表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/44

18 森で遭難

冬は、主に備蓄食料で生活するしかない。

だが、収穫物が全く無いと言うわけでもない。

農民は、森で木の実や野性生物等の自然の恵みを活用している。

テイロス達の村は、魔の森に近い事もあり、魔の森で食べられる食材の知識も豊富だった。


飢えと、危険性を天秤に掛ければ、飢饉である今年は、やる事が決まっていた。

かと言って、無闇矢鱈むやみやたらと分け入る訳ではなく、既に開拓された、特定のルートを通って、収穫していく。


ただ、飢饉は人族の領域だけの話では無かった様だ。


「この辺りも、殆んど無くなったな」


魔の森を散策していたテイロスは、日照りの影響を、ありありと感じていた。


彼は、決して気を抜いていた訳ではなかった。

相手の方が、何枚も上手だっただけだ。

テイロスは、いきなり道に出てきたソレと、目が合って足を止めた。


「デスラビット?」


白く、可愛く見えるウサギだが、鋭い歯と跳躍力で獲物を狩る、肉食の魔獣だ。

頭に小さな角が有るのが特徴で、肉に毒が有ると聞いている。


テイロスは、持っていた木の枝を横に投げて、その落ちる音にデスラビットが気を逸らした瞬間に、後方へと全力で走り逃げた。


「確かに、魔獣を食ったら死ぬよな」


冒険者達から聞いた話を思い出す。

手に持っていた、採取用のなたでも倒せない相手ではないが、戦わない事に越したことはない。

道を走ると、後ろからリズミカルに草を踏む音がする。


「追って来やがったか!」


多分、奴等も飢えていたのだろう。

肉の匂いに耐えきれず、危険性を土返しで人族を襲う決断をしたのだろうと、テイロスは思った。

上手く足に食らい付けば、人族の動きを止められ、首筋に噛み付けば、命を奪える。

実際に、村ではデスラビットによる死者がゼロではない。


よって、村にも時おり現れる、デスラビットの対処方法は決まっていた。

多人数で大網を使って捕獲し、叩き殺す。

追われた時は、直線的に逃げずに、右や左に、不規則に進路を変える。

デスラビットは肉食故に、目が前方に付いており、連続ジャンプが直線的過ぎる為に、左右へと急に進路を変えられると、対応が出来ず、一瞬だが標的を見失ってしまうのだ。


問題は、人数も網も無く、ここが開けた村ではない点だ。

過去に、このルートでデスラビットと遭遇した時は、人族を見た瞬間に、デスラビットの方が逃げていた。

だが、今回は逃げずに睨んでいた。


「これも全部、飢饉のせいか?」


テイロスは直線的なルートを逸れて、森の中を右に左にと逃げていく。

しかし、彼を追う音は、近付いたり、離れたりはするが、依然として追いてきている。


「しつこいんだよ!」


テイロスの口から、愚痴が溢れる。

暫く走ると、やっと追跡の音は消えてくれたので、立ち止まった彼は、水筒の水を含みながら、状況把握をした。


「・・・・・しかし、困ったな」


命は助かったものの、冬の天候は曇が多く、太陽が見えない為に、方向性を見失ったのだ。

いつもの年の冬場は、備蓄食料で食い繋ぐ為に、魔の森にまで入る事は少なかった。

当然、災害に会う機会も少なかった。


辺りを見回し、空を仰いで、テイロスは途方にくれた。


「こりゃあ、助からないかもな」


周りに食べられそうな木の実を探すが、木の群生具合が変わってしまっている様だった。


「ここで立ち止まっていても、飢えるだけだ」


テイロスは、兎に角、歩きだした。

ここは、人族と魔族の領域の境界線。

直線的に進めば、人族側に出る確率は半分近くある。

村に向かっているにしろ、奥地に向かっているにしろ、食える木の実を探して移動するのが、少しでも生存確率を上げる事になる。


仮に魔族領側に進んだからと言って、魔族の道が有れば誰かに会うだろうし、戦時中ではないのだから、事情を話せば帰れるかも知れない。


絶望的な中で、少しでもチャンスのある方へ進むのが、サバイバル術だ。


途中、幾つか食べられる木の実を見つけた。

山の恵みは、次の季節の為に、取り尽くさないものだが、こんな奥地では関係ないので、テイロスは取れるだけの木の実を集めた。

だが、やはり日照りの影響だろう。あまりたいした量にはならなかった。


日が暮れだした。


人族の森でも、夜は危険だ。

太い樹に登って身体を縛り付ける。

採取した木の実を、幾つか口に入れて空腹を満たすが、とても足りない。

走って逃げたのと、歩き疲れで、テイロスは日が落ちる前に気を失う様に眠った。




目覚めたのは、寒さと空腹の為だった。

我慢出来ずに、採取した木の実を全て頬張り、水筒の水で流し込んだ。


「失敗したな・・」


生存で、最も重要なのは、水だった。

昨日は、疲れていたが自制できていたが、目覚めて直ぐだったので、思考が追い付かなかったのだろう。

夜明けの寒さのせいも有る。


テイロスは勢いに任せて、水筒の水を一気に飲み干してしまった。

もとより、半日分を目安の量だった。


彼は、樹をできる限り登り、周囲の情報収集に努めたが、小高い丘を見つけただけで、集落も、道も、小川さえも見つける事が出来なかった。


仕方なく彼は樹を降りて、幹に付けた傷を確認する。

同じ方向に帰っても、木の実は無いので、来た方向を記しておいた。


「そうすると、こっちか!」


遭難で、一番厄介なのは、同じところをグルグルと回ってしまう事だ。

だから、特に目標が無ければ、直線的に進むのが建設的となる。

テイロスは鉈で傷つけた場所を確認して、歩き始めた。


この季節に、水分のある木の実は望めない。

見つけた木の実は、少量づつ食べながら歩いた。


川を見つける為には、距離を歩くしかない。

渇く喉が口呼吸となり、更に水分を失っていく。


二回目の夜は苦痛だった。

何より、喉の渇きで身体が火照り、自分の小便を飲んだ程だ。

意識は朦朧もうろうとするが、痛みと熱さで、なかなか眠れない。


気が付くと、朝だった。

去年、初めて酒を飲んだ翌朝の二日酔いを思い出す程の、苦痛と激痛が全身を襲っている。


虚脱感と、頭痛と、全身の痛みで、何がなんだか判らない。


機械作業の様に、樹を降りて幹に付けた傷を確認し、足を引き摺る様にダラダラと歩く。


渇きで、気が狂いそうだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ