この夏場の日照りで、全国的に飢饉では有るが、水に恵まれた地域ではソコソコの収穫量があり、金さえ有れば購入できる。

当然、価格は高騰しているが。


「ここで飲むのは、成人式以来だな」


テイロスは毛皮の外套がいとうを纏って、酒場の扉を開いた。


「いらっしゃ・・・って、テイロスじゃないか。よく無事で戻ったな。祝いに一杯くらい奢ってやろう」


冬場は獲物が少ないので、冒険者達が都へ帰っている。つまり酒場は開店休業状態だ。

テイロスが話した冒険者達が都へ帰る最後の一団だったらしい。

ルーデリアは、ここの店主の姪なのだが、客が居なければ自宅の仕事をしている。


「じゃあ、有りがたく。二杯目からは、コレで頼むよ」


テイロスはテーブル席に座り、銀貨を一枚乗せた。


「どうしたんだ?羽振りが良いじゃないか?例の金か?」


店主は、酒の入った杯をテーブルに持ってくると、その上に置かれた銀貨を、しみじみと見ている。

『例の金』と言うのは、妹を売った金の事だろうとテイロスは思った。

小さい村だから、誰が奴隷商に買われたとかは、すぐに広がる。


「身内を売った金で、酒なんか飲めるか!これは毛皮を売った金だよ」


テイロスは自分の着ている外套を動かして見せた。


「ほう?少し見ないうちに、立派になったじゃないか」


店主は、酒の中樽をテーブルへと運び、銀貨を持っていった。

妹が売られ、森で迷う様な事があれば、酔い潰れるまで飲みたい時もある。

残れば、キープしておくくらいの裁量はあるし、量によっては御釣りを出せば良い。


テイロスは、最初の一杯を空けると、樽から次々と注いでは飲み始めた。


「そんなに強くは無かったんだけどなぁ」


例の件で耐性が出来ているのだろうか?

あまり酔わない身体に、彼は苦虫を噛んだ様な顔をしながら、酒を口に運ぶ。

酔い潰れたい時に、酔えないのは、苦痛でしかない。


仕方なく、彼は今後の事を考える事にした。


既に冬も峠を越えたので、徐々に温かくなってくる。

春になれば、森の獲物は増えるが、それまではやることが無い。

春には、冒険者達との奪い合いになるだろう。


「やはり今の内に、少しでも稼いでおくか」


テイロスは外套で隠していた片手剣を抜くと、刃溢れの具合を見た。

中古だが刃は磨いており、魔獣相手には使いやすい。

なたも肉厚の物に新調した。

自宅には、木製の楯も用意してある。

全ては、毎年見掛けている冒険者を参考にしている。


そんなテイロスを見た店主が、カウンターから声をかけた。


「テイロスは冒険者でも目指しているのかなぁ?」


その言い方には、カラカイが含まれていた。

村の子供が、棒切れを振り回し、将来は冒険者になると騒ぐのは、定番化している。

成人にもなると、その力量の違いに諦めるものだが。


「そうだなぁ、兎に角、獲物を沢山取って、金を稼がなきゃあな」


店主は、テイロスが冒険者に妹を買い戻す話をしているのを、奥で聞いていた。

流石に、普通に毛皮を売った位では、手が届かないから無理だと思ってはいるが。

ここで、テイロスが乗り越えてきた運命や、彼が着ているのが魔獣の毛皮だと知れば、そうは思わなかったかも知れない。


「確か、牙や角も金になるって言っていたよな」


テイロスは、無駄に何週間も行商人馬車に乗っていたわけでは無かった。


冒険者が扱う魔獣の種類や、金になる部位の話もきいていた。

行商人達は、彼が魔獣の皮を持っていた事から、農民でありなから、冒険者と何らかのつてがあると思い、毛皮の取り引きの次いでに、いろいろと教えてくれたのだ。


冒険者も帰る冬ではあるが、常人では見つける事が出来ない冬の魔獣も、今のテイロスならば、数キロ先から見つけられる。

更に、自分の匂いを追う事も出来るので、道に迷う事もない。

次いでに、夜目まで利くので、獲物は格段に増える。


これらは、魔の森から帰る時に実践済みなので、全く問題ない。


中樽を半分ほど空けて、全く酔わない訳ではないが、いっこうに酔い潰れない自分に業を煮やし、テイロスは帰宅して準備をする事にした。


「酒は、取っといてくれるか?」

「あぁ分かった。ところでテイロス。お前も、そろそろ嫁とか貰わないのか?」


席を立とうとしたテイロスに、店主は、話を持ち掛けた。


他に誰も居ない今は、良いチャンスだった。

実は、姪のルーデリアが、テイロスにチョッカイを出している理由に心当たりかあったからだ。

彼女は、親の薦める結婚話も、断っているらしい。

今のテイロスならば、羽振りも良いので、ルーデリアの両親からも文句は出ないだろう。


「家族を売る様な奴には無縁の話でしょう?」


そう、言い放つとテイロスは、ゆっくりと店を出ていった。


「ルーデリアよ。道は険しいぞ」


店主は、溜め息をつきながら、テイロスの酒樽を片付けた。


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