溶けてるけどね
ギルドを後にした俺達は、ユーリの後に付いて行き外に出ていた。
「そう言えば面と向かってお互い自己紹介がまだだったわね。私はユーリ、気軽にユーリ様って呼んでくれていいわ。」
そう言って長い銀髪をなびかせながらユーリは自己紹介をしてきた。全然気軽じゃない。
「分かったユーリ様、俺の名前は八坂一、気軽にはじめちゃんと呼んでくれ。こっちは妖精のシャラ。」
「よっろしくー!」
「分かっちゃったの!?そしてごめん、私は一って呼ばせてもらう。シャラもよろしく。」
「じゃあ改めてよろしくな、ユーリ様。」
「…よろしく。」
「ところでユーリ様?俺達は今どこに向かってるんだ?」
「……スライムは水辺に居ることが多いの、だから近くの湖に向かってるわ。」
「へー流石ユーリ様、詳しいんだな、いや流石だぜユーリ様!ありがとうユーリ様!!」
「ごめんなさいユーリでいいから普通に呼んで。」
最初からそう言えばいいんだ、呼ばれ慣れてない癖に。
謎の勝利の余韻に浸っているとシャラが肩をとんとんと叩いてきた。
「私は様付けで呼んでいいんだよ?」
「お前が俺の身長を越した時は呼んでやろう。」
「生物的に不可能っ!」
そう言ってシャラは落ち込みながら後ろをふよふよと飛びながら付いてくるようになった。そんなに落ち込む事なのか。
「そう言えば、一が昼に広場でのたうち回ってたのって…」
「あー、あれは、初めて能力を使ったら熱くてな、大変だったぜ。」
「まあ、せっかくの能力が…アレなのは同情するわ。魔法とかとは違って修行とかで手に入るものじゃ無いし。その、能力が全てじゃないから、冒険者は。」
「慰めはもういいよ、それにこの能力も明日になれば違う能力になるんだし。」
「何それ?どういう事?」
「俺の能力は1日ごとに違う能力が手に入る能力なんだとさ、んで、今日の能力は手が熱くなる能力って事。」
「何それ!それって凄い能力じゃない!日によっては最強の能力が手に入るってこと!?」
「最近はそう思ってたんだけど、初めての能力がこれだし、あまり期待できないんだよなぁ。」
「うーん、でも今日はたまたまハズレの能力の可能性もあるし、上手く噛み合えば使えるかしら、コイツ。」
ユーリは隣で何やらブツブツ言っていた。何か考えている様子だったが目の前に湖が見えてきたので、俺はもうすぐ始まるであろうスライムとの戦闘方が気になった。
「そういやユーリ、スライムってどんな見た目なんだ?」
「えーと、見てもらった方が早いけど、基本的に液体の中に丸いコアが入ってる感じね、ほら、居たわあれよ。」
ユーリの言った方を見ると、スライムが二匹、湖の近くで並んで移動しているのが見えた。
さっきもリザードマン等は見かけたが、改めていざモンスターを見ると、そして何よりそのモンスターと戦うんだと思うと、緊張感が増してきた。
「ちょうど二匹いるし、一匹は私がお手本を見せてあげる。」
しかしあのスライム、やけに距離が近いな、最初一匹かと見間違うほどにスライム達はくっついて移動していた。
「なあ、あの二匹やけにくっついてないか?合体でもするのか?」
「がっ…!なっ、何言ってんの!こんな場所でそんな事する訳無いじゃない!バカじゃないの!?」
ユーリは顔を真っ赤にして怒っていた。そんなに怒るような事俺言ったかな?
「じゃあスライムってのはあんなにくっついて移動する生き物なのか?」
「いいえ、スライムがあんなにくっついているって事はあの二匹、あれはカップルよ。」
「カップル?」
「見て、左のスライムが体の一部を伸ばして何かをプレゼントしているわ、多分左がオスね。」
「え?スライムに性別あんの?」
「あれはリボンね、拾ったのか冒険者から奪ったのかはたまた…とにかくリボンをメスにプレゼントしたわ。」
「溶けてるけどね。」
「そして見て、受け取ったメスも嬉しそうよ、ピョンピョン跳ねているわ。」
「リボン溶けてるけどね。」
「そしてさらにオスが何か取り出したわ…あれは指輪!きっとプロポーズして家族になろうって言ったのね、メスの方も受け取ったわ!婚約成立ね!」
「指輪溶けてるけどね。ってか待ておい!」
「何よ?」
「何よじゃねーよ!え?何?スライムってあんなに生活感ある生活してんの?人間と変わんないよ?寧ろ俺より充実しているよ?」
「一がどうなのかは知らないけど、スライムだって行きてんのよ?家族も居れば恋人…恋スラだって居るわ。」
「なんだよ恋スラって!いやいや、無理!今の幸せな感じ見せられてそれをぶち壊すなんて出来ないって!ほらあのメススライムまだピョンピョン跳ねてんじゃん!リボンは完全に溶けちゃったけど!」
「やらなきゃこっちがやられるのよ、覚悟を決めなさい!スライムだけじゃ無いわ!モンスター全てにそれぞれの生活があるの!私達人間と同じように!」
「嫌だあああ!異世界のこんな裏の事情なんて知りたくなかったああああ!!」
「仕方ないわね、私がメスをやる!」
そう言ってユーリはスライムの元へ走り、腰に装備している剣を抜き、スライムの元へ駆けて行った。
「はあぁっ!」
ユーリの威勢の良い声と共に放たれた一撃は、見事メススライムの核を真っ二つにした。
二つに割れた核は少し輝き、再び丸い核の形に戻ったが、それ以上の変化は無く、丸い核のみがそこには残った。
「と、まあこんな感じで、倒したモンスターはドロップアイテムに変わるわ。だから核を傷付けてもドロップアイテムに傷は付かないから安心して。」
「お前は悪魔か!!」
よくあの状況を見た後にそんな事できたな!
スライムの方を見てみると、ピタリと止まって動かない。
当然だ、目の前で彼女が殺されたら主人公なら覚醒しているところだ。
スライムはゆっくりと手のようなものを伸ばした。その先には、先程プレゼントした指輪があった。
今は亡き彼女の酸でほぼ溶けかけている指輪にスライムは手?を伸ばし、指輪を掴もうとした。
しかし、その指輪は自らの酸によって溶けて消えてしまった。
スライムは上を見上げてるように見える、もしスライムに発声器官があったなら悲痛な悲鳴を上げていただろう。
まさに声にならない叫びを上げていた。
これ俺達の方が悪役だよな完全に。




