火の神サラマンダー
観客席から颯爽と飛び降りてステージに立つ。
まさかこんな漫画みたいなカッコイイ事が出来るなんてと興奮しそうだったけど、目の前に立つ筋肉モリモリマッチョマンを見てなんとかその気持ちを抑え込んだ。
「やいやいサラマンダーさんよぉ、ウチのシャルルを危ない目にあわせるたぁどういう了見だコラァ!」
「闘司さん、こっちが恥ずかしいのでもう少し普通に喋ってくださいます?」
「すいませんでした。」
怒られたので少ししょんぼりする、とにかく切り替えていこう。
「ゴホン……えー、なんでいきなり魔法を放ってきたんだ、もう少しで沢山人が死ぬところだったんだぞ?」
「気になる事を確かめたかったのだ、お前はそれをたった今証明した。それと我は本当に当てるつもりで魔法を行使してはいない、直撃の寸前で魔法を消すことなど造作もないからな。」
は? だったらなんであんな真似を……ちょっと待てよ、俺が何か証明したとか言っていたな。
「はっ……もしかして!」
「逃がさぬぞ。」
「うぉ、熱っ!!?」
嫌な予想に辿り着きサラマンダーに背を向けて全力ダッシュで逃げようとしたら、目の前に炎の壁が現れて逃亡を阻止された。
くそ、ハメられた!
「一つ聞いていいか……?」
「いいだろう、して我に何を問う。」
「サラマンダーは、闘うのって好きか?」
俺の質問にサラマンダーはその暑苦しい顔をニッコリと笑顔へと変える、そして正解と言わんばかりに大きく頷いた。
「神という身であるために、ヒトなどの下の者達とは満足する闘いが出来ないのだ。思い出せる限りで全力でやり合ったのも、数百年前に水の神と争った時だからな。その時は少し地形が変わった。」
予想しうる限りの最悪の回答へと導かれつつある。
「なので仕方なく闘う者達の姿を見て気を紛らわしていたところに、お前を見つけたのだ。」
「見つけちゃったかぁ……。」
「我にも理解できない力の他に、水の神の気配をお前から感じる。なおさら身体が疼くというものだ。」
「サラマンダーはウンディーネの事が嫌いなのか?」
「奴は我等の創造神様に対して度が過ぎる行いをするからな、見ていて不快なのだ。」
ああ、なるほど。
やっぱりウンディーネの、神様に対しての病み具合は他の八神も異常だと思っていたのに安心した。
うひゃあ……今俺は猛烈にウンディーネの加護をもらったことを後悔してきてるぞ。
「さて転生者……いや八代闘司よ。話はここまでにして余興を始めようではないか、周りもそれを望んでいるぞ。」
「周り?」
観客席を見渡すと観客全員がこちらを見ながら、やれ早く闘えだのやれ楽しみにしてるぞなどと叫んでいるのを聞き取れる。
あれ、今サラマンダーが言った通り観客はコレを大会側の仕込みか何かだと思ってるのか!?
「これは逃げられぬな、諦めて闘え。」
「待ってくれ! お、俺はへっぽこだから八神のサラマンダーと闘うなんてとてもじゃないが無理だぞ!?」
「ハッハッハ、先程はそうだったな。だが今は違うみたいだぞ、我と同等……それか我以上だ。」
スキルの効果がこういった事態を招き入れるということを肝に銘じる事にした。
こうなったらやるしかないか……。
いや……やるしかないのか? もうちょっとこう上手い具合に逃げ出せたりしないかな?
「ダメそうだなぁ……。」
「観念してそこのリュリーティアと闘った時のような闘志を見せてみろ。」
サラマンダーには悪いが、それはリュリーティアさんとの闘いでしか出ないものなので無理だよ。
「とりあえずやるだけやってみるか……。」
「よし、そうこなくてはな。」
「ただし! さっき言った通り俺がサラマンダーに一発でも入れたら終了にしてくれ、いいよな?」
「構わん、我が一撃を入れられなければその分長く闘えるのだろう? 俄然力が入る。」
俺、大丈夫だろうか。
一発も入れられなくてサンドバッグにされないだろうか。
あれ? 今気づいたけどグリンダルさんとリュリーティアさんの2人がシャルルの居る観客席へと移動している。
「闘司さん頑張ってくださいませー。」
「闘司君、楽しみにしてるよ。」
「トージ無理しないでねー!」
呑気に応援されてしまった、シャルルは俺を気遣ってくれてるのでマジ天使というかそれだけで頑張れる。
「うわっ。」
サラマンダーから殺気のような濃密な圧を飛ばされる、段々焦れてきたのだと思うのでいい加減やるとするか。
「構えろ、ゆくぞ。」
初手からサラマンダーは遠慮がない、上から数百の火球で地面から湧き出るマグマに横からは極大の火炎放射、どれに当たっても炭化一直線コースだな。
「突っ切るなら、上か。」
上下左右逃げ場が無いなら一番突破しやすそうな上の火球を選ぼう、それと火には水で対抗するのが定番だな。
数百ある火球と同じ数の水球を作り出す、それを全部発射させながら氷の足場を空中に作り空へ飛び移って火炎放射を避けていく。
火球と水球がぶつかり合って上空に道が開かれるが、下のマグマが手を伸ばすように俺を飲み込もうと膨れ上がってきた。
それならば尽きることが無いと感じる程の魔力を潤沢に使い、マグマとサラマンダーが立つ一帯を凍らせて静止した氷の彫刻を作り上げる。
「どうだ……やっぱりダメか!」
「カァッ!!」
腕を組んだまま凍らされたサラマンダーは、その氷の拘束を大きな声と力を入れて膨らませた筋肉で全て粉砕した。
「見た目通りのことをするなよ!」
すぐさまこの上空から出来そうな有効な魔法を考える、すると一つやってみたいことを思い浮かべた。
「アクアドラゴン! いや水龍っていう名前の方がカッコイイかな……どっちでもいいや、とにかく喰らえ!」
自分の意思で自由自在に動かせる水の龍を生み出す、サラマンダーはそれを軽く避けるが水龍は追尾して襲いかかる。
「一方向の攻撃だけでは我には当たらないぞ。」
「分かってるさ。」
生物としてなら不可能なことでも魔法なら可能だ、サラマンダーをしつこく追いかける水龍の胴体から7つの頭と長い首を生やす。
「お手製ヤマタノオロチさんに進化だ!」
「愉快な魔法だな。」
8つの頭がサラマンダーに狙いを定めて飛びかかる。
「ヌン!」
サラマンダーが殴りつけただけで耳が痛くなりそうな程の破裂音を立てながら、水龍の一つの頭が弾け飛んだ。
続けざまに二つ三つと水龍の頭が水飛沫へと変えられていく。
「ほらどうした、8つあったのにもう残り僅かだぞ……む?」
「アイスミーティア!」
ステージ全体に影を落とす大きさの氷塊をサラマンダーに放つ。
「ハハハ素晴らしい、煌びやかさだけは水の神に匹敵するぞ。だが精度は甘い、炎爆。」
残りの水龍を消しながらサラマンダーが落ちてくる氷塊にそっと手のひらを沿わせる、すると氷の内側から爆発が起こり氷を宙に舞わせる小さな粒子へと変貌させた。
陽の光を反射させながらキラキラと輝いて降り注ぐ氷の粒子は、闘いを観戦してる観客を喜ばせる。
「さすがは八神様だ。」
「お前があってこそ出来たことだ。さて観客は喜ばせた、次は我を喜ばせよ。」
魔法じゃ埒があかないので接近戦をするとしよう、本当はしたくないけどな。
あの見た目じゃ絶対に肉弾戦とか得意だろ、むしろそっちが専門とか充分にありそうだ。
「大丈夫大丈夫……能力は俺が少し上なんだ、いけるいける……。」
「何をボソボソと、来ないならこちらからいくぞ。」
遠く離れた距離を一瞬で詰められた、普通なら知覚すらできない動きなのだろうけれど今の俺ならしっかりと見えるので問題ない。
「フンっ!」
サラマンダーが肩へと掴みかかろうとするのを手で弾いて防ぐ、カウンターとして足を踏み込んで肘を突き出して鳩尾へと叩き込もうとするがもう片方の手で受け止められる。
肘をそのまま掴みあげられて足が地面から離れる。俺はリュリーティアさんとの闘いで見た技を真似して、身体を捻って逃れつつ空中で回転蹴りをするが後ろにさがって避けられた。
地面に着地すると同時にサラマンダーの足が振りかぶっているのが目に入ったので後ろへ飛びさがる。
「ガァッ!」
「うそっ……。」
その蹴りは俺に向けられたものではなく、俺の立つ場所を大きく抉るために蹴られたものだった。
地面ごと俺は宙に飛ばされる、サラマンダーはそれに追いつき抉った地面を使って俺を押しつぶしてくる。
「ペチャンコは勘弁だ!」
挟まれる寸前にアクアクッションを発動して衝撃を和らげると共に、反動を利用してサラマンダーに抉れた地面を蹴り返す。
再び両者の距離が開くと同時に魔法を放つ、そんな攻防を幾度と繰り返していく。
未だに一発を打ち込めないことに焦りを覚える、真っ当に攻めるだけでは今みたいな状況になってしまうだけなのか。
頑張って奇策を練ろうとするが、残念な事に知力はありのままでちょっとも上がっていないようなのでマトモに案が浮かばない。
「あぁもうどうしようかな……ん?」
キラリと光るモノが視界に入った、どうやらそれはさっきの氷の粒子がまだ溶けていないで舞っていて、光を反射したものだったようだ。
「反射……そうか、これならいけるかもしれない。」
「ほう、考え事とは余裕そうだな。」
「うわ!?」
距離を詰めて仕掛けてくる蹴り上げに何とか防御を間に合わせた、上空に飛ばされつつも勢いが弱まって地面へと落ちようとしたところに背中が焼ける熱さを感じた。
「バースト」
目も眩む光量の極小の火球が爆発を起こした、俺の身体は上空に蹴りあげられた時とは桁違いの速度で地面へと叩きつけられて周囲に瓦礫と砂埃を撒き散らす。
ふざけんなサラマンダーのやつ……! 信じられないくらい痛いじゃねえかよ今の魔法、背中の感覚が一切ないんだけど一体どうなってるのか怖くて見れないじゃないか!
こうなったら意地でも一発を入れてこの闘いを直ぐにでもやめさせてやる。
それとさっきの案を実行するなら砂埃が舞っている今がチャンスだ。
「アイスパレス……なんか名前がしっくりこないから保留にしておこう。」
観客のみんなには見えなくなって申し訳ないが、俺とサラマンダーを氷の建物の中に閉じ込める。
「氷の城か、我は住めないな。」
火の神が氷の城にいるっていうギャップは面白いけどそんな事を考えている場合じゃない。
「さて、こんな所に我を閉じ込めて何がしたいのか興味があるな。」
仕掛けは全部発動している、後はボロを出さないように突撃あるのみ。
サラマンダーの元に一直線で駆ける、俺のその姿を確認したサラマンダーは拳を握って構えをつくる。
「ただの考え無しは愚の極みだが、お前のその目を見る限りそれは違うと分かる。ならば何を狙っているのか、この拳で確かめてみせよう!」
そして二人が衝突をする寸前、サラマンダーは突如横を向いて全力の正拳突きを繰り出した。
「むっ!?」
何故そんな行動をとったのか、そしてサラマンダーのとった行動の結果は、1枚の氷の鏡を粉々にする事となっていた。
「惜しいな、反対だよ。」
俺の前にある氷の鏡を消すと目の前にサラマンダーの無防備な背中がある、俺は同じように持ちうる全ての力を込めて腰の入ったパンチを捩じ込んだ。
「ぐぅっ……!」
ろくな防御も取れなかったサラマンダーはそのまま氷の城を突き破ってステージの壁まで吹き飛んでいった。
氷の城を消してサラマンダーの様子を確認しに向かう、さすがに一撃入っただけじゃ倒れないだろうけど念の為だ。
だがわざわざ出向くまでもなかった。サラマンダーは壁から這い出て起き上がり、大きな声で笑い出したからだ。
「ハハハハハ! 裏の裏をかかれてしまったか!」
「マジでサラマンダーがいきなり横に攻撃を始めた時は死んだかと思った……。」
「氷の鏡を作り出して反射した姿を写していたのは読めていたが、反射した姿をさらに反射させてたとはな。わざわざ馬鹿正直に立ち向かおうとした我の浅慮さが招いた結果がこれだ。」
全部説明してくれたので色々と捗ってしまったけど、つまりはそういうこと。
本当に万が一の事を考えて二重に反射させておいてよかったよ、じゃなきゃマトモにサラマンダーの正拳突きを喰らっていたところだった。
よし、とりあえず一発ぶん殴れたから気は晴れた。
闘技大会が終わったからもう闘うことは当分避けたかったのにこんな事になるとは思わなかった。
約束通り早く終わらせて帰らせてもらうぞ。
「それじゃあサラマンダー、俺が一発決めたから終わりに」「まだだ。」
胸ぐらを掴まれる、そのまま天高く投げ飛ばされた。
は? いやちょっと待てなんで俺は投げられたんだ。
それにサラマンダーのやつ、魔法を放とうとしているんだけど。
「おいおいサラマンダー!! もう終わっただろ!?」
「悪いがもう少し付き合ってもらうぞ、まだ闘いの興奮が冷めぬのだ。」
冗談じゃない、俺は一発いれた達成感と背中の感覚が無い気持ち悪さで戦意喪失してるんだ。
それにこれ以上やったって俺が勝つことはほぼない、痛めつけられて終わるのがオチだ。
そんな事を考えてる間にサラマンダーは手を掬い上げるように振り抜く。
合わせて炎が渦となって俺に巻き上がってくる、反応が遅れてしまったことにより直撃は避けられない。
痛みに耐えるように目をつぶってその時を待とうとする。
「そこまでじゃ、サラマンダー。」
熱はこない、それに感覚がおかしい。
浮遊感はいつの間にか無くなり、足が何かに着いている感触がある。
それに聞き覚えのある声が聴こえてきた、俺は恐る恐る目を開けて周りを見ることにした。
「え、あれ俺……いつの間に。」
「やっほ、会うのは久しぶりじゃの。」
「おわ! か、神様!」
コミカルな挨拶を交わしてきたのは神様だった、白髪白髭で杖を持っているおじいちゃんの姿をした神様。
どうやら俺を助けてくれたみたいだ、すっごい助かってしまった。
信仰心レベルが1上がった!
「ほう、それは何レベルまであるのじゃ?」
「ナチュラルに心を読むのは相変わらずですね。えーと、上限一万でちなみに今はレベル6です。」
「果てしない上限レベルの高さと、チミのワシに対する信仰心の低さにワシ激おこ。」
うーん、落ち着くなぁこのやり取り。
さっきまでピンチだったから余計に落ち着く。
「ゴホン、無駄話はここまでにするとして。ふむ……サラマンダーよ。」
「はっ!」
神様はウンディーネの時の対応と同じように、雰囲気をガラリと変えてサラマンダーを呼びつける。
「ワシの言いたいことは、お前なら分かってくれるはずじゃな?」
「は、はい……。」
「そうか。ならばワシは何も言わん、神が人間と約束を交わしたにも関わらずそれを神の方から一方的に反故にするなどという馬鹿な真似をワシがわざわざ止めに入ったなんて口が裂けても言わん。」
ねちっこい上司のいびり方だ。
「返す言葉も御座いません。興に乗って我を忘れた振る舞いを止めていただき感謝致します創造神様。」
「大いに反省するのじゃ。チミ、よかったのう。もう終わりにしても構わんぞ。」
「ありがとうございます神様、助かりました。」
「いいんじゃよ別に。ウンディーネちゃんの時に比べたらこれぐらい本当に楽じゃからのう……。」
サラマンダーはとても聞き分けが良くて助かると言わんばかりだ、実際ウンディーネの時の神様は死んだ目をしていたからな。
「すまなかった八代闘司。詫びと言ってはなんだがお前に……我の加護をやろう。」
「なんでいま一瞬ためらったのか分からないが、俺は別にサラマンダーの加護はいらないよ。どうせならリュリーティアさんにやってくれ。」
「む、そうか? 悪いが我もそっちの方が助かる、どうも我はお前の中にある水の神の気配が気に食わぬのだ。その点あのリュリーティアなら火の適性も高い、何より闘気や性格が我にとって好ましいからな。」
サラマンダーはリュリーティアさんをいたく気に入ったそうな、それに比べてウンディーネのことは相当嫌いみたいだ。
サラマンダーは観客席に手をかざす、リュリーティアさんの身体が赤い光に包まれてそのあとすぐに光は消えていった。
「よし、これで加護は授けた。それでは創造神様、お手を煩わせてしまい申し訳ありませんでした。」
「うむ。ではチミよ、ワシはまた天国に戻るとするわい。」
「あっはい、今回はありがとうございました。」
「じゃあの。」
そして神様はいなくなった、消えるのが一瞬なので何が何だか分からないのがとっても不思議だ。
そんじゃ神様のお陰で闘いも終わったし、他にすることといえば。
「観客への誤魔化し、かな……?」
ザワザワとしている観客に神様の事などをどうやって話したら上手く収拾がつくのだろうか、闘いで策を練ることより頭を使いそうな問題だ。




