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螺旋階段の毒  作者: 諫早
6/6

五月と灯り6

令状を片手に鈴木から連絡が入るのを待つ。

何杯目のコーヒーだろうか。煙草を吸いたくて舌打ちをする。

胸ポケットの携帯が震えて、慌てて取り出せば画面には三田さんの名前があった。


「お疲れ様です、池田です」

「今すぐメールを送るから確認しろ! 犯人が変わるぞ!」

慌ててパソコンの受信ボックスを開く。届いていた添付ファイルは、司法解剖の結果だった。

「鈴木! 戻ってこい!」

三コールで出た鈴木にそれだけ叫ぶと、申請書を書き直した。



この時間、容疑者は家にいる筈。後ろには鈴木の他に鑑識官が数名いる。

マンションの管理人に事情を説明してオートロックを解除してもらい、四階まで登っていく。一番奥、突き当たりが容疑者の家だ。


インターホンを鳴らす。奥でパタパタと人の動く音がした。数秒経って、「はい」と声がした。

「先日はご協力ありがとうございました。こちらが捜査差押許可状です。開けていただけますね?」


無言が続く。予想はしていたが、往生際の悪さに内心溜息をついた。

「拒否する場合、公務執行妨害も追加されることになります」

無言のまま、扉の鍵が開いた。扉を開ければ、朝も早いと言うのにアイロンのかけられたシャツを来た水野が立っていた。


彼にもわかるように許可状を提示して、後ろに控えていた鑑識官たちに目で指示をする。彼らは手袋を嵌めると散り散りに各部屋へ入っていった。

水野は既に証拠隠滅でもしているのだろうか、平然とした顔をしている。指先を見ても、特に震えている訳でも無さそうだ。

特に話すこともなく、お互い無言が続き、各部屋で鑑識官たちが動く音だけが響く。暫くして、散っていた鑑識官たちが戻ってきた。


「特に怪しいものはありませんでした」

「野草の本も無かったですが、ノートパソコンを押収して履歴を探ってみます」

「ありがとう」

報告を聞きながら、まだ誰も戻ってきていないリビングへ向かった。


ベランダにいた数人が慌てたように何かを持ってくる。チラリと水野を見れば、一瞬目を開いたのが分かった。

これは重要な証拠になるな。確信を得てから監察官の持ってきたジップロックに目を向ける。中に入っていたのはウッドチップのようなものだ。


「なんだこれは?」

「部屋のどこにも植木鉢が無いのに落ちていました。詳細は分かりません、鑑識にまわします」

「よろしく頼む」

全員が戻ってくる。押収物すべてを水野と一緒に確認をして、青白い顔をした水野を置いて家を出た。



「まだか」

同僚である鑑識課の北見タキ(きたみたき)に問えば、パソコンを叩きながら舌打ちをされた。

「もうちょい待っとって」


北見が睨みつける画面を一緒に見てみるが細かい文字ばかりで分からない。辺りに散らばっている機械も高そうだな、と思うだけだ。

大人しく部屋の隅でただ眺める。慌ただしく人員が入れ替わる中、窓の外は微かな風でゆっくり葉が揺れている。ここだけ時間の流れが早いみたいだ。


「ビンゴ!」

北見の嬉しそうな声に人が集まった。

野次馬になるのも苦手で隅のまま北見の声を聞く。

「池田くん! トリカブトの根の一部やったで」

「でかした!」


口の端が上がるのが自分でもわかった。ようやく犯人が捕まった。三田さんに電話をかける。そろそろ結果が出ることを伝えていたせいか、ワンコールも鳴り終えずに三田さんの声がした。

「ベランダからトリカブトを検出。鑑識結果を送るので早急に逮捕状の作成をお願いします」

「わかった、池田は容疑者が夜逃げでもしないよう見張っとけよ」

「わかってます」

電話を切ってすぐに鈴木に電話をかけ、引き続き水野を見張るように告げる。高そうな機械から吐き出された鑑識結果を添付して三田さんへ送りつけた。




三田さんがインターホンを鳴らす。

今度はすぐ扉が開いた。青白い顔をしたままの水野に、三田さんが懐から出した逮捕状を突きつける。

「六月四日、佐々木佐雨殺害の罪で水野之純を逮捕する」

水野は、諦めたように俯いた。




送検さえしてしまえばこちらとしてはある程度落ち着いてしまう。連日の徹夜を労うように二日の休みをもらった。


「司法解剖で何が見つかったんですか?」

「腸溶性のカプセルだよ、病院で処方されるやつ。佐々木の処方薬は錠剤だけだったし、水野は容疑者の中で唯一通院していて、カプセルを処方されていた」

思い出すように煙草の煙を肺に吸い込む。隣の鈴木は一切煙草を吸わないのに、わざわざ喫煙所までついて来ていた。


「へえ、腸で溶けるから、毒が効くまで時間かかったんですね」

「そういうことだ」

「でもどうしてですか? 仲良かったみたいじゃないですか」

それも、三田さんから聞いている。送検されるまでの短い間に、たいそう愚痴をこぼしたらしい。


「ただ我慢していただけらしいぞ。他の人たちみたいに急に呼び出されて怒鳴られるくらいなら、顔色を伺っていた方がマシだったそうだ」

納得したような声を上げ、「我慢の限界だったんですね」と鈴木が呟いた。

「そうらしいな。病院で貰った薬というのが、精神安定剤だそうだ」

「うわあ。ここまで来ると水野さんも可哀想ですね」

「……だとしても、殺しは犯罪だ」


完結です、

ここまで読んでくださりありがとうございました。


水野サイドの話はもしかしたら書くかもしれないです。

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