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第16話 魔法少女系アイドル#とは

 深い藍色の長い髪。蒼く艶めくその髪を、白色のリボンで高めの位置から一つにまとめ、白と蒼であしらわれたフリルのミニドレス衣装に身を包んだ少女がステージに立っていた。

 客席は白色と蒼色の光で埋め尽くされ、中には白と蒼で飾りつけられたうちわもチラホラと見える。

 少女はゴクリと生唾を飲み込むと、手に持つマイクを恐る恐る自身の口へと近づけた。



 *



『蒼井フロレア、初ソロシングル。「アンノウン・ブルー・ハート」好評発売中!』


 とある放課後の中等部四階、第三放送室。

 いつものスチールデスク席に座りながら、デスクに置かれたパソコンでボケーっとゲームの実況動画を見ていた樹は、動画の合間に挟まれた広告動画も飛ばさずにそのまま眺めていた。


「はーん、蒼井フロレアがソロデビューねえ。確かに最近よく見るなあー」


 深い意味もない、率直な感想が飛び出ただけの独り言に、こちらもいつも通りブラウン管テレビの前に座布団を敷いて格闘ゲームをガチャガチャと遊んでいた小蘭が反応する。


「蒼井チャンに興味があるノ?蒼井チャンはいいゾ!ワタシの最近の推しだからネ!!」


 ふんすふんすとまるで自分のことのように誇らしげに胸を張る小蘭に、樹ではなく、依頼の報酬としてもらった菓子をソファに座りながらばくばく食べ散らかしている鵺一が顔をしかめた。


「珍しいな、樹が女に興味を持つことに怒らないなんて」


 鵺一の発言に小蘭はコントローラーを投げ捨てるとソファの裏からガッと鵺一目掛けて身を乗り出す。


「芸能人はノーカン!!!」


 そう鵺一に言い訳すると、ごほん、と咳払いをしてから推しについて語り出した。


「蒼井フロレアはネ、魔法少女系アイドルグループ、Magica(マジカ)POM(ポム)のブルー担当でネ、控えめでバラエティとかでもあまりグイグイ前に出ないんダケド、一番歌が上手いノ!」


 スマートフォンを手に取り、タタタと画面を叩いて見せたい画像を探し出すと、小蘭は鵺一の頬にグイッとスマホごと押し当てるようにして画面を見せつけた。

 体勢が体勢ですごく見辛かったが、何とか首を回して鵺一が画面を確認すると、そこには魔法少女アイドルという謳い文句にふさわしい、大きなリボンや沢山のフリルをふんだんにあしらった、カラフルなミニドレス風の衣装に身を包んだ五人の女性が、それぞれデザインの違うステッキを手に持ち決めポーズを取っていた。左から緑、青、赤、黄、紫と並ぶ女性のうち、小蘭は青の衣装を着た女性をトントンと指差した。彼女が小蘭の推しの「蒼井フロレア」なのだろう。

 蒼井フロレアは深い藍色の長い髪を白色のリボンで高めの位置から一つにまとめ、白と蒼であしらわれたフリルのミニドレス衣装に身を包んでおり、顔を隠すほど長く切りそろえられた前髪の間から半分ほど見える彼女の顔からは、小蘭が言っていた通りのおとなしく控えめな印象を受け取った。


「ネ?ネ?他の四人もモチロンいいんダケド、蒼井チャンが一番顔が可愛いでショ!?」


 どうやらそんな彼女の顔が、小蘭の推しポイントらしい。確かに、くりっとした大きな瞳、高くはないが低くもないちょうどいいくらいの鼻筋に、こじんまりとした小さな口元。半分しか見えないと言えど、アイドルをやっているだけあって、顔面偏差値は高そうだ。


「桜井ももこヨリ、蒼井チャンの方が何億倍もアイドルダヨ!だから初ソロ出すって聞いテ、ワタシめちゃくちゃ嬉しいヨー!」


 また別所属の、こちらはいわゆる王道を突き進んだような正統派アイドルの名前を比較に出しながら、小蘭はデレデレと推しに想いを馳せた。

 場所の関係から小蘭のスマホの画面がよく見えなかった樹も、パソコンで検索し彼女達の画像を見ながら、ふーんと小蘭の話を聞いていたが、小蘭の推しプレゼンが終わると思い出したように口を開いた。


「なあ、それよりもオレが女に興味持つことに怒らないって何、どういうこと」


 樹は無視して小蘭は再び語り出す。


「CDもネ、発売日に買いに走ったんダヨー!グループのCDも全部揃えてるカラ、いつでも貸せるヨ!というか貸すカラ聞けヨ!」


 今度は強引なダイレクトマーケティングを始めだした小蘭に、アイドルだとか曲だとか最近の流行り物にこの上なく疎い鵺一は微妙な顔をする。


「ぬ……そう勧められてもな……正直桜井ももこも含めて彼女らが全員同じに見える……覚えられん……」


 お爺ちゃんみたいなことを言い出した鵺一だったが、小蘭はお構いなしに畳み掛ける。


「そんな人のためニ!マジポムは担当カラーが決まってるノ!蒼井チャンは名前通り青だカラ色で覚えればいいんダヨ!」


「待て待て、まじぽむって誰だ?それは何色だ?」


「Magica*POMの略称ダヨ!グループ名!!」


 完全にジジイとその孫のような会話を繰り広げる二人に、樹はまた口を挟む。


「なあオレが女に興味持つことに怒らないって何」


 再度樹を無視して、小蘭はオタク特有の早口になりながら鵺一に蒼井フロレアのプレゼンを再開した。


「蒼井チャンはネ本当に可愛いノ!五人の中でも仕草が一番綺麗デ魔法少女っぽくテ性格も作ってる感じがしなくてネすごい清楚感がすごいのヤバくナイ!?そして何より歌が一番上手いノ!声質がネ一番透き通ってるというかピュアな感じがたまらないんダヨ!!」


 短時間にガーッと過剰な情報を押し込まれたお爺ちゃんは、情報の波に上手く乗り込めずぐるぐると目を回し始める。


「ダカラ蒼井チャンは最高なんダヨ!!」


 そう小蘭がフィニッシュを決めたと同時に、樹も机を強めに叩きながら身を乗り出し声を荒げた。


「だからオレが女に興味持つって何!!」


 樹がそう叫ぶまさにその直前に放送室の入り口がガラリと開けられ、中に入ろうとした人物は今の発言をバッチリ聞いてしまった。


「え……いっつー、そんなセクハラ親父みたいな感じになっちゃったの……?うわぁ、ドン引きぃー」


「ちげーから!!」


 軽蔑の眼差しを向けたまま中に入る女子に、樹は力一杯否定を入れてから彼女にツッコんだ。


「つか何しれっとここにいんだよ波音!この間の華音といい、お前らナナコーの生徒だろ!ここ緑原!!」


 その指摘通り、そのままストンとソファに座る元気そうな風貌の女子生徒の制服は、緑原とは違うセーラー服。華音の三つ子の姉の片割れである波音は、ナナコーこと七光内の生徒だった。

 ちゃっかり鵺一の右隣を獲得した波音は、菓子を食べる手を止めて顔をひきつらせる鵺一に寄りかかり腕をガッチリホールドすると、にゃははと笑った。


「いーじゃん、かーくんだって来てんだしー!というか、波音ちゃんが何も用がないのに来るわけないっしょ!鵺一くんに会いに来たいのはやまやまだけど別の学校に通うわけにはねー」


「来なくていい……」


 弱々しく呟く鵺一をスルーして、小蘭が波音に尋ねた。


「用って何?またいつもの華音を探せとかソーイウノだったりスル?」


 ジトッと見てくる小蘭に波音はブンブンと首を振った。


「違うよシャオシャオー。あんね、今日はふっつーにふっつーの依頼!かーくんは関係ないの!」


 で、とそこで言葉を区切ると波音は立ち上がった。腕を掴まれた鵺一はそれに引っ張られ、中途半端に腰が浮いた姿勢になる。


「詳しい話は道中でするからさ、緑原の校門まで来てくれない?そこに依頼主待たせててねー」


 行こ行こ!と波音はそのまま鵺一を引きずり放送室から出て行ったので、樹と小蘭も仕方なく彼女に続いて部屋を出た。



 *



 緑原学園、正門。

 私立の中高一貫校だけあって巨大で少し豪華な装飾の門の前に、近所にある門が立派じゃない公立高校である七光内高校の制服、緑のスカーフと緑のラインが入った白いセーラー服を着た、青っぽい黒髪でロングの女子生徒が手提げ鞄を持ちながらぽつんと立っていた。


「遅れてごめりんこー!連れてきたよーん!」


 と、門の奥に広がる緑原学園の中庭から、にゃはは!と元気そうに波音がやってくる。相変わらず左腕は鵺一の右腕をガッチリホールドしており、当の鵺一はなんだか力なくぐったりした顔をしていた。

 そんな波音の後ろから、樹と小蘭も顔を出す。


「波音、この人がさっき言ってた人?」


 樹は門の前に立ったままの女子生徒を見る。彼女は長い髪を背中に垂らし、下の方で軽く結って纏めている。そして何より特徴的だったのは、長い前髪で顔全体を隠していたこと。かろうじて見える口元より上は、すべて前髪で隠れてしまっていた。


「そだよんー!」


 樹にそう答えると波音はようやく鵺一から腕を外して開放し、そのままてててと女子生徒の方まで行くと、彼女の後ろに回って両肩にポンと手を置いて紹介した。


「この子がさっき言ってた「さだちゃん」!いっつー達の話したらね、お願いしたいことがあるって相談されたんー」


 波音の紹介を受けて、どこか緊張した面持ち(顔は見えないが)の女子生徒はガバッと勢いよく頭を下げた。


「あああああの、わわわ私、七光内2年2組出席番号1番の(あおい)貞子(さだこ)と申しますっっ!」


 いらない情報まで加えながら深々とお辞儀を続ける貞子に、一同は少し戸惑った。と、その様子に貞子も気づいたのか、慌てて顔をバッと上げる。


「はぅあっ!!ごごごごめんなさい!私ったらまた何か余計なことを!!死んで詫びますっっっ!!」


「待って待って待って」


 そのまま勢いで土下座の構えを取ろうとしだした貞子を樹と小蘭は慌てて止めた。


「ええっと、落ち着いてくださいっす、オレ達一年なんでそんなかしこまったり敬語使わなくても大丈夫っすよ!」


 そう樹が声をかけるも、貞子はものすごい勢いで首を横に振りまくる。


「そんなわけにはいきません!!私はこれから皆さんに依頼をする身!!そんな失礼なことできるわけがないんですっっっ!!」


 ブルンブルンと振られる顔は、明らかにアワアワとテンパっており、だんだんと顔が赤くなっている。


「いやだから落ち着いてって……!」


 と、再度樹が制したところで、顔が完全に真っ赤になった貞子はバターンと倒れた。小蘭が思わず悲鳴を上げる。


「ギャーーッ!倒れたヨこの人!!大丈夫ナノ!?!?」


 おろおろする小蘭とは対照的に、一連の流れに全く動じず落ち着いた様子の波音が貞子に近づくと、彼女の顔の上で手をひらひらさせた。


「ありゃー、ダメですねえー。緊張がオーバーフローしちゃってるにゃー」


 反応のない貞子を見てにゃははと笑う波音に、三人は彼女らにとってこの流れは日常茶飯事なんだと察した。



 *



「なるほどなあ、つまり貞子さんは極度のあがり症なんすね」


 緑原学園の中等部校舎四階、第三放送室。

 倒れた貞子が起きるのを待ってから、立ち話もなんだしと一同は部屋に戻ってきた。

 ソファの真ん中に座り、俯きながらもじもじと手をいじる貞子は、申し訳なさそうに頭を下げた。


「うう……すみません……お手数おかけしますぅ……」


 えぐえぐと若干泣きそうな声になっている貞子を見て、スチールデスクのいつもの席に座る樹と、その横に立つ小蘭は顔を見合わせた。


「貞子サンはそのあがり症を治したくテ、ワタシ達に依頼をしに来たノ?」


 貞子に向き直してから小蘭が確認を取ると、貞子ではなくその隣に立つ波音が口を開いて答える。


「そだよ!さだちゃんね、ほんっとーに緊張しいなの!授業で指名された時もテンパるし、知らない人と話しただけでもテンパるし、ステージに上がって人前で発表なんてしたら完全に倒れちゃうの!それをね、克服する手伝いして欲しいんだってー」


 波音はそう説明しながら再び鵺一の腕をガッチリホールドしていた。そんな鵺一は、一度解放されたはずの自分が何故再度拘束されているのかの理解が追いつかず、どうして、という顔で樹と小蘭を見ている。

 鵺一の訴えは一切無視して、樹は波音の説明に異議を唱えた。


「それさ、二ノ宮の術使って克服すりゃいいじゃん。この間華音がやったみたいに、自信がつく札使ってあげれば解決じゃねーの?」


 少し前の華音feat.愛里寿による「翔君七変化ショー」を思い出し、樹は波音にそう聞き返したのだが、聞かれた波音は信じられないと言う顔で目を見開いていた。


「えっ、かーくんマジでそれやったん??嘘でしょ、バカじゃん!!あれやりすぎると元の人格が行方不明になるからあんま使うなって言ったのに」


「華音そんなこと一言も言ってなかったぞ!?」


 まさかの副作用カミングアウトに樹は思わず身を乗り出してしまった。あそこで愛里寿が止めてくれなかったら、翔は帰ってこなかったのかと思うとちょっとゾッとする。よく帰ってきてくれた翔。正直、あの性格が変わった後の翔のままになっていたらとてもしんどいぞ。


「とにかくね、さだちゃんの場合はそーいう短期催眠で解決してもあんま意味ないの!あがり症自体の克服なんだから!」


 異議をはね返すとビシッと樹を指差し波音は続けた。


「てわけでね、初対面のいっつー達相手に色々チャレンジして慣れて欲しいんだよー。いっつー達そーいうのも手伝ってくれるって言ったらお願いしたいってー」


 にゃはーと笑う波音の言葉を聞き終わってから、樹と小蘭は波音に向けていた顔を貞子に戻す。相変わらず恥ずかしそうに俯いていたが、小さい声で「お願いします……」と呟きながらコクコク顔を頷かせていた。


「樹ィ、本人もやる気あるみたいダシ、付き合ってあげヨーヨ。ワタシ達緊張しないことに関してはプロフェッショナルみたいなモンだもんネ!」


 貞子の意志がちゃんとあることがわかると、小蘭はドンっと胸を叩きながら任せろ!のポーズを取る。それを見て、樹は小蘭と貞子を交互に見比べると力強く頷いた。


「いいっすよ、お手伝いしましょう」


 貞子の顔が少し明るくなる。だが後に続いた樹の言葉は最悪だった。


「でも貞子さんは既に一つは自信は持てると思うんすよ、ほら、小蘭見てくださいよ?かわいそうなくらい無いでしょ、どことは言わないけどこれ完璧に壁っすよかb」


 最後まで言い終わらないうちに小蘭からアイアンクローが飛んでくる。

 突然の暴力に驚いた貞子の胸には、確かに大きな二つのメロンがどどいんと揺れていた。



 *



「よし、まずは発表の場に慣れてみるってことで、今から大喜利タイム始めまーす」


 ローテーブルとソファを奥に寄せて、部屋の入り口側の座布団スペースを広く取ってから、そこに全員移動した。

 先ほど見事な小蘭のアイアンクローが深々と顔面に刺さりモザイク必須のグロテスクなことになっていたはずの樹が、そんなこと一切なかったかのようにケロリと涼しい顔で宣言する。


「司会進行はオレ!設定だけが残っている一応放送部所属の神原樹がお送りします!」


 いつだかのミニカー大会の時のように、また筆箱をマイクに見立ててトークをしだした樹は、そのままバン、と床に三枚ずつ重ねて敷かれた座布団に座る三人に手を向けて紹介する。


「今日はこちらの参加者の皆様に挑戦していただきます!それでは一人ずつ意気込みをどうぞ!」


 振られた三人の内、二人は一言ずつコメントした。


「座布団10枚集めテ、ハワイ旅行に行きたいデス!」


 とガッツポーズを取るのは左端に座る小蘭。

 樹のコメント「思いっきり元ネタになりきってますねえー」


「やっと解放されたので、もうこのままがいいです」


「キャーーー!!鵺一くんカッコイイーーー!!」


 と右端に座り安堵した顔で話す鵺一と彼の一言を食い気味にかき消すうるせえ外野(波音)

 樹のコメント「まだ解放されてないみたいですねえー」


 二人のコメントが終わると、全員が自然に真ん中の座布団に正座する、俯いたままの貞子に視線を動かす。

 しばらくの沈黙。貞子がコメントするのを四人は待っていたが、なかなか喋ってくれない。いや、よく耳を澄ますと凄い小声で何か言っていた。


「ょ……ぉ…」


 どうやら「よろしくお願いします」と言っているようだ。


「はい!貞子さんからも一言頂けたので早速大喜利始めまーす!」


 とりあえず貞子もコメントしてくれたので、樹は強引に進行を開始した。


「では!第一問です!ででん!」


 セルフジングルを口ずさみながら、大喜利のお題が一つずつ書かれた数枚のメモをペラペラ見比べて最初のお題を選定し発表する。


「学校をズル休みする時の言い訳ランキング第42位は何?」


 言い終わるや否やバッと小蘭が素早く手をあげたので、樹はそのまま小蘭を指名する。


「はい、小蘭さん!」


「タンスに小指ぶつけたノデ休みマス」


「地味に痛いけど休む理由に全くならないやつ!」


 この微妙な感じが42位っぽいですねー、と小蘭のなんとも言えないボケに、樹は何故か満足そうにうなずく。そして次に手をあげて順番を待っていた鵺一を指名した。


「はい、鵺一さん!」


「蟻に噛まれました」


「蟻を使うところが明らかにズル休みですねー!」


 やはりどこか嬉しそうにコメントすると、樹は「他ないですか?」と尋ねる。と、再び小蘭が手をあげた。


「はい、小蘭さん!」


「罠にハマったノデ休みマス」


「罠の言い訳とか正にズル休みの適当な理由付けって感じしますねー」


 そう樹がコメントしていると、大人しく話を聞いていた鵺一がハッとした顔になり、食い気味に挙手をした。その勢いにちょっとビックリした樹だったが、とりあえず鵺一を指名する。


「はい、鵺一さん」


「おじいさんの家に行くので休みます」


「んん?それ正当な欠席理由になるやつじゃね?お題はズル休みの言い訳42位だぞ?」


 何言ってんだ?と樹が顔をしかめるのとほぼ同時に小蘭がまた手をあげ、樹の返事を待たずに回答する。


「機織りするノデ休みマス」


「ん!?」


 今度は鵺一が手をあげて発言する。


「覗かれたので休みます」


「おい」


 畳み掛けるように小蘭が手をあげる。


「空に帰るノデ休みマス」


「鶴の恩返しじゃねーか!!何?鶴はズル休みして鶴の恩返しやってたの!?何から休んでたの!?」


 見事な連携で鶴の恩返しを再現した二人に樹はがーがーツッコんでから、どこか得意気に胸を張る二人を指差し波音を呼びつける。


「アシスタント!なんかムカついたからこいつらの座布団一枚持ってって!」


「ほいほーい!」


 指示を受けた波音は樹に言われた通り小蘭の背中を強めに押して座布団からどかすと、そこから一枚引っ張って没収した。同じように鵺一もどかすと一枚取り上げる。


「他!他ないですか!」


 大げさにズッコケたままの小蘭と鵺一は放置して、他の回答者を待つ。その残り一人の回答者は、おどおどと周りの様子を伺っているのか、チラチラと樹を、波音を、小蘭を、鵺一を、順々に見てはモジモジしている。

 おそらく何か思い付いたが緊張に負けて発表する勇気が出ないのだろう。


「他、いませんか?」


 樹はそんな貞子をガン見しながら、語気を強めて威圧気味に貞子に対して尋ねる。樹の喋り方から状況を察したのか、姿勢を戻した小蘭と鵺一、そして二枚の座布団を持ったままの波音もジッと黙って貞子を見る。

 周りから一気に注目を浴び、あわあわとしだした貞子だったが、この大喜利の本来の目的を思い出すと覚悟を決めたようにバッと手をあげた。


「はい、貞子さん!」


 待ってました、と言わんばかりに貞子を指して回答を促すと、貞子はおどおどしながら小声でボケた。


「ひ、光る竹を見つけたので休みます……」


 ボソボソと貞子が答えた瞬間、小蘭がシュバッと手をあげた。


「竹を切ったラ女の子がいたノデ休みマス!」


 当然のごとく樹をスルーして回答する小蘭に続いて、鵺一も素早く挙手して勝手に回答を始める。


「その女の子を育てるので休みます!」


「女の子が美人になったノデ休みマス!」


「女の子が帝に求婚されたので休みます!」


 そこまで交互に話を続けると、そして!と小蘭と鵺一は貞子に詰め寄る。急な振りにはわっ!と驚きわたわたと手をバタバタさせてからはいっ、と手をあげてパスを受けた。


「月に帰るので休みます!」


「かぐや姫ーーーーーーーーッ!!!」


 ちょっと自信ありげに貞子がオチをつけると、樹はそれだけ叫んでからこのお題が書かれたメモを放り投げた。


「はい、では二問目行きます!ででん!」


 気を取り直して、樹は残りのメモから二問目を発表した。


「富士山頂にて謎のボタンを発見。押すとどうなる?」


 出題をし終えるとすぐに小蘭が手をあげたので、樹は小蘭を指名する。


「早いな……はい、小蘭さん!」


「富士山カラ雪がなくナル」


「ベタな回答ですねえー。これをお手本に、他いませんか?」


 模範的な回答に頷いてから、樹は他の回答を催促した。と、再び手をあげる小蘭。


「連続か?はい、小蘭さん」


「富士山のスイッチは実はVR装置の電源スイッチだっタ。それを押したことにヨリ、今まで現実だと思っていたものガ全てVRホログラムだったことを知ル。そう、世界は全て虚構。仲の良かったあの子もVRが作った偽物。本物の人間は誰もいなイ。本当の現実世界に帰る時が来たノダ」


「突然のSFやめてもらえる?どうツッコんだらいいかわかんねえんだけど!」


 急に壮大な物語を作りだした小蘭に樹は戸惑いの声をあげる。すると、そのやり取りが終わるタイミングを伺っているのか、貞子がチラチラと樹と小蘭を様子見しだした。二人はその視線に気づくと、ジッと貞子を見返す。視線を返された貞子は、はわっ、とたじろぎ、しかしすぐにハッとした顔になると手をあげる。


「はい、貞子さん!」


 当然、樹が貞子を指名する。貞子は相変わらず体を強張らせて緊張しながらも、一問目の時よりは大きめの声で回答をした。


「富士山のスイッチ、押したら富士山がワープします」


「おお、これもなかなかベタっすねー。ちなみにどこにワープするんですか?」


 貞子の無難な回答に、うんうんと樹は頷く。ただこれだけだと弱いので、樹は回答の掘り下げにかかった。

 まさか追求が発生するとは思わなかったのか、不意打ちで振られた貞子はやはりはわわ、とあたふたする。そして、ちょっと恥ずかしがりながら追加の回答をした。


「え、えっと、ニュージーランドの……タラナキ山と入れ替わります……」


 ボケの意味がわからず、小蘭と波音はぽかんとしていたが、一人意味がわかった樹は即座にツッコむ。


「オレその山知ってる!富士山にそっくりな山だろ!入れ替わっても誰も気づかないやつだ!」


 樹の解説風なツッコミを聞いて小蘭が素早くスマートフォンで画像検索をしてみると、確かに富士山そっくりの山の画像がたくさん出てくる。


「「ほんとだーーーー!!!」」


 小蘭の後ろから画面を覗き込む波音も納得して、二人揃って声を上げた。


「これは良い回答!アシスターント!座布団一枚あげて!」


「波音ちゃんもこれには激しく同意なのだ!座布団あげるのだ!」


 樹の指示に波音も満足気に笑いながら頷くと、先程小蘭と鵺一から取り上げた座布団のうち一枚を貞子の元へ持っていき、一度彼女が座る座布団からどいてもらってからそこに一枚重ねて追加した。この評価に貞子はパァッと顔を綻ばせる。その表情は、なんだか少し自信がついてきたようにも見えた。


「ところで鵺一、お前さっきから何描いてんの?」


 そんな貞子の隣で、いつの間に持ってきたのか小さめの持ち運びができるホワイトボードに、鵺一は二問目が始まった頃からグリグリと何かを書き込んでいた。そしてとうとう手を止めると、自信ありげに手をあげる。


「はい、鵺一さん」


 一応形式を守る形で樹が指名すると、鵺一はドンっとホワイトボードを全員に見せた。


挿絵(By みてみん)


「 と ぶ 」


「はい!今日はここまで!これにて笑点お開き!」


 樹はツッコミを放棄して鵺一を蹴飛ばし、座布団から転がし落として全部没収すると大喜利を強制終了した。



 *



 緑原学園から少し離れた、飲食店や雑貨が建ち並ぶ商店街。その駅方面近くにででんと突然現れる商店街唯一のカラオケ店に、樹達一行は移動していた。

 フロントで受付を済ませて広めのカラオケルームを用意してもらい、ドリンクバーで各自適当に飲み物を選んでから部屋に向かう。

 全員が部屋に入り、長めのソファに腰掛けたところで、今度は本物のマイクを手に取り樹が司会進行を始める。


「次のステップは羞恥心を捨てる!というわけで、レッツカラオケパーティー!!」


「「イエーーーーーイ!!」」


 樹の掛け声に合わせて、貞子を挟むように座っていた小蘭と波音が、ちゃっかりフロントから借りてきていたタンバリンをやかましくシャンシャンシャンシャン振り回す。当然、両隣の騒音に貞子はビクッと肩を跳ねらせる。

 ちなみに鵺一はまたもや波音に距離を詰められ隣に座られたため、どこか諦めたような顔をして部屋の隅を見ていた。


「よーし!歌いたいやつはどんどん歌え!ただし後になればなるほどこういうのは緊張するからな!早めに出た方がいいぞ!」


 と、貞子を見ながら釘を刺すように樹は言ったのだが、貞子ではなくいつの間にかカラオケのリモコン端末を抱えていた小蘭がピピピと流れるように曲を入れた。

 リモコンから曲のリクエストを受け、アーティストの新曲やアルバムなどの宣伝動画を流していた部屋のモニターの画面が切り替わる。軽快でポップなメロディの前奏と共に画面に表示されたのは「豆腐の角に頭ぶつけて死ね」というタイトルと「桜井ももこ」というアーティスト名だった。


「お前本当にその曲いっつも歌うよな」


 何度も見た曲名に、樹はまたですかと呆れ気味にため息をつく。が、すぐに「あれ?」と違和感を感じてもう一度小蘭に話しかける。


「でもお前、桜井ももこより蒼井フロレアのが好きだっつってなかった?これ桜井ももこの曲だぞ?」


 確かに小蘭は推しのアイドル話をしていた時に、アイドルの王道をいく今や国民的アイドルな桜井ももこより、最近売れてきたコミックバンドチックな魔法少女モチーフのアイドルグループの一人、蒼井フロレアの方がお気に入りだと豪語していた。なのにいつもカラオケで歌うのはこの桜井ももこの曲だ。樹はこの矛盾が気になってしまったわけなのだが、当の小蘭はケロリとその疑問に答える。


「推しの好きと曲の好きハまた別腹ナノ!」


 そんなやりとりをしている間に前奏が終わり、小蘭はそのまま曲を歌い出した。仕方なく樹は小蘭がさっきまで持っていたタンバリンを拾い、来たるサビに備えて構える。波音も曲を知っていたようで、樹と同じようにサビに備えてタンバリンを構えながら、貞子にも一つ余っていたタンバリンをぐいぐいと押し付ける。


「ほら!さだちゃんも!こーいうのは恥ずかしがらずにその場のノリに任せてやるもんだよん!」


 ほらほら!と半ば無理矢理タンバリンを貞子に渡したところで、曲はちょうどサビに入った。


「お前なんか〜♪豆腐の角に頭ぶつけて〜♪」


「「死ね〜〜〜!!」」


 タンバリンを叩きながら完璧なタイミングで物騒な合いの手を入れた樹と波音の勢いに、またもや貞子はビクッと体を猫のように跳ねさせる。そのあとも曲の間奏で「あい!あい!」とタンバリンを振り上げながら掛け声を入れる二人を見て、貞子もそろそろと真似をして軽くタンバリンを鳴らす。


「静止してる豆腐に〜♪秒速340kmの速さで突っ込んで〜♪」


「「死ね〜〜〜!!」」


「し、しねー……!」


 ラストのサビでは、貞子も小さく合いの手を入れていた。それに樹と小蘭、波音も気付くと、にまーとしたり顔で笑う。


「トップバッターは千年に一度の美少女小蘭チャンデシター!イエーイ!」


 最後まで歌い終わり、腰に手を当てて高らかにマイクを掲げながら高笑う小蘭から樹は無言でマイクを奪い取るとリモコンをいじって曲を入れた。


「次オレ!ほら、早くマイクを奪わないと、どんどん歌いづらくなるっすよ〜」


 ニヤアと意地悪そうに口角を吊り上げて貞子を脅すと、樹が入れた曲が画面から流れ始める。最近流行のバンドの有名曲を、可もなく不可もなくな歌唱力で歌い始めた。

 気持ちよさそうに歌う樹と、マイクを取られた代わりにタンバリンを回収して叩いて拍を取る小蘭と、「ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー!」と独特の合いの手を入れ始める波音。(それとまだ魂の抜けた顔で部屋の隅を見る鵺一)

 そんな彼らを見て、貞子はなんとかノリについていこうと渡されたタンバリンを小蘭の真似をして叩く。


 _人人人人人人人人人人人人人人人_

 > ここで突然の樹のデスボイス <

  ̄YYYYYYYYYYYYYYY ̄


 貞子はもちろん、小蘭と波音もびっくりして手を止めると、完璧なデスボイスを披露した樹を五度見ぐらいした。あの顔で、あの声域で、一体どこから今の声が出たんだこいつは?確かに今樹が歌っている曲は少しデスボイス気味のシャウトが入る。こいつそれを完全再現しやがったぞ。

 デスボイスはなかなか難易度の高いテクニックだと言うのに、失敗を恐れず披露しようとする度胸。最初に歌っていた小蘭も歌いながらノリノリで踊っていたことを思い出し、貞子は決心したような顔つきになった。


「やー、歌った歌った!オレ今日調子いいかも!」


「いやいや調子良すぎっしょ、いっつーの喉どうなってんの、逆にバグってんの??」


 散々デスボイスで暴れまくっておきながらちっとも声が枯れていない樹に波音は人間じゃないものを見る目を向けつつ、リモコンを手元に寄せて曲を探す。しかし、波音が予約を入れる前に、画面はそのまま次の曲を流し出した。最近聞いたばかりのイントロに、小蘭が驚いた顔をする。


「蒼井チャンのソロ新曲!ダレ!?誰が入れたノ!?」


 どうやら小蘭以外の誰かが入れたようだが、樹は歌ったばかりで、波音は今から曲を入れるところ。となれば残った鵺一か、それとも……。

 と、貞子がスッとマイクを持ち席から立ち上がる。


「あっ、貞子サンが入れたんダネ!貞子サンも蒼井チャン好きナノー?」


 それを見て状況を判断した小蘭が、同志を見つけて嬉しそうな顔をしながら貞子に質問をしたが、貞子は照れ気味にニコニコするだけで答えなかった。そうしている間に、イントロが終わる。貞子は息を深く吸い込んで、歌い出した。


 貞子の歌は、めちゃくちゃ上手かった。


 樹も小蘭も下手の部類ではなかったのだが、あくまでも素人の域での話。貞子の歌唱は、プロといっても差し支えないレベルだった。しかも声質も蒼井フロレアに似ているようで、本人が歌ってるんじゃないかと錯覚するほどだった。

 タンバリンを叩いて合いの手を入れようとしていた小蘭は、圧倒的な歌唱力に気圧され叩くことができなかった。樹も同じく、まだマイクを持ったまま呆然と貞子を見ており、波音もリモコンを操作する手を止めて聞き惚れていた。今までずっと我ここにあらずで遠い目をしていた鵺一でさえも、抜けていた魂が戻ってきたようで貞子を凝視している。

 全員の視線を集めながらも、貞子は気にすることなく曲を歌い切った。

 ふう、と一息ついたところで、ようやく自分が全員から注目を浴びていたことに気づいた。貞子は慌てて取り繕う。


「すすすすいません!出過ぎた真似をしましたっっ!これからは動かないし喋らない石像の振りに徹しますので!!」


 よくわからないことを言いながらマイクを戻そうとする貞子の腕を、ガシッと小蘭が掴んで止める。はわっ!と更にテンパる貞子に、小蘭はキラッキラに輝いた目を向けた。


「もっと歌っテ!!!!!」


 自分の想像と180度違う反応に、貞子は思わずぽかんと口を開けてしまう。そんな彼女の態度を一切確認せずに、小蘭は波音からリモコンを奪うとピピピと凄い勢いで操作を始め、蒼井フロレアも所属するMagica*POMの曲一覧のページをアーティスト検索から表示させるとパッと貞子に見せる。


「蒼井チャンそっくりで凄かったヨ!!だからもっと蒼井チャンの、マジポムの曲歌っテ!!貞子サンも蒼井チャンのファンなんデショ!?」


 ぐいぐいとリモコンのモニター画面を頬に押し当てそうな勢いで貞子に見せてくる小蘭に、貞子は苦笑いしか返せなかった。そして、本来なら自分の次に曲を入れる番だったはずの波音をチラリと見る。順番を取られて不機嫌になっていないかとハラハラしながら様子を伺ったが、そんなこともなく波音はあっけらかんとしていた。


「いいよいいよさだちゃん歌ってー!波音ちゃんは合いの手入れる方が得意だしね!」


 そう言いながら、ふふん!と得意気にタンバリンを構えたので、その言葉に甘えて貞子は小蘭の要求を飲むことにした。

 早速小蘭のリクエストを聞き、Magica*POMの曲を変わらず高い歌唱力で披露する。そんな貞子を見て、まあ何もしてなくてもプロ並みに上手い人もたまにいるもんな、と樹も状況を受け入れ、波音と同じようにタンバリンを装備し楽しむことにした。

 鵺一だけは、変わらず貞子を凝視し続けていた。


 そうして貞子は小蘭のリクエストを次々と受け、カラオケルームは今や貞子によるソングショー会場となっていた。だんだんノリを取り戻して行った樹と波音は、なんとか合いの手を入れようと頑張ったが、純粋に貞子の歌だけを聞きたい小蘭に容赦なく止められた。小蘭にとって、樹達の合いの手はもはやノイズ扱いである。だが貞子の歌声は全く聞き飽きることがない。何度でも聴ける歌声で、たとえ合いの手を入れられなくとも楽しめないわけではなかった。しばらくしてからタンバリンを叩くのだけは許されたので、結局樹と波音はノリノリで叩きまくったが。

 貞子も何度も歌ううちに、印象が変わってきていた。最初の周りを伺うようなオドオドした感じから、今はすっかり自信に溢れてしっかりと胸を張る感じに変わっている。そんな感じで歌い上げるのだから、はじめにソロ曲を歌った時よりも圧がかかっている。

 そうしてカラオケのコースの時間が終わるまで、小蘭は貞子に歌わせ続け、樹と波音はタンバリンを叩き散らした。



 *



 カラオケ店を後にして、樹達はそのまま商店街を進んで七光内駅前の広場へやってきた。大きめのバスロータリーに設置されたベンチに小蘭と貞子が座り、それを囲むように樹、波音(に腕を掴まれた)鵺一が立っている。


「で、貞子さん。どうすか?克服できました?」


 当然の如く行われる波音の拘束に、本気の目をしながら「おい、おい、助けろ、聞いてるのか」と小さな声で訴えかけてくる鵺一をガン無視しながら、樹は貞子に問いかける。


「は、はいっ。なんか克服できた、気がします!」


 少し詰まりながら答えるが、できた、とは言い切らなかった。それに樹が困ったような顔をすると、貞子は申し訳なさそうに付け加える。


「すみません……確かにある程度慣れることはできた、とは思います。でもまた別の場所で緊張しないかと言われると自信がなく……受け入れてもらえるかどうか……自信がなくて……」


「そこっすよ!!」


 そう縮こまった貞子に、樹は指を差し大声で指摘する。


「貞子さんは自分に自信がなさすぎるっす!もっと自信持っていいんですよ!大喜利だってカラオケだって、貞子さんちゃんと答えられたし歌えたじゃないっすか!」


 樹の言葉に驚く貞子の横から、小蘭も頷きながら語りかける。


「そうダヨ!かぐや姫とか、あれワタシ達が乗る自信があって言ったんデショ?だからワタシ達も拾ったシ、評価もしたヨ!自信満々でやるからコソ、みんな受け入れるんダヨ!」


「珍しくいいこと言うじゃん小蘭」


 余計な茶々を入れた樹を小蘭はぶん殴った。


「なるほど、さだちゃんのあがり症は自信のなさが原因だったんだね〜波音ちゃんみたいに自信の塊みたいな感じでいたらさだちゃんも緊張しないのかもね!」


 ねー鵺一くん♡と擦り寄る波音に鵺一は顔を逸らしつつ「その俺に対する自信を海に投げ捨ててほしい」と遠い目でぼやいた。

 そんな鵺一以外の三人の話を聞いて、貞子もゆっくり頷いた。


「確かに、私は私に自信があまりありませんでした。でも今日、大喜利でフリをしたら乗ってもらえて、座布団も貰えて、カラオケももっと歌ってほしいと言われて……私は私が思う以上に、面白いんだな、上手なんだなと思うことはできました」


「そうそう!貞子さんはむしろもっと調子乗っていいんすよ!」


 小蘭に殴られ頰が赤くなった樹が、貞子の言葉を肯定するように頷く。この言葉には小蘭と波音も同意らしく、同じように頷いていた。彼らの総意を受け取り、貞子はようやく意志を固めた。


「はい、これからはもっと自信を持ってみます!やる前からネガティブなのはダメですもんね!私は私が思うよりももっとやれるんだって思うことにします!」


 笑いながら貞子は宣言をすると、改めて樹達に頭を下げた。


「今日は付き合ってもらってありがとうございました!波音ちゃんも、彼らを紹介してくれてありがとう。依頼してよかった!なんだか生まれ変わった気分ですっ!」


 最後まで前髪に隠れたままで目元は見えなかったが、にこりと口元を緩ませた貞子は、きっと今はとびっきりの笑顔を見せているのだろう。それは表情が視認し辛くても、雰囲気で伝わってきた。限界が来たのか瞳孔を開きっぱなしの鵺一以外の三人も、そんな貞子に引っ張られるかのようにニコリと笑った。


「実は近いうちに大きな発表の場があって、なんとかしなくちゃと思ってたんです。でもそれも自信を持って発表してみることにしますっ!」


 と、貞子は言葉を続けながら持ち歩いていた手提げ鞄をゴソゴソとまさぐり始め、中からひょい、と一枚の紙切れを取り出した。


「あの、依頼にはお代が必要だと聞いていたので、足りるかわかりませんが、駅近くの焼肉屋のクーポン券をもらって下さい」


 そう言って貞子が樹に渡したのは、駅前のちょっとお高めな焼肉屋の割引券だった。

 樹と小蘭は歓喜の咆哮と共に小躍りした。



 *



 深い藍色の長い髪。蒼く艶めくその髪を、白色のリボンで高めの位置から一つにまとめ、白と蒼であしらわれたフリルのミニドレス衣装に身を包んだ少女がステージに立っていた。

 客席は白色と蒼色の光で埋め尽くされ、中には白と蒼で飾りつけられたうちわもチラホラと見える。

 少女はゴクリと生唾を飲み込むと、深く深呼吸をしてから、手に持つマイクを自信たっぷりに自身の口へと近づけた。



 *



 貞子の依頼から一週間後。

 夜、風呂を済ませた樹は家のソファにぐでっと座りながら、テレビのチャンネルを適当に切り替えてザッピングをしていた。特に見たい番組もなかったので、何か面白そうなものがあればそれを見ようと物色していたのだが、ふと聞き覚えのある名前が聞こえ、ザッピングを止める。

 その番組は音楽番組で、アーティストが生放送で曲を披露する形式のものだった。今はちょうどステージの転換作業中のようで、次に歌を披露するアーティストの紹介を兼ねて、本人に軽いインタビューを行なっているようだった。

 その次のアーティストが、小蘭がこれでもかと推していた蒼井フロレアだった。


「いやーフロレアちゃんの初ソロねえ!すごいねえ!」


 司会役のサングラスをかけた男性が感心しながら彼女にそう声をかけると、フロレアは小さめに「ありがとうございます」と頭を下げる。


「今日初めてライブで一人で歌うんだよねえ。どう?緊張してない?」


 司会が尋ねると、フロレアは苦笑いをした。


「いやもう、すっごい緊張してます!」


「だよねえ、緊張するよねえ」


 フロレアの答えを受けてうんうんと頷く司会に、フロレアは「でも」と続けた。


「今日はしっかり自信を持って歌います。私、実はすっごいあがり症なんですけど、それを克服する手伝いをしてくれた友達がいまして。彼らにもっと自信持てー!調子に乗れー!と言われたんです」


「調子に乗れって言われたの!?その友達すごいねえ」


 フロレアの話に司会がリアクションを入れると、フロレアも「ですよね」と再び苦笑いをした。


「でも、その通りだなって。私、自分に自信がなかったので、逆にもっと図々しくていいんだと言ってもらえて、勇気を貰ったんです。だから、今日は調子に乗ろうと思います!」


「はい、是非調子に乗って下さい」


 笑顔のフロレアに司会も笑顔でコメントして締めると、フロレアはそのままステージへ移動した。そうしてフロレアが立ち位置についたのを確認して、司会は曲振りをする。


「はい、それでは今日は調子に乗る蒼井フロレアで、『アンノウン・ブルー・ハート』です。どうぞ!」


 蒼井フロレアの長い前髪の間から見える彼女の右目は、自信に溢れ強く蒼く輝いていた。


 そんな彼女の熱唱を聞きながら、樹はただただ呆けるしかなかった。ソファの前のテーブルに置かれた樹のスマートフォンが、小蘭からのメッセージ着信でひっきりなしに震えていたのは、言うまでもない。

【トークルーム:おたすけ屋 (3)】


『おい』

『おい』

『おい!!!!!!!』

『Mスタ見てるかねえちょっと』

『ねえあれ』

『ねえ!!!!!!!!』

『私うそえっうそ』

『まって、、、、、、、』

『まって!!!』


「うるせえぞ小蘭おちつけ」


『おちつけない!!!!!!!』

『だってさだこさんつまり』


《蒼井フロレア本人だったんだな》


『アーーーーーーーー!!!!!』

『言わないで言わないで言わないで』

『現実を突きつけないで!!!!』

『と言うかお前らなんでそんなに冷静なの』

『取り乱せや!!!!!』


「お前見てたら冷静になったわ逆に」

「言ってもさっきのはビビったけど」


《逆に気づいてなかったのかお前ら》


「は?」


『はあん!?』

『俺は違うぞアピールか!?』

『喧嘩か!?ああん!?』


《あの人苗字アオイだったろ》

《蒼井フロレアと同じ》


『名前が同じならみんな蒼井ちゃんか??』

『おおん!?!?』


「なんでお前そんな喧嘩腰なんだよ」

「でも確かに鵺一の言う通りだな」


《あと歌》

《さっきの番組俺も見てたけど》

《今歌ってたのと比べても、あれどう聞いても本人だっただろ》

《上手すぎると思った》


『アーーーーーーーー!!!!!』

『つまり私は本人にリクエストを』

『は???何それ???』

『死んだ』


「顔が少しでも見えたら気付けたかもしれなかったな」

「ずっと隠してたからさ」


《それもあったんじゃないか?》

《照れ隠しとバレるのを防ぐためと》


『確かに似てるとは思ったのふいんきが!!!』

『ふいんき』

『ふいんき!!!!!』


「ふんいきな」


『雰囲気』

『でもオーラが全くなくて気づけないあんなの!!!』

『サイン貰えばよかった!!!』

『握手も!!!』

『あっでも私腕握った』

『隣にも座った』

『すごくいい匂いした』

『今日私は死ぬのか???』


《普通に発言が気持ち悪い》


『意味わかんない意味わかんない』

『無理 しんどみ』

『悟りすぎて今私埋葬されたファラオみたいなポーズしてる』


「なんでだよ」

「つーかお前の通知うるさい」

「ミュートするわ」

「ばいばい」


《俺もそうしよう》


『え待ってよ』


「右上のメニューからだぞ」


《出てきた、ありがとう樹》


『待てよ!!!』

『一人にしないで!!!』

『え本当にいなくなったの?』

『おおん!?!?!?』

『お前ら明日覚えてろよ!!!』


『おい既読スルーはやめろばか』

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