表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

20 人狼の牙

テイロスは、川で五日ぶりくらいに真水を飲んでいた。

デスラビットの血肉を食ってから三日。いまだに死ぬ兆候はなく、むしろ以前より元気かもしれない。


デスラビットの獲物を探す能力は素晴らしく、毎日の様に魔獣を見つけては、食べていた。

そしてテイロスに分かったのが、複数の種類魔の獣を食べれば、複数の能力が手に入ると言う事だ。


川の位置も、この能力により、水の匂いを嗅ぎ付けたのだ。

水場には、多くの生物が集まるので、獲物にも困らないかも知れない。


テイロスは、着ていた衣服を脱いで、川の水で洗っていた。

村で着ていた衣服を、高い木の枝に結びつけて干す。


次に、血塗れの武器を洗った。

なたとは言え、武器が有るのは魔獣に対して大きな利がある。

数の不利と、猫科動物の爪さえ気をつければ、 腕と武器の存在は、無敵にも思える。


魔獣の毛皮を使った外套がいとうは暖かく、冬の夜もなんとかしのげたが、やはり、ちゃんとしたナメシを行わないと硬くなるばかりだ。

村でもやっていたが、その為には大量の水が必要だったので、川の発見は多くの点で、大収穫と言える。

材料は足りないが、代用品を使って皮をナメシて、防寒着と下着のような物を作った。

糸はロープを解き、針は獣の肋骨を小刀で細工した。


衣類を干し終わってから、川に入り、改めて身体を洗いながら眺める。

以前とは比較に成らないほど、たくましくなった肉体。

小さな気配すら感じ取れる能力。


「これで死ななければ、冒険者に成れて、シンディを助けに行けるのに!」


思い出す度に、怒りと絶望感で涙が込み上げてくる。

テイロスは、涙を川の水で洗い流し、以後は何も考えない事にした。




ソレから数日間。

テイロスは、川のほとりで、常緑樹の枝に隠れて獲物を待った。

これは、豹などの戦法で、有益なはずだったが、予測に反して獲物は角狼一匹だけだった。


既に、冒険者の言っていた変異が始まったのか、体毛が濃くなり、爪が硬くなっていた。

久し振りの獲物を鉈で倒した後には、獲物に爪を立て、歯で直接に喰い千切って生肉を食べていた自分に、ハッとしていた。


「そろそろ、死ぬんだろうなぁ」


豹変した自分の行動に、必死で抗うが、以後の空腹で時々意識が遠退くのが分かる。

飢えるほど、獣になっていくのだ。

自作の革服を噛じって空腹を堪えた。


冒険者の言っていた『数日で肉体が変質して死んだ』と言うのが、病死なのか、仲間を襲って討伐されたのか、予想がついてきた。


「今なら、人族も襲ってしまいそうだ。兎に角、獲物を食わなくては」


そうやって、川沿いを見張っていた彼は、風を切る音と、気配で、隠れていた木の枝から飛び降りた。


バキバキッ


一瞬遅れて、乗っていた枝が折れて落ちた。

その影から、ゆっくりと立ち上がる姿に、テイロスは冷水を浴びせられた様な感覚を覚えた。


「グルルルル・・」


低い唸りを上げ、テイロスを睨んでいるのは、二足歩行する巨大な狼。


「じ、人狼?」


実物を見た事はないが、戦争の時に人族とも戦い、知性も有るが強靭な不死の肉体を持つと言われる魔族だ。

しかし、ヨダレを垂らし、唸り声を上げる、その姿が、伝承に疑問を持たせる。


「どこまで本当か判らないが、不死の能力を手に入れられば・・・」


人狼は、そのモーションが大きい故に、小動物並みの反射神経を持つテイロスには、なんとか凌げていた。

襲い来る人狼を、動物的ステップと速度で巧みに躱し、木々の障害物を使って逃げては、隙を見て鉈を打ち込む。

テイロスも左手に傷を負ったが、かなりの傷を人狼に与えていた。


余りの空腹で、途中で意識が跳んだが、獣の本能が身体を動かしている。


背後から、人狼の頭部に鉈を打ち込む寸前で、テイロスの意識は本能に飲まれて消えた。




◆◆◆◆◆



どれくらいの時がたったのだろう?

テイロスは川辺で半身を川に浸している状態で、目覚めた。


片手には真新しい肉片が握られており、反射的に口に運んだ。


意識は朦朧としているが、身体に付いていた傷が、みるみる回復していくのが判る。


「俺は勝ったのか?」


周りに人狼の姿は無い。

空腹感は無いので、また我武者羅がむしゃらに食べたのだろうか?

川から離れて戦った記憶が有るが、場所までは分からない。


破れてバラバラになった革服が、川の所々に引っ掛かっている。

テイロスは全裸だった。


「あれは、もう使えないな」


革服の切れ端を見ながら、辺りを見ると、川の散策で見回った範囲である事が判った。


テイロスは鉈を拾い、川沿いに川上を目指す。

人狼を食ったせいか、更に身体能力が向上している気がする。


体毛が普通に戻り、身体も幾分か元に戻っている様だった。


「魔族を食った効能か?上手くすれば・・・」


テイロスの脳裏に、愛しい妹の笑顔が浮かぶ。


拠点に戻った彼は、隠していた人族の服を着込み、荷物を纏めた。


辺りで一番高い樹に登り、周囲の空気を嗅ぎ分けた。


「流石に犬科の鼻は、凄いな!村の方向は・・・・・こっちか?」


テイロスは人族の匂いを頼りに、途中で獲物を食らいながら、その後一週間で魔族領の脱出に成功した。


一部、ヴァルヴレイヴのオマージュがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ