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ある女の記録

ある日....

何となく続編です。

「もしもし沢井です」


『もしもし、こちら石成警察地域課です。濱井裕子様をご存知ですか?』


ある昼下がりに掛かってきた電話、私はその名前に心臓を握り潰された錯覚に陥る。


『...あのもしもし?』


「は、はい。濱井裕子は私の姉です...」


この時点で私は姉に何かあった事を察した。


『そうですか、実は身元不明のご遺体が見つかり身分証から濱井裕子様と判明しました。検死は済ませ事件性はありませんでしたがご遺体の損傷が激しく既にこちらで火葬いたしました。

つきまして遺骨の引き取りと諸手続きを当警察署までお越しして頂きたいのです』


続けて受話器から聞こえて来た話の内容に私は頭が真っ白になる。

受話器の向こうは慣れているのか私が落ち着くまで無言で待っていてくれた。

数分後私は警察から手続きに必要な物を教わり引き取りの日を指定した後受話器を置いた。


「姉さん死んだのね...」


自分で驚くぐらい私は姉の死を冷静に受け止めた。


濱井裕子は私の6歳上の姉。


姉は綺麗で頭も良く運動神経抜群、誰にでも優しくて皆から好かれる私の自慢の姉だった(...)

不倫で全てを壊すまでは...


「電話しなきゃ...」


私は携帯を取り家族と主人に連絡をした。

私の主人...そう姉の元夫だ...



「...僕も行った方が良いかな?」


主人は会社を早退して家に帰ってきた。

自営業だから自由が利く。


「私が1人で行くからいいわ、あなたは香澄と亮太をお願い」


義父(おとうさん)義母(おかあさん)は?」


「行かないって。『遺骨も好きにしろ、だが家の墓には入れるな』って...」


「そうか...」


私の言葉に主人は腕を組み静かに頷く。


「祐輔と夏海にも言ったのか?」


主人は2人の子供の名を出した。

私の甥と姪、つまり姉の子だ。


「言ったよ」


「何て言ってた?」


「祐輔は『僕のお母さんはあなただけです。3歳の時棄てられた僕と夏海を、そしてお父さんを救ってくれたのはあなたです。遺骨はどこかの寺の無縁仏でも放り込んで下さい』って...」


「夏海は?」


「『私が1歳の時に出ていった人だから記憶に全く無い、今更産みの母が死んだと言われても...』ですって」


「分かった...後は君に任せるよ」


主人は冷淡な私の実家と姉との子供達の態度を聞いて静かに呟いた。


「ねえあなた...」


「なんだい?」


「姉さんの事まだ恨んでる?」


私は聞いてはいけない事と分かっているが聞かずにおれなかった。

主人は少し困った顔をしたがすぐにいつもの顔に戻る。


「全く恨んで無いとは言えない。でも今の僕の幸せがあるのはあの悪夢があったからだ」


主人の言葉に私は嬉しさより言わせてしまった事への申し訳なさの気持ちが強くなる。


「...ごめんなさい」


「謝る事は無いよ、僕の方こそ香織や皆に助けて貰ったからね」


優しく手を握られ私は涙が込み上げて来る。


どうして姉さんはこんな素晴らしい人を裏切る事が出来たんだろう?

あんなに可愛い子供達を棄てる事が出来たんだろう?

私は未だに姉が何故あんな馬鹿(不倫)な事をしたのか分からない。


数日後私は姉の遺骨を引き取る為新幹線に乗っていた。

姉が最後を迎えた町は私達の住む町から500km離れたある地方都市。

不倫が周囲にバレて会社を辞めて慰謝料を払うために新しい働き口を探しに地元から姿を消してからの詳しい足取りは分からない。


新幹線の座席に1人座り私は移り行く景色を眺めながら姉の事を思い出す。

姉が狂い始めた頃を...


『母さん今日も子供達をお願い』


『裕子あなた今日も残業かい?』


私が大学に行くため玄関に降りると姉が祐輔君の手を引きベビーカーに乗せた夏海ちゃんを連れて来ていた。


『うん、忙しくてね』


『忙しいって姉さん事務職でしょ?そんなに頻繁に残業があるの?』


私の言葉に姉は表情を僅かに歪ませた。

綺麗で自慢の姉だったがこの頃の姉は化粧が濃くなり着る服の趣味が以前と明らかに変わっていた。


『香織、学生には分からないのよ。事情知らないで分かった様な事を言わないで!』


『ご、ごめんなさい...』


少し怒った様な姉の言葉に私は後込みした。

今なら姉の気持ちが手に取る様に分かる。


(痛いところ突かれて思わず語気が荒くなったのよね)


義兄(にい)...裕一さんは姉が子供を頻繁に預けに来るようになってから目に見えて窶れていった。

1年くらい経った頃子供達を引き取りに深夜私の家に来た時、寝ている子供達を抱き締め泣いているのを見た。


電気の消えた真っ暗な部屋、私が居る事に気づかない様だ。


『祐輔...夏海...ごめんな...情けない父さんでごめんな...』


後で知ったが裕一さんはあの日、興信所からの調査結果で姉の浮気を知ったそうだ。


姉の行動は改まらず子供達は殆ど毎日私の両親に預けたまま、さすがの両親も姉を叱りつけた。

すると姉は子供を預けたまま家を飛び出した。


『裕一君...すまん。裕子はどうしたんだろう?』


『裕一さん、裕子は...きっと昔の裕子に戻るわよね?...』


力なく裕一さんに頭を下げる両親を見た時私は

(ひょっとしたら姉は浮気をしているのでは?)

そう感じた。


仕事で忙しい私の両親に代わって甥と姪の面倒を見る事が多くなった。

そんなある日。祐輔君は3歳の誕生日を迎えた。

大きなバースデーケーキ、私は大学を休み沢山のご馳走を作り裕一さんも会社を定時で切り上げ誕生パーティを開いた。

父や母、裕一さんと私でハッピー・バースデーを歌い祐輔君は3本の蝋燭を吹き消した。

拍手の中祐輔君が不意に呟いた。


『ママは?』


大きなバースデーケーキの前で三角帽を被った祐輔君。その前に1つ空いた椅子、姉の席だ。


『...ママはお仕事だって』


裕一さんは言葉を詰まらせながら祐輔君に言った。


『ママ...今日...祐くん誕生日...帰るって言ったよ...ママ..お仕事終わったら...絶対出るって言ったよ...』


涙を流す祐輔君、夏海ちゃんを泣かさない様に静かにしゃくる姿に私の胸は張り裂けそうだった。


『...裕一君、裕子と別れなさい』


誕生会の後片付けが終わった後4人集まり父が裕一さんに言った。母も複雑な顔をしながら頷く。


『お断りします』


裕一さんは私の両親を見ながらはっきり断った。


『裕一君、裕子は...』


父が口ごもる。もう姉は浮気をしていると確信している様だ。


『分かってます。でも僕は信じているんです。裕子がまた僕の、そして皆の家族の元に戻って来る事を』


裕一さんは父の目をみて言い切った。


(そうだ裕一さんは母親が小さい時に病気で亡くなっていたんだ。淋しい幼少期を過ごしたから諦め切れないんだ)


私はその時そんな事をぼんやり考えていた。


そんな裕一さんを見て両親は裕一さんに黙って姉の素行調査を興信所に依頼した。

姉の不貞行為を完全に暴いて裕一さんと離婚をして貰う為だった。


しかし両親が依頼した興信所の調査結果が出るより先に予想外の事が起きた。

姉が裕一さんに離婚を迫ったのだ。


両親は慌てて離婚を止めた。

(まだ興信所の結果が出ていない。裕一さんも納得しないだろう)

そう考えたのだ。


裕一さんも必死で姉を説得するが姉は強引に離婚届けにサインをさせて役所に提出してしまった。


両親は激怒して姉と絶縁する。

しかし姉は寧ろほっとした顔で家を出ていった。

幼い2人の子供達を置いて(棄てて)...


裕一さんはマンションを売り払い私達住むの家に引っ越して来た。


『あの家は楽しかった頃の想い出が詰まりすぎてますから...』


淋しそうに裕一さんは言った。

財産分与は半分支払う事で話が着いた。

[もう姉は他人だ、早く縁を切りたい]

両親はそう考え何も反対しなかった。

親権は裕一さんに決まり後は養育費や面会の話だけとなったある日裕一さんは私達の前で泣き崩れた。


『どうしたんだ裕一君?』


父が泣き崩れる裕一さんに聞いた。


『子供が...僕の子供が...』


裕一さんはそう呻きながらぐしゃぐしゃの書類を父と母に渡した。


『こ、これは...あの馬鹿!!』


父は書類を見ると目を剥いて叫んだ。


『まさか...』


母もその場に崩れ落ちた。


書類は姉が違法に2度の堕胎をした事が書かれていた。

裕一さんも私の両親とは別に興信所に依頼をしていたのだ。


『まさか...義兄(にい)さん...浮気相手の子供じゃないのですか?』


私は姉の行動が信じられず呟いた。

浮気をしながら裕一さんとも夫婦生活を送れるとは思えなかったのだ。


『...最初の...1回目の堕胎...時期が合うんだ...』


『時期?』


『あいつが不倫する...肉体関係が始まる前に妊娠していたんだ!!俺の子供を!!』


そう叫ぶと鞄から書類を取り出した。

それは1年以上前から興信所に頼んでいた姉の素行調査の報告書だった。


姉の不倫が始まった時点で姉は妊娠していた。

妊娠に気付いた姉は浮気相手との関係を続ける為子供を堕ろしていた。

不法に行われた堕胎行為の為興信所の発見が遅れたのだ。


『まさか2回目も裕一君の?...』


『分かりません...あいつはたまに夜に応じてましたから...それは浮気を疑われるのを怖れていたのでしょう...僕は逆に帰ってくれる事を期待してしまいました...』


涙でぼろぼろになった顔を上げ裕一さんは呟いた。


『裕一君...』


父が裕一さんに近づく


義父(おとうさん)すみません!僕が...浮気に気付いた時に相談していれば、離婚していればこんな事に...子供が!皆さんの孫が!!』


そう叫ぶとまた裕一さんは泣き崩れた。

私も母とすがり付きながら泣いた。姉の馬鹿な行動の申し訳無さ...裕一さんへの申し訳無さで泣き崩れた。


『あいつは居なかった事にしよう』


数日後父が私達家族の前で言った。


『そうね、私達の家族はお父さんと私、そして裕一君と香織、祐輔ちゃんと夏海ちゃんよ』


母もそう言って頷いた。


義父さん義母さん(おとうさんおかあさん)...』


裕一さんは静かに笑った。

あの日以来裕一さんは無気力に笑う事が多くなった。

裕一さんは壊れかけていた。いや、あの日から裕一さんは壊れていた。


私は誓った。


(裕一さんを助ける)


償いではない。ただ私がそうしたいからだった。


数日後何も知らない姉は平気な顔をして養育費の事で話し合う為調停の場に現れた。


『養育費は要らない。だが面会はさせない』


裕一さんは冷たく姉に言った。

姉は裕一さんの様子に気づく事なく少しほっとした顔で了承すると去って行った。


私は[裕一さんの子供の面倒を見る為]と大義名分を掲げ実家から少し離れた所に裕一さん一家と引っ越し同居を始めた。

そのまま実家で暮らすには近所の目が煩わしかったからだ。

家族は私の同居に反対しなかった。母は私を見て少し笑った。


『香織ちゃん、責任を感じなくて良いんだよ。自分の人生は自分の物なんだから』


裕一さんは何度も私に言った


『裕一さん私がしたいからしてるのです。誰の代わりでもありません』


私はその度にそう返した。


裕一さんは知り合い全ての人達に離婚をした事、子供達を引き取り仕事を辞めて転職して地元を離れる事を告げ、姉に連絡先を絶対に言わない様に頼んだ。


これで離婚の原因は皆に分かった様で姉は全ての人から絶縁された


離婚から2年が過ぎた。


近所の人達に私は裕一さんと夫婦と認識されていた。

祐輔君は姉を覚えていたので姉は亡くなったと教えた。夏海ちゃんは姉を覚えてなかった。祐輔君も夏海ちゃんの産まれた頃の記憶が曖昧みたいで夏海ちゃんのママは私と思っているみたいなのでそのままにした。

不思議な程罪悪感はなかった。


裕一さんは1度も私を抱かなかった。


『あれ以来僕は不能なんだ』


恥ずかしそうに裕一さんは言った。

しかし同居していれば当時処女の私でも分かった。

(裕一さんは嘘を吐いている)と。


嘘の理由は分からない。だが姉の浮気が原因なのは間違いなかった。


そんなある日裕一さんが私に言った。


『あいつが僕を探しているらしい』


『あいつが?』


『ああ、高校時代の友人から連絡があった。『僕の連絡先を教えてくれ』って』


『それで?』


『勿論断ったそうだ。気になって数人に確認したら同じ連絡をされた友人がいた。今更何の用だ?』


忌々しそうに呟く裕一さんの話を聞き私は直ぐに理解した。


(姉は後悔している)と。

後悔の理由は何だろう?金?家族と仲の修復?


いや違う...裕一さんの元に帰りたいんだ。

裕一さんと子供達の元に帰りたいんだ。

(ふざけるな!)

(裕一さんは私の大切な人だ!祐輔君や夏海ちゃんは私の子供だ!)


私は怒りで全身が震えるのを裕一さんに気づかれないよう懸命にこらえた。


『そう言う事だ香織さん、あいつから連絡があっても僕の事は知らないと言ってくれ』


裕一さんは私にそう言った。


それから数日後私の携帯が鳴った。


[公衆電話]


そう書かれた携帯のパネルをみてピンと来た。


(あいつだ!)


私は携帯の通話ボタンを押すと聞こえて来たのは予想通り姉の声。私は直ぐに会話を切り上げ切ろうとしたが向こうは一方的に喋るので話にならない。

私は出来るだけ冷静に後日喫茶店で会う約束をした。


久し振りに会った姉は白々しい涙を浮かべ裕一さんの連絡先を聞こうとした。

私が何も知らないと思っているんだろう。


怒りが私の感情を徐々に支配する。

姉...あいつの言葉に怒りを抑えながら対応していると我慢出来なくなったのか急に言葉を荒らげてきた。


『裕一さんの連絡先、あなた知ってるんでしょ?教えなさい!』


あいつの言葉に私の怒りは限界を越えた。ふざけるな今更『裕一さん』だと?興信所の報告書には裕一さんの事を『あいつ』や『屑』『間抜け』と呼んでいたと書いていたではないか!


『...教えるもんですか...』


私はあいつを睨み返した。


『何ですって?』


自分でも驚くぐらいの低い声にあいつが怯む。


『浮気して家族を...裕一さんや祐輔ちゃん夏海ちゃんを棄てたあなたに誰が教えるもんですか!』


私は一気に叫んだ。

その後の事は余り覚えていない。

ただ言いたかった事は一気に吐き出した。

気がつくと私は逆上したあいつに殴られ歯が数本折れていた。


警察が来て顔を激しく殴られた私は救急車で病院に運ばれる事になった。


私の血だらけになった拳を握りしめたまま呆然とした顔で警察に連行される姿が私の見たあいつ...私が見た姉の最後の姿となった。


『何故こんな無茶を』


警察から連絡を受け病院に駆けつけた裕一さんは腫れ上がった私を見て涙を浮かべた。


私にも何故こんな事になったのか、それより何故会う気なったのか分からない。


いや本当は分かっていた...あいつが憎かったんだ。


子供達を傷つけ、私の両親を傷つけ、何より裕一さんを、私の最愛の人を傷つけたあいつが憎かった!!


『ごめんなさい...』


私は裕一さんを見つめ謝った。

一時の感情に流され最愛の人を心配させた事に間違いない。


『裕一君...罪を償わせないと駄目だよ』


同じく病院に駆けつけた父が呟いた。

(母は祐輔君と夏海ちゃんを見るためこの場には来ていない)


『...罪ですか』


『罪を償って無いから裕一君や祐輔、夏海の元に帰れると勘違いするんだよ、自分は許されると思うんだよ。

今回は香織だったが今後も続けばどうなる?君が孫が被害に遭ったら?...私には耐えられんよ』


父は裕一さんに迫った。


『分かりました...慰謝料の請求をします』


裕一さんは力強く父に頷いた。


その後弁護士を雇い慰謝料の請求をした様だが私は詳しく知らない。祐輔君と夏海ちゃんの世話に忙しかったのだ。

ただ姉は再婚していた浮気相手と別れて独身に戻った事くらいか。


数年後慰謝料を払い終えた姉から弁護士を通じて裕一さんと子供達に面会の要望があった事を教えられた。


裕一さんは面会を拒否する事を弁護士に伝えた。


『手紙を書きます』


裕一さんはそう言った


『そうだな私達も書こう』


両親もそう言った。


『香織も書いてやれ。おそらく最後の手紙になるだろうからな』


父から言われて私も書く事になった。


(何と書こう?)


考えていると裕一さんが私に言った。


『慰謝料をあいつに返すが良いかな?』


『裕一さんが良いなら』


私は即答した。

裕一さんは数年前に勤め先から独立して小さな会社を始めていた。

幸いにも業績は順調で金銭的にも困って無かったし、何より姉の金なんか子供達の為に使う気にならなかった。


『あいつの人生だ、あいつには必要な金だろう』


そう言った裕一さんは複雑な顔をしていた。


(まだ裕一さんの心に姉が...あいつがいるのか?)


私は愕然とした。


私はその夜あいつに手紙を書いた。


[裕一さんの傷はまだ消えない。


私達家族が、私が一生賭けて癒す。


あなたは要らない。


写真を送ります。意味は自分で考えて下さい]


写真1枚同封した。


幸せそうな家族の写真、あいつは離婚で家を出る時アルバムの1冊どころか写真の1枚すら持って行かなかった。


だから渡すのだ。家族写真を。あいつと裕一さん。祐輔君と夏海ちゃんの4人が写った写真を。


興信所の調査によれば不倫が始まる直前、もし反省をしているなら1番戻りたい頃だろう。


私は翌朝手紙を裕一さんに託した。


その夜裕一さんは花束を持って帰ってきた。


『ただいま』


『お帰り、どうしたのその花束?』


『香織に』


『私に?』


『ああ。新しい人生を歩む決心がついたよ。待たせてごめん。香織結婚して下さい』


晴れやかな裕一さんの顔に私は気づいた。裕一さんの手紙はあいつとの...姉との決別の手紙だったんだろう。


私は直ぐに入籍して裕一さんとやっと結ばれた。

そして私と裕一さんの間に2人の子供にも恵まれた。

祐輔君や夏海ちゃんの事を心配したが2人は私達の子供を凄く可愛がってくれた。


「...あれから10年、早いわよね」


そう呟く私の耳に目的の駅への到着をしらせるアナウンスが聞こえた。


駅を出てタクシーで警察に向かう。

そして手続きを済ませ遺骨を引き取った。

預金の入った通帳と財布に入った現金を受けとる。


(発見の詳しい状況を聞いたが余り気分の良いものでは無かった)


持参の旅行鞄に遺骨を押し込むとアパートの管理会社の人にお礼をしてから特殊清掃の料金等の支払いを済ませ最後に遺品を一時預かってくれている業者に向かう。


業者の倉庫には沢山の荷物があり、その中の片隅に姉の部屋から運び出された荷物が置かれていた。


古い冷蔵庫やテレビ。僅かな食器類等の中に数冊のノートがあったが写真は見当たらなかった。


ノートのみを引き取りその他は料金を支払い処分を頼んだ。中身は読まなかった。

今は読む気がしないのだ。


全ての料金を合わせると姉の全財産とほぼ同じか少し足が出るぐらいだった。


鞄に入った遺骨は後日祖母の眠るお寺の共同墓地の永代供養に入れる事に決めた。

姉も大好きだった祖母の近くに眠る事が出来るのだから文句はあるまい。


「大好きな人と添い遂げるんだよ」


祖母の口癖を私は呟く。


あれほど好きだった祖母の言葉に背いてまで不倫をした姉の当時の気持ちは理解できない。

私には一生、絶対に理解できないんだろう。


「さて帰ろう」


私は大きく背伸びをして帰宅するのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 事実は小説より奇なりといいますが、正しく、そう思う物語だと感じました。
[気になる点] 実体験ですが私の姉は自殺で異臭の通報で発見されたのですがまずDNA鑑定の依頼をされました、勝手に火葬はされてません、損壊が酷いとのことで死に顔は見てません、死体検案書?(診断書?)貰っ…
[一言] 義両親が自分たちから別れなさいっていうのは珍しい。 娘がとんでもない罪を働いたっていうのもあるけど、娘<孫っていう感じになったのかな。 まあ、死んだ元妻は何も同情することはなかったなぁ…
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