天才剣姫ユーリ様!
「こほん、えーそれでは改めて紹介させていただきます。」
再び起きた癇癪を何とか落ち着かせたお姉さんは、改めてギルドの紹介と自己紹介に移った。
「私の名前はフィア、ここでは先輩の補佐をさせていただいてます。そして先輩の…」
「ミーニアと申します、ここでは冒険者のサポート、クエスト等を主に管理させていただいてます。」
さっきの出来事など、まるで起きていなかったかのように、ミーニア…さん達は紹介を始めた。しかしミーニアさんの口の中に入ってるチョコと手に持っているアメとグミとアイスが、さっきの出来事を抑えるのがどれだけ大変だったかを物語っている。
「じゃあ私、奥に行ってるね。アイス溶けちゃうし。」
「は、はい。」
そう言ってミーニアさん…いやもう呼び捨てでいいや、ミーニアは奥の方へ行ってしまった。なんだアイツ、結局この場をかき乱しただけじゃねえか。
「えっとぉ、いつもはたまに頼りになる先輩なんですよ?」
「さっきより頼りになる割合減ってない?」
するとさっきまで空を飛んでいたシャラが、俺の肩辺りまで近づいてきた。
「ねえねえ、アタシ、あの子よりちっちゃいのにしっかりしてるよ!褒めないの?ねえねえ!」
「そうだねー、シャラ様てんさーい。」
「やっほーい!褒められたー!わーいわーい!」
そう言ってシャラはまたギルド内を飛び回って行った。あの褒め方で満足なのだろうか。そもそもお前は小さいのが当たり前の生き物だろ?
こほんと、また一つ咳をつき、フィアさんは説明を始めた。多分彼女なりの気の取り直し方なのだろう。
「こほん、えー、冒険者登録の仕方なのですが、初めに試験を受けてもらいます。」
「試験?」
「はい、簡単な腕試しと言いますか、意味の無い長い問答より分かりやすくていい、という事で、ウチではこの方式をとらせてもらっています。」
「なるほど、んで?試験の内容は?」
「それは、スライムの核を一つ、ここへ持って来る事です。」
「スライムの核?」
「ええ、スライムの中心にある物なのですが、基本的に倒したら手に入る、ドロップアイテムです。」
つまりスライム一体を倒してその証をここに持って来いって事か、確かに下手なやり方よりは分かりやすいシステムだ。
「基本的にスライムは雑魚の部類に入りますが、油断していると命を取られる危険もあります。その為、この試験を受ける時は冒険者を一人、同行させるようにしています。不正の監視役も含めまして。」
確かに、スライムの核を持って来ても本当にその人が倒して手に入れた物なのか分からないしな。
危ない時は助けてくれる人であり、不正をさせない監視役って訳か。
「因みにその冒険者は?」
「それはその時ギルドに居る暇そうな人に適当に…あっ!ユーリさん、丁度良い所に!」
キョロキョロしながらフィアさんはそう言って、一人の女性、女騎士の方へと向かって行った。決め方そんなんでいいのか。
「うげっ、フィア!何の用よ…。」
「ギルドの従業員が話しかけてるんですよ?ギルド関係に決まってるじゃないですかっ。」
フィアさんの知り合いだろうか?フィアさんのテンションは上がっていたが、話しかけられた女性の方はあからさまにテンションが下がっていた。
「アンタがその声で話しかけてくる時はろくな事が無いのよ!言っとくけど、私は今忙しいの、装備の整備が終わったらクエストに出ないと行けないんだから。アンタの頼みを聞いてる暇は無いわよ。」
「そんな事言わないで下さいよー。幼馴染のよしみじゃないですかー。」
「いーやーよー!」
「お願い!天才剣姫ユーリ様!」
「なっ!………い、いつでもその台詞で私が動くと思ったら大間違いよ!」
「なっ!?ユーリさんが…褒めたのに頼みを聞いてくれないなんて…!」
いつもは動いているんだろうか、あんな台詞で、もしそうなら単純すぎないか?今のも満更じゃなかったし。
「えー、じゃあしょうがないですね。」
「ふう、どうやら今回は諦めてくれ…ちょっと何よ?」
安堵しているユーリとかいう人にフィアさんは近づいたかと思うと、耳元に口を近づけて何やら話している様子だった。
最初はムスッとしていた彼女の顔が驚き顔に変わり、徐々に青ざめていくのがここから見ていても分かった。
「な、なんでアンタがその事を…。」
「そんな事より、お願いがあるんですっ。」
「よ、要件は何かしら…?」
「さすがユーリさん、話が早くて助かります!」
「アンタ、いつか覚えてなさいよ…。」
「実はですね…。」
ここでやっと俺の紹介か、さっきフィアさんがユーリさんに何を言ったのか気になる所だが、ひとまずは俺のクエストについて行ってくれるかだ。
「えー!嫌よ!お守りクエストなんて!その辺の暇そうな冒険者に頼めばいいでしょ!?」
「だからその辺の冒険者さんに頼んでるんじゃないですか。」
「だっから私は暇じゃないって…!」
「えー、断るんですかー?」
「ぐっ…やらない、とは、言って、ない、でしょ。」
「そう言ってくれると思ってました。」
フィアさんは敵に回してはいけないな、うん。
「はぁ〜…んで、その冒険者ってのは何処?」
「はい、あちらに居る八坂一さんです。」
「どれどれ…んぬぇあっ!あ、アンタは…!」
発音しにくい驚き方をする娘さんだな、というか向こうは俺の事知ってそうな反応だな、俺は知らないけど。
「あら、お知り合いですか?」
「いいえ、さっき広場で見かけただけよ。」
広場?ああ、さっき能力を使った場所か、なるほど、さっき注目を浴びた時に見ていた一人か、そりゃそんな反応になるよな。
「よりによってアンタだなんて、一緒に居る所を見られるだけでもリスクがあるじゃない。」
「そんな事言わないでくれよ、えーと、天才剣姫ユーリ様?」
「んなっ!」
しまった、そこまで親しくない相手から言われるのは、流石に馬鹿にされてると気付くか。上手くフォローしないと…
「別に褒められても嬉しくない、けど、仕方ないわね、付いて行ってあげる。」
「うわちょろ。」
「ん?今何か言った?」
「いいや何も。」
異世界の住人褒め言葉に弱すぎだろ、さっきのシャラといい単純すぎないか?
まあいいや、付いて来てくれるなら、さっさとクリアして冒険者になってやるぜ!
「そういやアンタ、武器は持ってないの?」
そういや武器も必要だったな、あの能力じゃスライムは倒せそうにないし。
「いや、持ってない。」
「冒険者初心者にありがちね、流石に初心者が素手で倒すのは無茶よ。魔法か何か使えるならまだしも。」
「…一応能力は持ってる。」
「あら珍しいわね、最初から能力持ってるなんて、因みにどんな能力?」
「…手が。」
「ん?手が何?」
「手が…熱くなったり、します…。」
「それで?」
「…それだけ。」
「…。」
「…。」
この後ユーリは俺に短剣を貸してくれた。
口調は少しキツイが面倒見の良い優しい所もある奴なんだなと思った。
ただ、その優しさが、今の俺には痛かった。