え?他に何か理由無いの?
俺の名前は谷坂一、高校生だ。
高校生活では彼女ができ、輝かしい青春ライフが待っていると思っていたのが1年前、今や彼女ができる気配どころか女友達すら出来ていない俺は、青春なんてのは爽やかに謳歌し駆け抜けるものではなく、慎まやかに教室の隅で寝たフリをするものと、自分の中で答えが出てからは、特に何をするでもなく日々を平凡に過ごしていた。
ソシャゲでガチャを回し、友達とそれの話をする、楽しみって訳でも無いが学校でよくする事と言えばこれくらいだ。しかし…
「またレアだ…。」
そう、俺はガチャの運が悪く、良いキャラや武器を引けた事などほとんど無かった。
最初は楽しんでやっていたゲームも、強いキャラが居ないと強い敵を倒せず、そのまま飽きてしまう。課金も金が無いからできない。
唯一の学校でのイベントも、最近はこのヒキ弱のせいで会話の内容が無くなっていた。
「なんか楽しい冒険、無いかなー?」
ため息をつきながら新しいゲーム、主にガチャ要素が無いゲームを探していたその時だった。
「…?、地面が光ってる?」
自分の立っている地面が急に光出し、徐々に魔方陣のような形に変わっていく、いや、光が弱まり魔方陣の形が見えるようになったのだ。
「楽しい冒険、ありますよ。」
そんな声が聞こえたと思ったら、地面に描かれていた魔方陣が再び輝き始め、光が俺を包んだ。
あ、別の世界行っちゃう感じか、これ。
光に包まれながら、意外にも冷静に、俺はそう思っていた。
光に包まれ前が見えない、眩しくて目が開けられず、しばらくその場に立っていると、
「もう目を開けても大丈夫ですよ。」
前から上品そうな声が聞こえ、その声の通りに俺は目を開けた。
そこには、水色の長い髪と見るからに上品なふわりと軽そうなローブを着ていて、しかしそれでいて顔は少し幼く、美しさと可愛さを兼ね備えたような女性が居た。
「あのー、ここは?」
最初に目の前の女性が視界に入ったので周りが見えていなかったが、周りは薄暗く目の前のテーブルと横にある謎の光る渦が、その空間に光を与えている。宇宙の一部を切り取って部屋を作ったらこんな感じになるのかな等と、下らない事を考えていると、
「ここは天界の召喚の間、貴方が住んでいた世界と、そことは異なる世界を行き来する為の場所です。」
と、目の前の天使のような人が答えてくれた。
「えっと…貴方は?」
「申し遅れました。私は天使ミラエル。この空間の管理を任されている者です。」
成る程、天使みたいな人じゃなくて天使だったようだ。何となくそんな気はしたが。
そしてこの後の展開も少し想像できた。天界だけに。
「貴方にはこれから向こうの世界に行き、冒険者として魔王を倒しに行ってほしいのです。」
やはりそう来たか。そりゃそうだ。現実と異世界を繋ぐ場所に連れて来て説明したら現実世界に戻す、なんていう意味不明な展開はまず無いしな。天界だけに。
そろそろ詰まらない事を思うのは止めようと思い、俺は最も気になっている事をミラエルさんに聞いてみた。
「どうして俺を?」
そう、何故俺が選ばれたか、だ。しかし、これも大体理由は想像できる。俺には勇者としての資格があり、救世主として異世界を助けて欲しい。と言ったところだろう。やれやれ、何の才能も無いと思っていた俺だったがその才能は現実世界では発揮できないものだったのか。それなら仕方ない、これからは最強の能力を持った勇者として異世界でその才能を十分に発揮していこうじゃないか。俺が世界を救ってやるぜ!ひゃっほうテンション上がってきた!!
「それは先程、貴方が冒険をしたいと申していたからです。」
…
……
………え?
「それだけ?え?他に何か理由無いの?」
「特には…無いですね。」
「いやいやいやいや!嘘だろ?何かしらあるでしょ?俺が選ばれた理由、伝説の剣の使い手とか、7属性の魔法全部使えるとか、そういう無双できる何かがさ?」
「特に戦闘能力で選ぶ事はありません。何故関係無い世界の貴方が異世界の剣に選ばれるのです?魔法は長年の修行を得て極めていくものです。修行は愚か一回も魔法を使用した事の無い貴方に才能とかあるわけ無いじゃないですか。」
全否定された。異世界に行く前に異世界での才能を全否定された。どうやら俺は本当にさっきの独り言が理由で異世界に行くらしい。嫌だ、もっとカッコいい理由が良い!
この天使だって何だ、ちょっと可愛くて乳がデカいからってさっきから色々言いやがって。
乳がデカいと思った時に天使がピクッと反応してるように見えたが見間違いだろうきっと。
コホンと一つ咳払いをして天使は話を続けた。
「今から異世界で生活する事になりますが、餞別として貴方に能力を一つあげましょう。」
再びテンション上がってきた!そうか、そっちのパターンか、俺に能力をくれるパターンだったか。他の才能はからっきし無いがそのユニークスキルで無双しろと、そういう事か。
もう選ばれた理由とかはどうでもよく、俺は今からから与えられる能力にワクワクしていた。
「貴方の能力は、“ガチャ”です」