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11 商会取引

「デアボル商会?」


勿論、シンディは商会の名前など知らない。

ただ、入り口に掲げられた表札の文字は、勉強の成果で読む事ができた。


「御世話になってます。バズーレン男爵領から参りました」


セベッタは、そう言うと、木でできた割り符の様な板を、受付に差し出した。


「はい、確かに。番頭さんを呼びますから、五番の倉庫に向かって下さい」


割り符を返すと、受付から少年が建物へと走る。

馬車は、受付を通り抜けて、奥の倉庫群へと向かった。


「バズーレン男爵領って、何ですか?」

「シンディ。人族領で『アルフヘイゼ伯爵領から来ました』って言ったら、どうなる?」

「か、囲まれて串刺しですか?」

「分かってるじゃない」


その話を聞いていたガイセルが口を挟む。


「因みにバズーレンが、二百年程前に盗賊団に襲われて滅んだ事は、まだ王族と一部の貴族しか知らない。そして、その男爵を喰って容姿と記憶を持っているのが、俺だったりする」


電話もラジオも無く、人伝ひとづてでしか情報が伝わらず、尚且つ身分制度のある世界で、遠方の小さな領地が滅びた事が平民に伝わるのは、皆無だ。

もし、男爵領が滅んだ事を知られても、記憶と容姿を引き継ぐガイセルが居れば、『生き延びた子孫』を演じる事ができる。


御者台で、そんな話をしながら指定された五番倉庫を探して進んだ。


目指す倉庫が見えてきた。

馬車の接近を見て五番倉庫の倉庫番が、扉を開けて、三台の馬車を引き入れていく。

中は暗くて、一瞬だけ戸惑うが、倉庫番が急いで明り窓を開けていくので、すぐに慣れた。


馬車から降りたシンディ達が、背伸びをして身体の凝りをほぐし始めると、駆けてくる人影がある。


「御待たせしました。番頭のセディウスです。」


数人の作業員を連れて、中年男性が声をかけた。

セベッタが、丁寧に頭を下げて対応する。


「今月も御世話になります。バズーレン男爵領からの品です。よろしくお願いいたします」

「いえいえ、こちらこそ、毎回、良い品を御持ちいただいて、ありがとうございます。今年の飢饉は深刻なので、今回も高値で買わせて頂きますよ」


季節は既に秋だ。夏の日照りによる不作こそが、そもそもシンディが売られてきた理由だった。


セベッタは番頭に明細を渡し、彼が内容を確認した後に、作業員に渡した。


「検品に、しばらく掛かりますが、商会で御待ちになりますか?」


番頭の言葉に、隊長のガイセルがやって来た。


「今回は新人も居るから、検品立ち合いはラインドールに任せて、街を見て回らないか?」

「そうね。ラインドールさんなら安心だし」

「ありがたいね。俺は人混みが苦手だし、事務仕事要員だからね」


セベッタもラインドールも承諾した。

勿論、シンディも初めて出歩ける街に、目を輝かせている。


「じゃあ、四人で、その辺をブラついて来るから、任せたぜラインドール」

「あぁ、任された。大将!」


番頭のセディウスに礼をしてから、四人は商会を後にした。


セベッタ、シンディ、ルドラが一緒に歩き、ガイセルが後方から見守りながら、幾つかの商店を見て回る。

女性の買い物に、男が持て余すのは、どこの世界も同じだ。

ましてや、女が三人集まれば、男の入る隙間はない。


ワイワイと騒ぎながら、品々を見ていく。

特に買う訳ではないが、店側も、客が出入りしているだけで販促に繋がるので、別に追い払いはしない。

綺麗なメイド二人と、女冒険者は珍しいので、通行人の目を引き、つられて入る客もいる。


だが、目立つのは良い事ばかりとは限らない。

どこにでも、無知で品の無い奴は居る。


「オーオーッ、珍しいのが綺麗なのとセットだぜ」

「人数も、ちょうど良くないか?」


三人の冒険者風の男達が、声をかけながら寄ってきた。


「女冒険者とは、レアだな。俺達とチームを組まないか?」

「メイドさん達も、俺らに奉公しなよ。優しくしてやるよ」


ルドラは、離れて見ていたガイセルにアイコンタクトとって、シンディ達の前に出た。


「私達は仕事中なので、ご遠慮します」

「つれないなぁ~仕事の後、夕方にでもチームの話をしないか?」


恐らくは、他所から流れてきた冒険者なのだろう。定期的に街に来る彼女達には見覚えがなく、彼女達を知る店員達は、呆れた顔で見ている。


「失礼ですが、弱いチームに入るメリットが有りませんので」

「誰が弱いだ?女のくせに」


男冒険者の一人が、腰の剣に手をかけた。


ルドラは、素早く間合いを詰め、左手で男の手ごと剣の柄を掴むと、右手で鞘の根元を手の平で叩いた。


あまりの動きに、男達はついていけない。


「何をしや・・・」


言いかけて、剣を手にした男は、抜きかけた剣が柄だけになっているのに気付いた。


剣が、つけ根で折れていて、刀身だけ鞘の中に残っている。


「剣も本人も、ナマクラじゃあ、チームを組む意味が無いでしょう?」


素手で剣をへし折ったルドラは、素早くシンディ達の元に戻る。


「何をしやがる!」

「何をって、スカウトに対する腕試しでしょ?自分から言っといて、恥ずかしい」


怒って剣を抜いた二人に対してルドラは呆れた素振りをみせた。


恐らくは、何回か有ったイベントなのだろう。

デアボル商会付近の店の店員達は、慌てもせず、見世物気分で眺めている。

後でガイセルも笑っているので、シンディも慌てなかった。

元より、ルドラ達の正体を聞いている彼女は、男冒険者達を心配する。


剣を持つ冒険者は、基本的に革手袋をしている。

降り下ろされる剣を、そんな手袋で掴み、剛腕で奪い取るルドラ。


「早さも、腕力も御粗末ね。農民と変わらないわ。さて、武器はっと」


奪った二本の剣を重ねて持ち、持ち上げた膝にぶつけて、刀身の根元からへし折る。


「そんな腕前に、こんなオモチャだと、魔獣相手で命を落とすわよ。あぁ、授業料は要らないわ」


素手の女一人に、剣を振り回して勝てない現実に、男冒険者達は放心して、折れた剣を見ていた。

彼女が本気になれば、剣を抜かなくても、首の骨を折られる事は、容易に想像できる。


周りからの拍手喝采を受けながら、ルドラ達はデアボル商会へと向かう。


「とんだロスタイムだわ。そろそろ終わった頃かしら?」

「あ~恐い恐い」

「何よガイセル。私より強いくせに」


合流したガイセルとルドラのやり取りを二人のメイドは、笑いながら見ていられた。


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