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17 シスコン

本日は二話公開しています。

御注意下さい。


新章が始まりました。

時系列は、シンディが売られた直後に戻ります。


アクションメインになります。

妹が売られてしまった。

物心ついた時から、ずっと一緒だったのに。

頭では分かっている。飢饉が悪いんだ。

だが、この怒りの向ける先が、無かった。


姉のナタリーは、近所の男性に付きっきりで、俺や妹の面倒は見なかったので、母の手を離れたテイロスが、妹の面倒全般をみていた。


兄として、慕い、ついてくる妹が、可愛く、愛おしかった。

妹が困っていれば、すぐに手を貸してやったし、相談にものった。

妹の為なら、何でも出来るつもりでいた。


しかし現実は残酷で、非力な俺は、妹が奴隷に売られていく事を止める事が出来なかった。


母は閉じ籠ったが、俺も閉じ籠りたかった。

男は、生きていく為に、やらなければならない事がある。

母の事は父に任せ、俺は仕事の合間に、村長に相談に行った。


「妹を取り返すのに、金を貸してくれ!」

「テイロスよ。家族を奴隷に売らなくてはならなかったのは、お前の家だけではない。他の家の分まで支払う金は無いし、お前の家だけ貸してやる訳にもいかない」


村長の話しは判るが、何とかならないのだろうか?


村の酒場には、冒険者と呼ばれる人達が居た。

魔の森に近い、この村を拠点に、魔物を狩って大金を手にしていると聞く。

今年の村人には、酒を飲む余裕が無いので、酒場には冒険者しか居ない。


村長宅の近くにある酒場に立ち寄ると、偶然だが冒険者が一組だけ食事をしていた。

彼等は四人でテーブルを囲んでいた。


「御食事中に、すみません。冒険者って儲かるんですか?」

「あぁ?地元の農民か。儲かるぜ。魔物の革なんざ、種類によっては、一匹分で金貨一枚になる。」

「すけぇなぁ、じゃあ、皆さんは金持ちなんですね?」

「あぁ、ソコソコな。でも、金は貸さねえぜ。この村じゃあ、返せる宛も無いんだろう?」


村に泊まって魔の森に入っている冒険者は、村の事情に無知ではない。

先日の奴隷売買も見ていたのだろう。

テイロスは、切り口を変える。


「貸してくれないなら、どうやったら、冒険者に成れるか教えて下さい。もしくは、仲間に入れてくれたら、荷物持ちでも何でもします」

「ニイチャン、冒険者は命懸けの仕事だ。安全な農民で地道に稼いだ方がマシだぜ。なんで冒険者になんか成りたいんだ?」


テイロスは少し考えたが、正直に話す事にした。


「奴隷に売られた家族を、取り戻したいんです」

「あーぁ、この前の広場のアレか?だが、ニイチャン。奴隷を買い戻すには、売った金額の倍近くかかるぜ」

「・・・倍?」

「ああ。奴等も商売だからな。安く仕入れて、高く売って、その差額で生きているんだ。空気や水を食らって生きている訳じゃあ無いからな」


父は、かなりの金額を手にしている様だった。


「あれの倍・・・」


テイロスは、足がふらついたが、何とか持ちこたえた。


「テイロス、妹の事は諦めるしかないわよ」


後ろから、いきなり声がする。


「ルーデリアか?関係ないだろう」


ルーデリアは、村で比較的近所に住んでいる村娘で、この酒場で働いている。

冒険者に、酒の御代わりを持ってきた様で、テーブルに酒瓶を置きにきた。

幼い頃から、何かと俺に関わろうと五月蝿うるさかった奴だ。


「あんたに、冒険者なんて無理だよ。一日で死んじまう」


『妹が居なければ、死んだ方がマシなんだよ』と言いたかったが、妹との親しさを、悪く言う奴等が居るので、抑えた。


「家族を大切に思って、何が悪い?」

「いくら大切に思ったって、死んじゃったら駄目じゃない。妹だって死んだ訳じゃあ無いんだか・・・」


そこまで言って、彼女は客の視線に気が付き、奥へ引っ込んだ。

店員である自分が、客の会話を邪魔しているのに、気が付いたのだ。


「あの娘の言う事も、一理あるぜ」


冒険者は、追加で来た酒瓶から酒を盃に注いだ。


「冒険者は、成ろうとして誰でも成れるわけじゃない。農民が商人に成ろうと言うのとは、訳が違う」

「そうとも、荷物持ちだって、普通の奴が成ったところで、足手まといにしかならない。それが原因でチーム全体の命に関わる場合もある」


彼等も、かなり暇だったのだろう。

冒険者について、俺に説明し始めた。



◆◆◆◆◆



「冒険者ってのは、歩き始める頃から、鍛えなきゃモノにならない。だから冒険者の子供か、親戚くらいしか、冒険者には成れない」

「例外があるとしたら、血筋や呪いで、生まれつきの特殊能力を持っている奴くらいだな。お前さんには、何か有るのか?」


実際には、幼児期から筋肉増強の秘薬を使い、常人を越える筋肉量を育てていかなくてはならない。

常人の二倍を越える食費もかかる。

成人後に秘薬を使っても、望める筋肉まで成長させる事は不可能だ。

剣士等の肉体派でなくとも、感覚が優れていて情報収集に長けていたり、魔力や法力の保有量が多く伸び代が有る者など、先天的要素が無くては、魔族領域では生き残れない。

魔族は勿論、魔獣の能力は並みの人族を凌駕するからだ。


それでなくとも、テイロスは勿論、身内や先祖にも、そんな力とか、呪いとかの話が有るとは聞いた事が無かった。


「・・・・あ、有りません」

「じゃあ、諦めるしか無いな。世の中は、頑張っても出来ない事ばかりだよ。それが現実だ」


テイロスの答えに冒険者は、さっさと結論を出した。


「どうしても、力が欲しいのなら、魔獣の肉でも食うんだな」

「おいおい!冗談でもソレは言うなよ」


一人が口を溢し、別の一人が止める。

だが、テイロスは聞き逃さなかった。


「魔獣の肉・・・ですか?」

「聞かなかった事にしろ。かつて、間違って魔獣の肉を食った奴が、魔獣の特殊能力を手に入れた事があったが、数日で肉体が変質して死んだ。そんな力じゃあ、家族を取り戻す前に、全てが終わるぞ」


冒険者達が皆で頷き、テイロスも理解した。

まさに、本末転倒してしまうのは、誰の目にも明らかだ。


項垂うなだれて、店を出るテイロスを、冒険者とルーデリアの視線が追いかける。

彼の歩みが、森と反対方向なのを確認すると、冒険者達は盃の酒を一気に飲み干した。


「そんなので、簡単に力が手にはいるなら、俺等が率先してやってるさ。どんなに頑張っても上がらないランク、倒せない魔獣は、リアルな壁として俺達でさえ乗り越えられない」

「実際には、『聖剣』と言う手もあるが、あれは主を選ぶし、教会が手放さないだろう」


当事者から言っても、冒険者は成るべき仕事ではないのだ。

彼等は、その力、その能力故に、普通の人族とは違う生活をしなくてはならない。


膨大な体力や魔力等は、大量のエネルギーを消耗するので、食料代がかさむ。

不意に衝突したり、手が当たっても、物を壊してしまったり、怪我させたりしていまう。

優れ過ぎた感覚は、他者とのコミュニケーションの障害になるし、魔力や法力は様々なポルターガイストの様な怪奇現象を引き起こす。


冒険者達は、人族の世界に有りながら、それとは離れた生活をしなくてはならない。

一般人と共存できるのは、己の能力を十分に抑えられる、上級冒険者くらいの者だ。


生まれつきの素質や幼児期からの矯正によって成っている冒険者達は、冒険者以外に生きる術が無い者達とも言える。


隣の芝生は青く見えるが、隣からすれば、こちらの方が青く見えているのだ。


自分で選べない人生の中で、命懸けの仕事しか選べず、死んでいくのが冒険者だった。


「こんな仕事を、誰が薦めるものか!」

「普通の仕事で生きていけるなら、貧しかろうと、苦しかろうと、そっちの方がマシだよ」


彼等にとって、農民と言う仕事は、『青く』見えた。


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