だって仕方ないじゃない真実の愛なんだから
「ロバート様のお姿を近頃お見掛けしていませんが、風邪でもひかれたのですか?」
「いいえ」
私は寂し気に笑いお茶を飲む。
友人のマリンが心配そうな顔をする。
彼女も私の婚約者とあの男爵令嬢との噂を知っているのだろう。
2人が恋に落ちたと言う噂を……
「ロバート様と彼女は真実の愛を見つけたのです。だから家督を弟のランスロット様に譲り。身分を捨てて。何処か遠い所で暮らすそうです」
私は咲き誇る薔薇を眺める。
庭には自慢の薔薇が咲き誇っている。
「だって……仕方ないですわ。二人共真実の愛を見つけてそれに殉じたのだから。私は彼の弟と結婚してランスロット様と共に彼の家を盛り立てますわ。それが貴族の娘として生まれた者の運命です」
私は紅茶カップを置き薔薇を愛でる。
今年の薔薇は肥料がいいせいか、いつにもまして見事だわ。
赤い薔薇の花言葉は『情熱』『あなたを愛します』
ピンクの薔薇の花言葉は『感謝』『幸運』
黄色い薔薇の花言葉は『友情』『平和』
白い薔薇の花言葉は『尊敬』『純潔』
青い薔薇の花言葉は『夢が叶う』『神の祝福』
あら?
あの二人には薔薇の花は似合わないのかしら?
薔薇の花言葉は2人には当てはまらないわ。
「はあ? 家督を弟に譲って平民になって。何処か遠い辺境で暮らせ? 馬鹿じゃないのか」
私と彼の弟を前に馬鹿にしたように言う。
私達はアディア家の豪華な応接室で話し合っていた。
「では、貴方のお父様が私の父にした莫大な借金はどうなさるの?」
私は優雅にお茶を飲みながらロバートに尋ねる。
彼の父、フイルナンデス伯爵は私の父アディア侯爵に莫大な借金がある。
領地の水路と道路を整えるために莫大な費用がかかった。
畑からの利益を出すには数年の時が必要だ。
その担保が私達の政略結婚だ。
なのに彼は私との婚約を破棄したいと言い出した。
真実の愛を見つけたそうだ。
うん。お花畑で結構なことだわね。
「そのお金をそちらの貧乏男爵令嬢のセリステアさんが払えるとは思えませんが」
「それはお前が俺の妾になればいい事だろう」
「はあ?」
思わず変な声を出してしまった。
「それは……私とアディア侯爵家を侮辱しているのですか?」
王家に金を貸し付けて娘を側室にねじ込むと言う話はよく聞く。
が、彼の家は王族ではない。
爵位も私の家の方が高い。
意味が分からない。
「私を妾にって……真実の愛を見つけたのでは無いのですか?」
「そうだ。俺達の真実の愛の為にお前も協力しろ」
「なぜ? 私が協力しなければならないのですか?」
本当に彼の頭はどうなっているの?
私はランスの方を見る。
彼も意味が分からないようだ。
「ローズさん。ロバート様を愛しているのならここは協力してください。私のお腹の中には彼の子供がいるの。この子の為にも形だけの妾になって下さい。そして私達の為に借金をチャラにしてください」
男爵令嬢がいきなり話に割り込んでくる。
この女。頭も股も緩いんかい‼
「はあ? 私ロバートの事を愛していないわよ」
「子供って!! 兄上!! 恥を知れ!!」
流石に温厚なランスロットも堪忍袋の緒が切れたのだろう。
ランスロットを無視してロバートが話す。
「なに照れているんだ。お前は俺の事を愛しているから、父親に頼んで婚約者にしてもらったんだろう」
私はキョトンとした。何がどうしてそんな話ななったんだ?
「婚約者の件はフイルナンデス伯爵が頼み込んだのよ。借金の担保替わりのつもりらしいわ」
「な……そんな馬鹿な……」
「兎に角。これではっきりしましたね。フイルナンデス伯爵、お父様。いかに彼が婚約者にも伯爵家の跡取りとしてもふさわしくないか。私としては弟に爵位を譲るのなら、辺境に家を用意してもいいと思っていたんだけど」
隠し扉が開いて父とフイルナンデス伯爵が出てきた。
応接室の鏡がマジックミラーになっていて隣の部屋から丸見えなのだ。
ロバートとセリステアのあほさ加減も駄々洩れだった。
「ロバート‼ お前は病死とする。ランスロットがフイルナンデス伯爵家を継ぎ、ローズ嬢と婚約する」
「父上‼ そんなあ~~」
「私のお腹には貴方の孫が……」
「黙れ‼ 淫売‼」
すがりつくセリステアの手を払いのけ忌々し気に二人を睨み付ける。
「この二人の事は煮るなり焼くなり気のすむようにすればいい。こちらは文句を言わない‼ ランスロット帰るぞ‼」
フイルナンデス伯爵は怒気も露わに、ランスロットを連れて出て行った。
また後で。ランスロットはそう言って父親の後を追う。
ロバートは男爵令嬢を置いて逃げ出そうとしたが、私は足を引掛け転ばせる。
お父様はロバートの背中を踏みつけて逃がさないようにした。
お父様は我が家の暗部を呼んで二人を捉えた。
「ローズ‼ 俺はお前を愛しているんだ‼ だから助けてくれて‼」
「ロ……ロバート様‼ 裏切るのね‼ 許さないわ!!」
「黙れ‼ こんな女に惑わされた俺が愚かだった‼ ローズ許してくれ‼」
「赤毛の女は嫌いだと言ってたじゃない‼」
「おま……ちょと黙れ‼」
二人は互いにののしり合いを始めたが。
暗部が二人を地下牢に引きずり込んでいく。
あの二人には地面の下で頭を冷やしてもらおう。
「あら? ランスロット様ではなくて?」
マリンはランスロットが持っている花を見て笑う。
「わたしお邪魔みたいだから帰るわね」
ひらひらと手を振る。
ランスロットとすれ違うと小声で頑張れとウインクした。
ランスロットが持っている花は薔薇。
3本の赤い薔薇。
その意味は『愛しています』『告白』
彼は跪いて私に差し出してくれた。
私は笑って受け取った。
~~ 登場人物紹介 ~~
★ ローズ・アディア 18歳
侯爵令嬢。ロバートに婚約を破棄される。
昔からロバートよりランスロットの方が好き。
遅かれ早かれロバートとの婚約は破棄された。
★ ロバート・フイルナンデス 22歳
フイルナンデス伯爵家の跡継ぎ。
ローズの婚約者。馬鹿。女好き。賭け好き。貧坊ちゃま。
★ セリステア・ペルザー 17歳
男爵令嬢。金持ちの男ゲットだぜ‼ のはずが貧坊ちゃまだった。
女子に嫌われているのでお茶会に呼ばれないので、情報収集出来なかった。
頭と股が緩い子。
★ ランスロット・フイルナンデス 19歳
フイルナンデス伯爵家次男。ロバートの弟。
兄と違いまとも。ローズとは幼馴染で好きだったが、兄の婚約者で諦めようとしたが。
★ アディア侯爵 58歳
ローズの父。フイルナンデス伯爵家にお金を貸している。
ロバートとは婚約させたくなかった。
ローズが離婚する事になるとフイルナンデス伯爵の領地の3分の1が慰謝料として贈られることになっていた。
★ フイルナンデス伯爵 43歳
ロバートとランスロットの父。アディア侯爵に借金をしている。
頼み込んでロバートとローズを婚約させる。奇跡と喜んでいたがロバートが阿保だった。
真面目に領地の経営をしている。
★ マリン・アンブラー 16歳
ローズの友人。伯爵令嬢。
空気の読める良い子。
* ロバートとセリステアが辺境で暮らしているか、薔薇の肥やしにされたかは、読者の好きに取ってください。
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2018/11/4 『小説家になろう』 どんC
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最後までお読みいただきありがとうございます。




