俺の思ってた異世界と全然違う
炎とは言わないがこれも熱を持った一つの属性攻撃だ、この熱さなら充分ダメージを与えれッツイ!アッツイ!痛い痛い熱い熱い痛いアッツイ!
しかし初めて能力解放した時とは違い、今回は地面でのたうち回ってはいない。最初はあの熱さは不意打ちだった為、驚いてあんな事になったが、今はある程度覚悟をしていたので涙を流しながら悶える程度で済んだ。
左手で右手の肘近くの腕を握り必死に耐える、しかしふと思った。これもうスライムの攻撃躱せない。
そう思った時、俺の右手にスライムが張り付いた。
今までと違う行動をしていたのでスライムも様子を見ていたのだろうが、側から見たら右手を差し出している様にしか見えなかったようだ。
うん、スライムが俺の手に着いた。うん、つまり、だ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!溶けるゔゔゔゔゔゔ!!!!」
我ながら情けない叫び声を上げていただろう。
しかしあの消化速度を見た後だともう俺の右手は無くなったものと思っていたからだ。
誰だって片腕無くなると分かったら取り乱すに決まってる。
熱さと痛みと恐怖とで歪んだ俺の顔は、とても人に見せられるものでは無かっただろう。
しかし俺の右手は溶けずにスライムに包まれているままだった。
俺の右手は相変わらず無傷なままで相変わらず熱くて痛い。
えーとつまり、この熱くなった右手が熱くてそのおかげで痛くて右手が痛くてスライムの酸を守ってくれて熱くて痛くて熱い!!
色々考えたいが熱くて痛くて思考がまとまらない!
とにかく溶けないでいるのはこの右手のおかげという事だ。
それに右手の熱は効いているらしく、俺よりスライムの方が苦しんでいる様に見える。いや、俺も充分苦しんでいるんだが。
スライムは堪らず逃げようと俺の腕を離れようとした。
「そうは…いくかぁっ!」
俺は咄嗟にスライムのコアを掴んだ。
これ以上戦いを長引かせるつもりも無い、というか早くこの熱さから解放されたい!
やはりスライムはコアを中心に動いているらしく、コアを掴んだ瞬間に引っ張られる感覚があった。
すると急にコアが沸騰した水の様に泡を立て始めた。
スライムの苦しみも一層強まり必至になって逃げようとする。
「うおぉおおおおおおぁああああああ゛っ!!」
熱さに耐える力とスライムを逃すまいと抑える力で自然と声が出る、側から見たら地味な絵面だろう。しかし、等の本人達は大真面目の大勝負中である。
「これで…終わりだぁあああ!!」
そう言って俺は握る手により一層力を込めた。
その瞬間、手の輝きがより一層強く光り、スライムが光りに包まれたと思うと、周りの水が弾けて、コアのみが俺の手の中に残った。
「い゛い゛い゛い゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛っがい゛じょ゛ッ!!!!」
そしてその瞬間、今までとは比べ者にならない痛みが襲いかかった。断末魔を上げた後無意識に俺は解除と叫び、その場に蹲った。
もしスライムに再生能力があったらこのままだと危ない、そんな思考がよぎり慌てて手の中のコアに目を向けた。
俺の手の中には、スライムのコアはあったが先程とは違い、傷一つ無いコアが握られていた。
「ドロップ…アイテム…。勝った…のか…。」
初めての戦闘が勝利で終わった時、俺の一番の感情はやっと終わったという安堵感だった。
これが初めての戦闘か…理想では剣を持ってかっこよく敵を斬り伏せて勝利だったのが、現実は熱さと痛みに悶えながら涙と鼻水垂れ流して断末魔を上げて勝利。なんか…
「俺の思ってた異世界と全然違う…」
いや、異世界の生活はこれでスタートラインなんだ!
これで冒険者になれるんだから楽しい異世界生活はここから始まるんだ!
そうだ、ユーリにも一応お礼を言わないとな、あいつが居なかったらスライムは覚醒しなかったしレベルアップもしなかったからもっと楽に倒せて…
…いや、冒険者の厳しさを教えてくれた。うん、そういう事にして感謝しておこう。
「ユーリ、ありが…あれ?」
ユーリが凄い引いている、嫌悪感から哀れみやらいろんな負の感情が混ざり合った顔で俺の事を見ている。
ああそうか、さっきの戦いをユーリは見ていたんだもんな、顔をぐしょぐしょにして泣き叫びながらスライムと戦ってる奴なんて今まで居なかったんだろうそうだろう。
俺だってあんな戦い方したくなかったよちくしょう!
「ユーリ。」
「あ、あー、えっと、ごめんなさい。言い辛いんだけど、流石に気持ち悪くてちょっと見てられなくて…」
「言い辛いって言った割には一切躊躇わずに言ったな。」
「とにかく帰りましょ!これで晴れてあなたも冒険者の仲間入りよ!」
「なんかテンションで誤魔化されてる気はするが、そうだな、帰るか。」
「おつかれー、初仕事ごくろうさん!」
「結局お前は終始上空6メートルを維持していたな。」
「まーまー、気にしない気にしない!」
こんな感じで帰りはほのぼのと会話をしながら俺たちは帰路に着いた。