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13 人口制限

豊かな生活が続くと、生物は増える。

それが被捕食者であったなら、結果的に無闇に数は増えない。

しかし、それが捕食者の頂点であったなら、自ら自重出来ないと、悲惨な結果をもたらす。


その増殖がもたらす結果の一つに、食料問題がある。



例え肉食であっても、その根幹は農地に至る。

そして、どんなに手を加えた農地でも、生産量には上限がある。

農地を酷使し過ぎると、地質が痩せて、年ごとに生産量が落ちて、最後は砂漠化に近くなる。


生産量増加の為に、新たな農地を切り開くが、森を伐採する行為は地域の治水能力を落として井戸や川を干上がらせる原因となる。

また、虫が減る事は、受粉効率も落とす要因となる。


森を潰してまで農地を広げても、領地には限界が有り、根本たる問題を解決しない限り、他の領地を奪ったり、輸入に依存する形となる。


それは、問題を先送りしているだけで、最終的には大陸や惑星などの世界観の中で、蛸が自分の足を食って食い繋いでいるに過ぎない。


単純に、領地奪取の為の戦争で、人口が減れば良いのだが、現実は、戦争の後にベビーブームが来たり、戦争で汚染された農地の分だけ生産量が落ちたりで、 ポジティブに働く事は無い。



「あの人達は、何処へ行くのですか?」


シンディが農場の近くで見掛けたのは、家財道具らしき物を荷車に積んで街道を移動する、小鬼の数家族だった。


「あぁ、彼等は別の魔族領へ行くんだよ。受け入れ先があるといいんだが」


作業していた小鬼が、少し手を休めて答えた。


「えっ?出ていくんですか?何で?」

「あんたも、飢饉で奴隷になったんなら判るだろう?食いぶちを減らす為さ」


そう言われて、彼等を見るシンディの脳裏に、奴隷商に売られた自分の姿が浮かぶ。


「でも、この領地では、他に売れる程の収穫があったじゃないですか?食べる分なら有るんじゃないですか?」


つい先日、人族領へ荷馬車三台分の物資やら農作物を運ぶのに同乗したばかりだった。


「問題は、収穫領じゃなくて、食いぶちの話なのさ。今年は、俺たち小鬼の出産が相次いで、数が増えちまった。どこかで減らさないと、将来的に食い物が足りなくなるのは理解できるだろう?」

「そんなの、森を切り開いて畑を増やせば?領内には沢山の森が有るのだし」

「領地は有限だし、森には森の必要性がある。材木の為に斬り倒した分は、しっかりと植林しているし、無闇に斬り倒して良いものじゃないんだ」


シンディの村では、人族領の森林を切り尽くして畑を作った為に、狩りの獲物が減り、魔獣の被害が増え、更に増えた人口は台所を圧迫していた。


シンディ自身が、第三子として、村の人口増加に関与している事は、子供でも分かった。

極論で言えば、面積の変わらない地域で、二人の親から三人の子供が育てば、村の人口は5割り増しになり続ける。

一時的に食い繋いでも、その先で増えない保証はない。


「でも、出ていく他に、手段は無いんですか?なんとか方法は?」

「あるさ。自害する、クジに外れた奴を皆で殺す、子供を産んだ家族を公開処刑する、死者に命を捧げるとかね。メイドさん、他に妙案があれば、教えてくれよ」


言われたシンディに、案がある訳ではない。

聞いた中では、『他の領地に望みを託して出ていく』と言うのが、一番建設的な方法ではあった。


「・・・・・ないわ」

「『なんとかしろ』って言葉は、便利だよな、自分は建設的な事をやっている振りをして、実質的には何もやらずに、責任を押し付けて、他者を責められる」


シンディは、下を向いた。

最善を尽くした者達に、無責任にも更に上を要求したのだ。

この後に、もしも人口が減っても、『あの時に止めておけば』などと他者を責める事は、するまいと、深く心に決めた。


思い起こせば、シンディの村も小さいとは言え、半分の人口ならば、口減らしなど不要な収穫を得られる農地面積があった。

農地を広げられない時点で、この領地の様に他に移動させるか、産児制限をすべきだったのだ。


だが、魔族ほど身分制度が厳しくない人族に、そんな事が出来るだろうか?




シンディは、城に帰ってから、食事の時にセベッタやアテンシアに相談してみた。


「貴族連中も、妾やら愛人に、やたらと子供を作って、結果的に身内で奪い合いや殺し合いをやっていたわ」

「うちの村でも、農地と村人増加の問題はあったわね。最初は十人程度の集落だったのが、数百年のうちに、百名近くになったらしいわ。確かに子供が多ければ、労働力には困らないだろうけど」


どちらも、似たような問題しか無かった様だ。


「もし、この領地で隠れて増えていたら、どうなるんですか?」

「そりゃあ、領主様か、その命令を受けた者が、懲罰も含めた人減らしをなさるでしょうね」

「文字通りの『血の雨』が降るわよ」

「その点は、人族領は、甘くて考えなしよね」


三人は、食事の手を止めて、少し考えた。


「こうして、こちら側から人族を見ると、人族って本当に愚かよね」

「・・・・・・」

「なんか、我が身が悲しくなってきたわ」


確かに、人族の推奨する自由は素晴らしいのかも知れないが、産み出す結果は、とても愚かとしか言えない。


現に、彼女達は、不自由だからこそ、幸せを堪能できている。

料理を一口、口に運んで、それが判る。


「自由の為に死ぬって、本当に意味が有るのかしら?」


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